【ライト純文学・音楽小説】ベートーベンとミストレス  ~僕は聞こえない。彼女は見えない~ #06【コピーガール】『COPPY GIRL』

小説もくじ です。

前回からの続き。

バトル展開です。

#06、『COPPY GIRL』

あるBARのピアノで超絶技巧を披露したYシャツの男。

『彼は勝てない』と、おっさんは言った。

どういう意味だろう。

「勝てない、ですか?」

「マネされる」

「?」

限られた言葉から推察するに、どうやらこれは何らかの勝負らしい。しかし、『マネ』とはどういう事だろう。まさか、演奏を丸ごとコピーされるわけでもあるまいに。

「……チリン」

思案していると、鈴の音。

(猫? ……白い猫だ)

どに隠れていたのか。一匹の白い猫が『とたとた』とやってきて、ジャンプ。ピアノの椅子へと飛び乗った。

次に、ギチギチと、杖をつく音がした。

見れば、怪しい小男が一人。

頭から足元まで届く黒いローブ。まるでカーテンをはぎ取って来たかのような野暮ったさ。着衣のフードが顔全体を覆っている。

ここからの角度では、顔がよく見えない。

ザ・不審者。洋RPGのアサシンという呼び名が似合いそうな風貌だ。
唯一分かるのは背格好。身長は、俺よりも少し低いぐらいである。
なんとなく、小男かと思ったが、ひょっとすると老婆かもしれない。

小男は猫の鈴が鳴った方へ歩みを進める。

小男はピアノの前に座り、

すぐ、演奏を始めた。

ショパンの練習曲、OP.10/4

つまり、先ほどのピアニストと同じ曲である。
そして、さっきの彼と同じように、テンポが速い。

同じ曲。
テクニック重視の速弾き。
ピアノの横に積まれた、三万円。

諭吉さんが三人だ。

ははん、わかった。

なるほど、これはピアノの勝負だ。

「わかりました。賭けてるんですね」

俺はおっさんに得意げに話しかけた。
おっさんはハイボールを飲みながら返事をする。

「その通り。では、どんな勝負かもわかるか?」

「簡単です。より良い演奏をした方が勝ち、という訳ですね」

課題曲が用意されていて、その曲を演奏し、より拍手を貰えた方が勝ち。……おおまか、そんなルールだろう。

俺の推理に、しかし、おっさんは二本目の煙草に火を付けながら応えた。

「残念だな。この勝負に課題曲はない」

どういう事だろうか。

課題曲なし。ということは、たまたま選曲が被ったという事だろうか。

「次に、これは演奏力の勝負じゃない。ただの純粋な、技術の勝負だ」

「技術?」

「すぐに分かる」

おっさんの言葉が分からない現象、その2。

どういう事だろう。演奏力も技術力も似たようなものではないか。

ふと、さきほど演奏した、男に目をやった。

彼は、目を丸くして、額に、シャツに、滝の様な汗をかいていた。
演奏を終えたプロが、平静を乱している。
たしかに、普通の弾き合いではないのかもしれない。

(ん?)

何かが起こっているらしい。
そして、

(に……!)

その瞬間、酔いは吹きとんだ。

(人間業じゃない!)

同じだ!

同じなのである。

曲も! テンポも!

いや、それだけじゃない。
速度、強弱の付け方、音の出し方、リットの取り方から、何から何まで一緒である。
まるでCDを2度再生したかのように、全てが全く同じ!

さっきの彼の演奏を、まるっとコピーしている。

挙句の果てに、ミスタッチまでそっくりそのままだ。

「気付いたか?」

おっさんが煙草の火をもみ消し、ニヤリと笑う。

「アイツは、なんでもコピーできる」

「そ、そんな……有り得ない」

「じゃあ、あいつがやってるあれはなんだ?」

理解不能としか言えない。

初めての曲を演奏する。
これは、音楽家ならそこまで難しい事ではない。『楽譜を初見で見て演奏する』初見演奏は音楽学校の入試でも良くある課題だ。

一度聞いただけの曲を演奏する。
これも、難易度は上がるが、不可能ではない。
絶対音感で音程を解析し、楽譜に起す技術。
それと初見演奏の技術を合わせれば、短い曲なら可能な奴もいるだろう。

