音楽小説 『ベートーベンとミストレス』  ~僕は聞こえない。彼女は見えない~ #13『フルーティーゴリラ、愛を説く』

 

小説もくじ

前回からの続き。

 

#13『フルーティーゴリラ、愛を説く』

あーあー、いわんこっちゃない。

 

――――。

ぼくの名前は吉田好美(よしだ よしみ)。

好美。

女みたいな名前だ、と自分自身でも思う。

『生まれてくる子どもは、絶対に女の子に違いない』

そんな風に、なぜか思い込んだ両親がつけた名前だった。

名前だけではない。
そんな風に、育てられた。

「いってきまーす」

いつものように、少し屈んで家を出る。

背筋を伸ばしたままだと、玄関に頭をぶつけてしまうのだ。

カバンの中には、今日も相棒がいる。

『女の子のような名前を付けられ』

『女の子のように育てられ』

『女の子が受ける習い事を習い』

女の子が欲しい。

そんな風に育てられ、

そんな両親の希望とは裏腹に、

スクスクト育って育ちすぎ、身長は2mを超えた。

プロを目指す、音楽大生。

小心者で、恥ずかしがり屋の大男。

専攻する楽器は、フルート。

それが、ぼくだ。

『フルート』

多くの人が、金属製の横笛をイメージすると思われる。

銀色の、美しい横笛。

ヴァイオリンと並んで、お嬢様に持たせたい楽器のひとつだ。

ぼくは、『フルート』が好きだ。

美しい音が出て、見た目も綺麗。

金属製だが、見た目よりも軽く、

持ち運びも他の楽器に比べれば楽である。

文句があるとすれば、二つ。

一つは、水がすぐ溜まること。

もう一つは、軽いくせに、すこぶる方が肩が凝ることである。

こればっかりはどうしようもない。

また、オーボエほどメンテが面倒でないにしても、やはり数カ月に一度は手入れが必要となる。

今日はそのメンテナンスのために、都市近郊の大型ショッピングに来ている。

ここは、休日でにぎわうフードコートの一角。

「ほーんとに! ひどいんだから! タクトは!」

ぼくと清和さんは楽器を楽器店に預け、コーヒーを片手に楽しくおしゃべりをしていた。

「あはは、相変わらず仲が良いねー」

「良くない! ぜんっぜん良くないから! いっつも消えてほしいって思ってるから!」

清和さんは、世の理想を体現したような女の子だ。

遠目からもわかるような、すらっとした長身。

芸能人のように小さい顔に、涙袋を備えた、ぱっちりとした二重の瞼。

緩やかなウェーブを描く、品位を落とさない程度に染められた髪。

季節感を大切にしたファッションはオシャレで、隙がない。

ぱっと見た感じは美人で近寄りがたいのに、実際に話してみると、とっても気さくでフレンドリー。

音大生でヴァイオリンの演奏力も高く、学校からもプロの奏者からも将来を期待されている。

きっと、ぼくの両親はこんな風に育ってほしかったんだと思う。そんな、少しだけ複雑なところはあるけれど。

清和さんは、大柄なボクのことを怖がらずに接してくれる……

ありがたい友人の一人である。

そして、おそらく……

「だからね、タクトが入院した時も私は……」

「うんうん」

「あいつがロクにメールの返事も寄越さないせいで……」

「だねー、タクトはそういう所あるよね」

「でしょ! ほんっとにひどい奴なの!」

……というより間違いなく、ぼくたちの楽団の指揮者、卓人の事が好きなのだ。自覚はないのかも知れないが。

柊卓人は、ぼくらにとって、スターだ。

ピアノが弾けて、指揮がうまくて、音楽の事ならなんでも知っている。

そして、ヴァイオリンの清和さんとは幼馴染で、すごく仲が良い。

ぼくたち団員としては、いつ二人がくっつくのかなーと、ドギマギしながら見守っている。

なので、少しだけ意地悪な質問をしてみた。

「ねえ、清和さんとタクトって、まだ付き合ってないの?」」

もちろん、二人が付き合っていないのは分かっている。

ただ清和さんの反応が見たかっただけで、いわばジャブだ。

そして、その問いに対して清和さんは……、

『ぶふーっ!』

っと、口内の空中にコーヒーを散布し、顔を真っ赤にして取り乱すという、分かりやすすぎるほどに分かりやすい反応だった。

「つつつ、付き合うって! そんな!? ないない! アイツはそんな対象じゃないし!」

そんな対象だと思うけどなー。ほかの人はアウトオブ眼中って感じだし。
などとは口が裂けても言えない。

「えー、ぼくはいいと思うけどなー」

二人の夫婦漫才を見ていると、鶏が卵を温めている様のような、微笑ましい気持ちになるのだ。

もっと言えば、

というより、周りの団員から相談される身として、はできるだけ早くくっ付いて、白黒はっきりつけて欲しいというのもある(切実に)。

