何のために__その音が聴きたくて

何のためにそんなに練習するの。
あの日の誰かは、わたしにそう言った。何のため?さあ…
上手くはない
決して上手くはない
ぜんぜん上手くなんてない
でも弾き続ける。気づけばもう、12年以上経っていた。
もともとピアノの練習は苦痛でしかなかった。弾けたら確かに嬉しかった。でも音楽には、芸術には、なかなか理解の難しい感覚が存在する
5歳くらいのわたしに、それを理解するのは難しかった
そしてわたしは、当時から性格も効率も悪い子だった。
だから怒られる。叩かれる。大泣きする。うるさいから水に沈められる。

ツェルニーのカーニバル
この曲を聴くといろいろなことを思い出す。当時5歳の飽き性のわたしが、コンクールのために長く練習した曲のひとつだからだろうか
始終楽しげなメロディーで、心地よい時間の流れを感じる曲。当時も、もちろん今も、好きな曲。最後のフレーズに、この楽しげな心地よい時間が終わらないでほしいという寂しさが滲んでいる、そんな気がした。

ピアノの練習は苦痛だった。でもピアノの音色は、今と同じように大好きだった。

音色。難しい話だ。ピアニストになろうなんてこれっぽっちも思ったことはないのに、真剣に考える。ピアノは、譜読みをして強弱をつけていく。絵画で言うところの、下書きをして色をのせていく感じだろうか。でもその強弱は、ただの音の大小ではない。水彩画が、ただ赤とか青とかで塗り分けていくようなものではないように。いろんな筆を使って、いろんな色を使って、音を塗っていく。
つかみづらいイメージ。難しかった。
だから速い曲は好きだった。ポルカOp.210-13 これはカーニバルと同じ頃に、同じくコンクールのために練習していた曲。速くて、当時のわたしにとって感情をのせやすい気がして弾きやすかった。うまく筆と色を使い分けて音を塗れなくても、すぐに過ぎ去って次の音が色を塗られるのを待っているから。

何のために弾くの。そんなの、知らないよ…

_

時が過ぎて、気づけばわたしの年齢は二桁になっていた。

相変わらず苦痛の練習。でも辞めることは許されなかったし、辞めなくてよかったと思えている日が今きている。未来に何が起こるかなんて、分かったものじゃない。
マズルカOp.67-2とOp.7-1
年齢が二桁になってすぐくらいの頃、ステージで弾いた二曲。一曲目はゆったりとした曲だ。そう、わたしにとって苦手な曲。感情がのっていない、音がかたい、汚い、何度そう言われたことか。わからなくて、むしょうに何かが憎くて、二曲目の派手な曲では何かを爆発させて弾いた。弾き終わった後の息切れに自分で驚き呆れて。

何のために弾くの。知らないよ、難しすぎるよ…

_

苦手は苦手なまま、罵倒されながら、時はまた流れていく。

そして小学校最高学年となった頃に弾いた曲がある。シューベルトの即興曲Op.142-3だ。10分を超える曲。10分以上集中して弾き続けるのは難しい。最後まで集中しなさいと言われ続けた。でも曲とともに旅をするようになったのは、その頃かもしれない。自分から移動せずただじっとして音がやってくるのを待つのやめて、その音たちと、曲と、旅をした。最初は船に乗ってゆらりと出発し、どこか見知らぬ土地に上陸して見知らぬ人と出会い、話した。曲とともに旅をしていれば、未知のことを恐れずにいられた。ただただ、楽しかった。でも先生や親さんからの指導が入って、場所ごとに区切り同じ場所を繰り返し繰り返し練習することがよくあった。そうして、気付けば旅する風景は次第に薄れて、わたしはまた、じっとしたまま音を待つようになった。もう筆や絵の具を持ちたくもなかった。
しかし今でも覚えている。本番、ステージの上でピアノの前に座ったはずのわたしは、船に乗って出発した。見知らぬ土地で見知らぬ人と交流をした。船に乗って、荒れる海の中を突き進んだ。そして、冷たくてあたたかい岩の洞窟に入り、何かを諦めて穏やかな気持ちでゆっくり進んだ。次第に冷たさよりあたたかさをたくさん感じて、ゆっくり目を閉じた。
最後まで____Op.142-3という曲が終わるそのときまで、わたしはOp.142-3とともに旅をした。強烈な記憶である。

