【音楽小説】ベートーベンとミストレス  ~僕は聞こえない。彼女は見えない~ #11『なにすんじゃらもし』

 

小説もくじ

前回からの続き。

わかった。

こいつは、俺が失おうとしているものを、ぜんぶ持っているのだ。

#11『なにすんじゃらもし』

 

朝。

嵐のような一夜が去った後、俺は不意の一杯で酔いつぶれ、朝までBARの床で眠っていた。

敷布団代わりの段ボールに、

布団と呼ぶにはあまりに薄っぺらな、黒い布一枚。

そんな粗末な寝床で俺は、

自分が、素っ裸の少女と一緒に眠っていたのを認識した。。

 

「…………」

 

スヤスヤと、静かな吐息。

こいつは、昨日ピアノの勝負をした少女である。

つまり、今の今まで俺は裸の女と同衾していたわけで……。

ええと。

…………。

状況をしっかりと腹の中まで飲み込んだ俺は、

『『な、何すんじゃらもしいぃいいいいいいい!』』

そんな、どこの地方の言葉ともわからない悲鳴をあげた。

な、

なんで女がここに!?

なぜ裸?

ていうか、なんで俺裸!?

傍らを見れば、脱ぎ散らかされた俺のシャツとズボンと下着……。

何があったんだ、昨日の俺。
何をしたんだ、昨日の俺。

おおおお、おしえて、おしえて、おしーえてーおじいーさんー。

脳裏に浮かぶのは、

『泥酔音、未成年、淫行、逮捕』の絶望のワード。

なんだ。なにがおきた。

なにをした。

どうなるんだ、じぶん。どうしよう、おれ。

まだ、たいほ、されたくない。

ああああああ……。

そんな絶望的な未来を想像し、寝床で一人頭を抱えていると、

「寒い……」

という言葉とともに、少女の手がにゅーっと伸びてきて、俺の肩を掴み、寝床の中に引き戻した。

「わっぶ!」

ものすごい握力と腕っぷしの強さを感じた。

寝床へ引き戻され、黒い一枚布の中、後ろから抱きかかえられる。

「あったかい……zzz」

言葉で言い表せない、ものすごく柔らかい感覚に包まれる。

「なに、ちょ、この状況、なに!?」

「おもしろい。まるで二人で一つのいきものみたいね」

微笑ましい表情のマスターと目が合う。マスターはパジャマ姿で、鍋に入った何かをかき混ぜていた。

「マ、マスター、笑ってる場合じゃ……ええい、起きろ。そこのお前、起きろ!」

言いながら隣の女を揺さぶる。しかし、裸の女は「うにゅう」だの「うがー」だの唸るばかりで、まったく起きる気配がない。

「起きないわよ。その子、すっごく眠りが深いんだから。……あなた、湯たんぽか毛布代わりにされてるのよ」

「い、意味わかんないんですけど……」

「一つから説明してあげようか?」

「ぜひお願いします!」

「お酒一つで見事に酔っぱらったあなたが、夜の野獣と化し、勝負に負けた腹いせに幼げないその子を――」

ああああああああ。

俺は耳を両手でふさいで、絶叫。

「もういいやめて! 聞きたくない!」

再度、『逮捕』の二文字が脳裏に浮かぶ。

「ふふ、冗談よ」

やめて! そんな冗談! ドギマギしすぎて心臓止まっちゃう!

「勘弁してください。で、昨日俺はいったい何を……」

一応。お酒を誤飲したところまでは記憶がある。

昨晩のいざこざで、喉が渇いた俺は、ジュースと間違えて誰かの酒を飲み欲し、ノックダウンしたのだ。

「酔いぶれてたから、店の端っこで寝かせていたの。ただそれだけよ」

どうやら、あのあとはマスターに介抱してもらっていたらしい。

「や、それはどうも。ご迷惑をおかけしたみたいで」

手間をかけた事を謝り、謝辞を伝える。

が、まだこの(となりの)状況の説明にはなっていない。

「で、これは?」

と、一枚布の中で同衾している存在を指して言う。

紫がかった黒髪の、謎の少女だ。

「『しおん』よ。紫の音で、紫音。ここで寝泊まりしてるのよ、その娘」

この少女は、紫音というらしい。

「貴方は、湯たんぽにされてたの」

まったく意味が分からなない。

そーっと、再度、寝床を抜け出そうとする。しかし、「さむい……」の声とともに寝床の中に引き戻される。

「出られないんですけど」

「いいじゃない。かわいい女の子と一緒におねんねできるなんて」

「俺だって、そりゃ女性と一緒にいられるなら嬉しいですよ。でも、普通じゃないじゃないですか。この女」

「普通じゃない人間なんていないわ。だれでもどこか一か所、おかしなところがあるものよ」

「なんなんですか、こいつ。いったい何が目的なんです?」

カシャカシャと、マスターが鍋や調理器具を洗う。

「さぁ、もう7時だから、彼女に直接聞いてみたらどうかしら」

「7時?」

たしかに、柱時計を見れば、ちょうど時計が7時ちょうどを指していた。

そして、その瞬間。

パチクリ。

と、彼女の目が開いた。

焦点の合わない、ぼんやりとした目と、ばっちり向かい合う。

マンガか何かだと、ここで彼女が大きな悲鳴が上げるるような展開だが。

彼女は努めて平静の様子だった。

「おはよう、ますたー」

「おはよう、紫音ちゃん」

「寒い……」

「目の前の男から体温を貰いなさい」

「あったかい……」

なまなましい感触にぎゅっと圧迫される。

「なにこれ……」

「おとこよ。あなたが寝床に連れ込んだの」

「そう」

顔をベタベタ。

「へんなかお……」

「なんか、顔をめっちゃ触られながら、暴言吐かれたんですけど……」

そろそろ、怒っていいかな。俺。

あとこの女、なぜか言葉がカタコトだ。

「変な顔、変な顔……」

ビキビキ。

「変な顔、覚えた」

覚えられたらしい。

「離してくれ。服を着たい」

離れようと起き上がるが、ひしっと彼女が掴んで離さない。

「もう少し、まだ寒い」

まだ、離されない。

「……紫音といったか」

「そう」

「お前は何者なんだ?」

音大にだって、あれほど弾ける奴はいない。

「…………」

「おい」

「さっきあなたがいった。わたしは、しおん」

微妙に会話になっていない。

「どこでその技術を身に着けた? あそこまで複雑な演奏をコピーするなんて、相当な訓練が必要なはずだ。誰に教わった? 生まれは? コンクールは出たことあるのか?」

口から、矢継ぎ早に質問が飛び出す。
聞きたいことは山ほどあった。

「しつもん、いっぱい……」

「可哀そうよ。そんなにいっぺんに聞いても、紫音ちゃんは答えられないわ」

「…………」

「しつもんは、ひとつずつ」

「…………」

どうしてこんなに彼女のことが気になるのか。
聞きたいことが山ほどあるのか。
要領を得ない応答に、どうしてここまで苛々するのか。

神様が与えてくれたような、聴覚。

超人的な、演奏技術。

音楽家としての、輝かしい未来。

そうだ。

こいつは、俺が失おうとしているものを、ぜんぶ持っているのだ。

きっと俺は、こいつから、それを取り戻したいのだ。

「質問の前に、一つ頼みがある」

「なに?」

紫がかった黒髪の、焦点の合わない、濁った眼をした少女。
その少女の目を見て、俺は真摯にお願いをした。

「頼むから、起きて服を着てくれ」

[#12『清和聖(せいわひじり)の恋愛』]に つづく

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