【ライト純文学、音楽小説】 ベートーベンとミストレス ~僕は聞こえない。彼女は見えない~ #07『天才VS天才』

 

小説もくじ

前回からの続き。

 

#07、『天才 VS 天才』

「柊卓人がどうかは分かりませんが、俺もちょっと、ピアノには覚えがあります」

酔い覚ましだ。

俺は小男……謎のピアニストへ挑むことを決めた。

「おう、やるかい? 酔ってんじゃねえのか?」

「大丈夫です。もう覚めました」

「アラ演るの? 挑戦料は一回三万円、賞金は百万円。お金はあのテーブルへ置いて頂戴。選曲は自由よ。だけど、十分以内の曲でお願い。あと、鍵盤を滅茶苦茶に鳴らすナシね。聞く側が耳障りなの。それと、見事達成した場合は、二度目の挑戦は出来ないから、悪しからず」

マスターが丁寧に説明してくれた。
なんだか、縁日の屋台の説明みたいで面白い。

「じゃ、初めは俺が金を出してやるよ」

言って、おっさんがポケットからクシャクシャの諭吉を三枚取り出し、俺に手渡した。
「え……」

「ココに連れてきたのはおっちゃんだからな。気にするな。ま、気楽に弾けや」

言って、バンバンと背中を叩かれる。結構痛い。

席を立ち、ピアノへと向かう。

途中、小さな丸テーブルの上にクシャクシャの三万円を置く。
ピアノの椅子に座り、まずはピアノの音を確かめる事にした。

『ポーン』

『ラ』音を出す。よく調律されている。

店中の視線が集まるのを感じる。
ん、やはりこれはコンクールの緊張感に近い。

曲を決めなければ。

どの曲がいいだろう。

考えた末に俺は、オリジナルを一曲、披露する事にした。
ギシ、と椅子にもたれ掛り、モノクロの鍵盤に指を這わせ、
始める。

『――――――』

この曲は、世界中で俺以外、誰も知らない曲である。
作曲コンクール用に温めていたピアノ曲で、当然ながら未発表。
作曲、柊卓人。ちょっとした自信作である。

えへん。
しかし、こんなところで披露する事になるとは思わなかった。

『――――!』

演奏が終わる。

まさか、オリジナル曲を持ってくる奴なんていないだろう。
これで百万円が貰えるのなら、自作自演で初演をした甲斐があったというもの。
俺がピアノを離れると、黒猫がトコトコとやってきて、椅子に座る。
俺もおっさんが持つバーカウンターに戻った。
小男は、

カツカツと、リズミカルに白い杖で地面を叩きながら、ピアノの前へ向かった。

白杖。目の不自由な人が持つ杖だったはずだ。

手助けしなくても大丈夫だろうか。

俺の心配を余所に、小男はピアノに向かって指を伸ばし。

『ポーン』と、一つのキーを押した。

そのキーは、俺が調律を確かめた時と同じ音だ。

「ごめんねー、さっき言い忘れちゃったの」

と、後ろから、マスターが告げる。

「あのこね、本当にぜーんぶコピーしちゃうの。指ならしで音を鳴らすのは構わないけど、全部含めて十分以内でお願いね。ああ、先ほどの演奏は、音だし入れても十分以内だったから、構わないわ。次から気を付けてね」
「じ、次回以降って……」

「あらやだ。失言ね、ごめんあそばせ。では、演奏をお楽しみください」

そして、小男はそっくりそのまま、

見事に、

完璧に、

俺のオリジナル曲の、再演をした。

「あ、あ……」
開いた口が塞がらない。

自分の曲を聞いたのは初めてだ。

聴衆から拍手と、「パーフェクト!」という喝采が飛ぶ。

白い猫が諭吉が置かれたテーブルへ飛び乗り、チリンという音が鳴る。

つまり、俺の負けである。

彼女はぺこりとお辞儀をして、くしゃくしゃの三万円を伸ばして確かめると懐に仕舞った。

そして席に戻りぎわ、

「変な曲……」

と、無機質な小さな呟きが聞こえた。

「へ、……!」

変な曲とはずいぶんな言い草だ。一生懸命作ったのに!

めーっちゃ勉強したのに!

ああああ!

くやしい! くやしい!

さっきの一言で火がついてしまった。

俺は財布から諭吉の札を三枚を取り出し、勢いよく、テーブルに置いた。

今度は、正真正銘、紛う事なき自分の金だ。

「やってやらぁ!」

リベンジである。

選曲、選曲、選曲!
目を瞑って考える。

もはや、気楽に弾けるわけがない。

ガチでやる。

曲選びから、ガチで練り直す。

曲は重要だ。

何も考えずに挑めば、さっきの様に必ず負ける。
俺の前に挑戦した、あの男は決して下手ではなかった。むしろかなり高度な技術を持ったピアニストだ。俺のレパートリーの中で難しい曲と言えば、リストやプロコフィエフ、あとはベートーヴェン……。だが、この女は既に何人ものプロに勝っているという。単純に難易度の高い曲ではだめだろう。となると有効なのは、マイナーな曲、もしくは、オリジナルの曲が選択肢に入る。

が、

先の通り、オリジナルの曲はダメだった。

オリジナルの曲には別の問題がある。ジャッジを下す、聴衆の記憶力の問題だ。
ココは酒場だ。酔っている人間がほとんどである。二つの演奏を聞いて、全く同じでなくても、似たような演奏をするだけで『パーフェクト!』と叫んでしまう可能性がある。

なにか、突破口はないか。
俺は、ルールについて、再度考え直してみた。

『選曲は自由』

『十分以内の曲』

『滅茶苦茶に演奏するのは無し』

注目したのは、二つ目と三つ目だ。マスターは観客のせいにしているが、これは、演奏者の限界を表しているのかもしれない。

十分以内とデタラメな演奏の禁止、これが聞く側ではなく、小男の方に理由があるとすればどうだろう。記憶力や集中力の限界があるのかもしれない。もしくは、何かのイカサマをするために、このルールが必要……だとか。

記憶力の限界。

集中力の分散。

選曲の自由。
(よし、百万。獲りに行くぞ)
その事を念頭に置き、俺はある曲を選んだ。

#08『天才の正体』に つづく

#06『COPPY GIRL』←いっこまえ

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