つい最近みたテレビドラマで、主人公のヒロインが自分の本当の気持ちに気付いたその瞬間、好きな男が別の女とくっついてしまったというものがあった。

そんな風に二人が『トンビに油揚げ』を食らわないか、心配している場面もある。

例えば、卓人が事故に遭った際、清和さんがドイツから、代理の指揮者を連れてきたことがそうだ。

正指揮者の卓人は、演奏会の帰りに事故に遭った。
大学のオーケストラとしては、指揮者がいないと練習ができない。
そこで、清和さんが見つけてきたのだ、代理の指揮者のショーンだ。

音楽団としては助かっているが、ぼく個人としては、どうかと思うところがある。

おそらく清和さんには、『卓人が留守中の演奏力の低下』や『他のタイプの指揮者と演奏することで、音の幅を広げる』等の目論見があったのだと思う。

その目算は一見すると成功しているけれど、ボクの目からすると、代理指揮者のショーンはどうみても、正指揮者の座に座ろうとしているし、

何より清和さんを、ただの音楽仲間以上の目で見ている気がする。

そういう点では、彼女の心遣いが空回りして、トラブルの種になっていないか、心配でもある。

「清和さん、あのね……」

そんなわけで、ドラマの話は出来ないが、意地悪をしたお詫びとして、ぼくは少しだけお節介を焼いた。

「だから、ちゃんと気持ちは伝えたほうがいいと思うよ。二人とも、不器用で素直じゃないから、どっちかが大人にならないと」

「大人に……うーん。……そうね。けれど……私、今まで恋愛とかそういう関係になった人がいないから、よくわからなくて……」

お、これはまんざらでもない返答だ。

「清和さんも、タクト以外に気になる人がいるわけでもないでしょ?」

「それは、まぁ。うん……でも、いきなり恋愛とか、そんな勇気、私には……」

「タクトと清和さんなら、いつものままで大丈夫だよ」

「ほんと? あの感じで良いの?」

「そうそう。あんまり重く考えないで、ケジメは大切だけどただお互いの意思を確認するだけだから」

「意思を確認……うん、それなら……いける、かも。」

「大丈夫。大丈夫。団のみんなも応援してるから! とりあえず、どこか、二人で遊びにいこって誘うといいんじゃないかな」

「……誘う……うん。わかった。やってみる」

清和さんは、頬を赤く染めてうなづいた。
恋する乙女になった彼女は、本当に可愛らしい。

そんな彼女の表情を見て、

(よし! 整った! あとはゴールを決めるだけ!)

ぼくは心の中でガッツポーズを決めた。

そして、

その数分後。

ぼくらは、あの光景を目にした。

謎の一枚布の少女が卓人と二人。

手を繋いで、ショッピングモールを闊歩しているそのさまを。

その様子を見てぼくは。

あーあ。いわんこっちゃない。

心の底から、そう思ったのだ。

 

#14[彼女への質問状]に つづく

#12[清和聖(せいわひじり)の恋愛]←いっこまえ

 

更新がギリギリになりまして、もうしわけございません。

 

今回と前回は、語り手と視点を変えまして、すこし箸休め的な回です。

次からはまた、紫音中心の話になるはずです。

楽しみにしてくださってる方、いつもありがとうございます。

 

さて、

世間はGWですね。

私も、社会人になって初のGWを迎えます。(これまではサービス業だったので、……察して下さい)

生憎、遊びにいくお金もないので、勉強したり、近場をドライブしたり、

自分のために時間を使いたいと思います。

 

みなさまも、どうかご自愛くださいませ。

 

よいGWを。       こたっちゃんより。

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全2件のコメント

  1. こたっちゃん(隔週金曜連載) 2016/05/01 23:56

    まるまさんへ
    コメントありがとうございます!
    そうなんです、今回は色んな視点から書いてみました。面白いと思って頂けて何よりです(о´∀`о)ノ

    不器用な彼らですから、第三者の方が彼らの事をちゃんと理解している。そんな所が伝わればありがたいですね( ̄ー ̄)

    暑なりましたねー。気温には充分気を付けます。
    まるまさんも良いGWをお過ごし下さい(* ̄∇ ̄*)

  2. まるま 2016/05/01 21:20

    こたっちゃんさん、いつもありがとうございます!毎回楽しみにしております(^^)

    箸休め的な回も面白かったですよ!いろいろな人の視点から物語を見るのも面白いですね。

    GW!楽しみたいものですね!
    暑くなってまいりましたのでこたっちゃんもご自愛くださいね。

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