だが、この小男がやっている事は違う。

曲の再現。それどころではない。ケタ違いだ。

演奏をまるまるコピーしている。

俺には分かる。
これは、人間離れした聴力と記憶力、覚えた演奏を際限なく再現するだけの技術力がなければ不可能だ。
なにしろ、ミスタッチすら再現している。

小男の演奏が終わった。

その瞬間、店中のあちこちから、大きな拍手と、パーフェクトの掛け声。

「あの子が演奏を完璧再現出来ていると思ったら、『パーフェクト』と、声を掛けてあげるの」

キュッキュと、皿を吹き上げる音と共に教えられる。見れば、ダンディーな姿をした男性がいる。この酒場のマスターだ。なるほど、それで勝ち負けを判定するらしい。

「ルールは簡単だ。マネされたら負け。マネできなかったら、勝ち」

『くそっ!』

悪態をついて、前に演奏した男が立ち上がった。そのまま振り返る事なく、酒代を大目に払って出て行った。

つまり、彼の負けだ。

小男の隣に座っていた白い猫が、三万円が置かれたテーブルに飛び乗り。

『な~』と鳴く。

鳴き声に反応し、小男は三万円を手に取った。

ローブの間からいっしゅん、紫がかった前髪が、ちらりと見えた。

いち、に、さんと、数えて懐へ。そして、再度カウンターの端へ、白杖をついて戻っていく

「……一回三万。俺の知る限り、勝てた奴はいねぇ」

言いながら、四本目の煙草に火をつける。ペースが速い。おっさんは中々のヘビースモーカーだ。

「私が知る限りでも、いないわねぇ」

ワイングラスをキュッキュと磨きながら、蝶ネクタイのマスターもオネェ口調で付け足した。マスターでも知らないと言う事は、イコール、無敗。という事だ。

「だが一人、わかんねぇのがいる」

「あら? だれかしら」

「学生だ。日本で一番ピアノが上手い学生。この前コンクールで優勝した奴。なぁマスター、そいつの名前分かるか?」

「学生? 知らないわぁ」

「不勉強だな、音楽Barやってんなら知ってろよ、『ひいらぎ たくと』って奴が取ったんだよ。まぁ、大会で一位だからって、一番のピアニストとは限らねぇが……」

マスターはグラスを壁の棚へ仕舞いながら答えた。

「残念だけど、ここは別に音楽Barじゃないわ。演奏の場を提供しているだけ。普段はただのBarよ。けれど、大会で一位。それはさぞかしお上手なんでしょうね。けど、あの子の敵じゃないと思うけど。プロを何人も負かしてるのよ?」

「それがな、マスター。俺はそいつの腕を勝ってるんだよ」

「なるほど。おじ様がそこまで言うのなら、私も気になってきちゃうわ。その『ひいらぎ』君っていう才能が、あの子にどこまで通じるのか。まぁ、その学生ちゃんが、うちの店に来ればの話だけどネっ」

「確かにそいつは問題だ。だがな、案外もう近くにいるかもしれんぜ? まぁ、この場に来たとして、あの演奏に尻尾を巻いて逃げ出すかもしれねぇが……どうだろう、やるかな?」

「そればかりは、彼に聞いてみないと分からないわね」

「なぁ、若いの。お前はどうおもう?」

飛んだ三文芝居だ。
良く見れば、バーカウンターの端に音楽雑誌が置かれている。

そこには、先日の大会で優勝した俺が(オマケに聖も)写真付きで乗っている。

おっさんは(おそらくマスターも)俺が誰なのか知ってて言っているのだ。

俺が柊卓也だと知っていて、ここへ連れてきたのだろう。勿論、遊び半分か興味本位で。

安い挑発である。この誘い、良く出来た大人ならすぐ流すのだろうが、

生憎、柊卓也は20歳。まだ大人になりたての身である

ここまで煽られて、どうなんでしょうとスルー出来るほど、まだ俺は人間が出来ていなかった。

そして俺は、

「彼が挑むかは知りませんが、俺もピアノには多少、覚えがあります」

『こいつ』に挑むことに決めた。

 

 

#07『天才VS天才』に つづく。

#05『よっぱらいに絡まれる夜は(以下略……)』← いっこまえ

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