何のために弾くの。旅がしたいから、弾くのかな。

_

時折曲とももに旅をするようになったわたしは、その後も様々な曲を弾き続けた。指と腕の運動かのようにきついハノンやツェルニー、同じメロディーが右手にも左手にもなんども出てくる、「両手になると弾きづらい」とよく言われるバッハ、そしてショパンやモーツァルト、ベートーヴェンなどの長い曲。弾けるまでの時間は長くなったし、譜読みも大変になったし、弾いた後の疲労も大きくなった。でもわたしは、長い曲とともに旅をするのが心地よくて好きだった。
しかしやっぱり、ピアノの練習は苦痛で。
やろうとはしているのに、できてないと言われ続けるもどかしさ。イメージをつかもうとしているのに全くつかめないもどかしさ。そして、情けなさ。大人たちは、わたしが曲と旅をする余裕をどこかに片付けてしまった。もう、やめたい。
そんなときに、ベートーヴェンの悲愴第1楽章と出会う。
やりきれない気持ちを、絶望感を、最初の一音に込めて。もやもやとした気持ちの渦巻きとともに曲は進み、終結部には、展開部と同じ絶望感満載の音たちがいる。悲愴、まさに悲愴だ。そんな気がした。

何のために弾くの。曲に感情で八つ当たりしてるからかもしれないけど、弾くとスッキリするんだ。

_

座高が足りず椅子の上にクッションをおいて、大きなピアノを前に音を鳴らしていた幼い頃の自分。それから時は容赦なく過ぎていって、中学生になった。この頃ピアノを習うのをやめ、1年間はほとんどピアノに触れられない環境にいた。
すると驚いたことに、ピアノが弾きたいという思いがどんどん強くなっていく。そうして気づいたのだ、わたしは何だかんだ言いながらもピアノがないとやっていられないのだと。
中学時代、バッハをよく弾いた。好きな曲を訊かれたときは、バッハの曲を答えるようになった。特に好きだったのはフランス組曲6のアルマンドやガボット。バッハの曲は感情を込めて弾くというようなものではあまりないという。だからこそむしろ、弾きやすかったのかもしれないし楽しめたのかもしれない。

何のために弾くの。楽しいから。ただそれだけ。

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高校1年。そう、現在のわたしだ。勉強と部活でなかなか時間は取れないものの、今でもよく弾いている。そして、今まではあまり聴かなかったオーケストラも聴くようになった。
ショパンのエチュード10-4、これが今練習している曲だ。自分の実力よりも恐らくレベルは上で、その難しさから、曲とともに旅をする余裕なんてない。でも淡々とリズムを刻むメトロノームに合わせて音を自分に刻みつけていく、そんな弾きかたも、なんだか楽しいと思えるのだ。悲愴をまた1楽章から3楽章まで通して弾くこともある。あまり難しくないというのもあって、練習というより感情をのせる楽しみのために。ピアノを弾いているとき、わたしは日頃の生活環境の中にはいない。

何のために弾くの。楽しいから、日頃のストレスを忘れられるから。…たぶんね。

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何のためにそんなに練習するの。

はっきりとなんてわからない。ただ楽しみのためだけかもしれない。無意味かもしれない。でもね、別に理由なんてなくていいんじゃないかな、とも思うんだ。
ピアノと全く関わらない生活なんて、わたしはもう想像できないよ。
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理由って、いつもいつも必要なのかな。無意味だと思うことを排除したらもっと効率的に生きられるのかな。
でも、無意味なことを重ねて生きてきてるわたしは、論文書くわけじゃあるまいし、理由なんていつもいつもはなくていいという結論にたどり着いた。正しいか、正しくないか。そんなのは知らないし一生わからないだろうけれど。

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でも、いい。わたしは音楽が、ピアノが、ただただ好きなんだ

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意味があるとか、無意味だとか、そんなのどうでもよくなるくらい、ショパンのAllegro maestosoが今日も物凄い存在感を放っている。

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小説風に書きたかったけれどただの読みづらい長文乱文になってしまいました。ここまで読んでくださった方いらっしゃいましたら本当にありがとうございます。
ここで出させてもらった曲、お時間があればちょっと聴いてみてくださると嬉しいです。

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全1件のコメント

  1. ぬい 2018/01/25 18:40

    それに真剣にずっと付き合っていく
    だからこそその相手との関係を突き詰めてみたり
    なんのためにしてるのか分からなくなったり
    けれどそれと離れようと思えば離れられるのにそれにこだわるのは
    何とも言えない何かがあるのかもしれませんね

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