【音楽小説】ベートーベンとミストレス  ~僕は聞こえない。彼女は見えない~ #08『天才の正体』

お詫び。

金曜日投下予定のはずが、回線の不調などのためUPが遅れてしまいました。申し訳ございません。

 

小説もくじ

前回からの続き。

紫がかったセミロングの黒髪。

髪からまみえる、白い素肌。

そこにいるのは、まぎれもない少女だった。

#08、『天才の正体』

ごきごきと指を慣らし、深呼吸。

集中し、鍵盤に指を這わせ、

 

 

「――――!」

弾き始めた。

聴衆が皆、息を止めるように俺の演奏を注視しているのが分かる。

相手は、音を全て聞いてコピーする、凄腕ピアニスト。
その聴音力と技術力は脅威だが、突破口がないわけではない。

ぱっと考えた中で、思いついた攻略法は、

大きく分けて四つ。

①、飛びきりの高難易度曲を選ぶ。
難易度が複雑であれば、それだけ失敗の確率が上がる。

②、マネが出来ないぐらいの超絶技巧で弾く。
テンポを速くする。練習を重ねた、突き抜けた技巧ならば真似は困難だ。

③、知名度が高く、腕回しが複雑な曲を選ぶ。
失敗がすぐ分かる曲にする事は重要だ。そのうえで、小男には視覚上のハンディがあり、
腕を交差するタイミングが分からない筈である。

④、アレンジを加える。
相手がどんなレパートリーを持っているかは知らないが、曲を知っていても。否、知っていればこそ、アレンジを加えた再、元の曲に引っ張られる。

まぁ、こんなところだろう。

この選択肢のどの攻略法が有効かまでは分からない。
ただ、どれも試す価値はある。

そのため俺が取った戦略は、①から④の全てを行う事だった。

つまり、高難易度。超絶技巧。腕を交差。アレンジを加えて演奏する。
全部だ。
そして、それだけではない。
それを、一曲の中で『二つ』やる。

ルールは守っている。

曲は、十分以内なら自由だ。

別に、一曲という制限はない。

『二つの曲』を左右の手で、音楽が破たんしないように『同時』に弾く。

以前に俺は、『おふざけ』でそんな曲を練習した事があった。

そう、『おふざけ』である。

ゴドフスキー編曲の、ショパンのエチュードによる練習曲、47番『おふざけ』

ショパンの曲、『黒鍵』と『蝶々』を同時に弾く、ピアノ曲でも屈指の難曲である。

演奏が終わる。俺の演奏はさきほどより大きな拍手で迎えられた。

『ブラボー!』

歓声が飛ぶ。

弾き切った。

弾き切る事が出来た。

僅か数分の演奏だったが、消費する体力は大きい。小柄な体には辛いだろう。

お遊びにここまで全力を出すのは気が引けたが、俺にもプライドがある。

仮にも俺は、日本で一番ピアノが上手い学生だったのだ。

席を空けると、さっきと同じように猫が椅子へ飛び乗って来た。

チリンと、甲高い鈴の音がする。

小男が『カツカツ』と白杖で地面を叩き、ピアノの前に立った。

俺は、おっさんの隣に戻り、小男の演奏を待つ。

小男は、ピアノの前で戸惑っているようだった。

腕を上げ、鍵盤に指を這わせようとするが、

 

体はそこで止まっている。

小男は、ボーっとした様子で、しばし虚空を眺めていた。

まぁ、

さすがに無理だろう。

ギブアップした方がいい。

 

無理に弾こうとすれば、指を痛める。

『おふざけ』は初見の演奏はおろか、まともに弾くことすら困難だ。なにせ俺も、この『おふざけ』の演奏に半年は付き合っている。

フードを傾け、虚空を見つめる小男。

ついに、小男は、鍵盤から腕をおろし、声を発した。

『……ますたー』

抑揚のない、機械の様な無機質な声。

「大丈夫よ。今は顔見知りしかいない」

『そう』

最低限の短い会話。

そして、そいつは、頭のフードを外した。

 

紫音。 若干加工。 23歳匿名希望

 

紫がかった、セミロングの髪。

白砂の様に白い面肌。

着衣の一枚布を纏い直す。

彼女のそれは、漆黒のドレスのように装いを変えた。

お、

女……!?

怪しい小男は、謎の少女へと変貌した。

全身を黒いローブに覆われたような姿から、腕を片方ずつニョッキニョッキとだし、ローブを胸の上部までさげ、まるで漆黒のドレスのように装いを変える。

紫がかったセミロングの黒髪。

髪からまみえる、白い素肌。

そこにいるのは、まぎれもない少女だった。

ピアノを前にして、

虚空を眺める少女の瞳。

アッっと、俺が言葉を失っていると、

「あの子は全盲って言ってね。目がまったく見えないの」

後ろからマスターが説明した。
白状を持っていたことから、ある程度想像はしていたことだ。

「すごいわね」

「ええ、目が見えないのにあそこまで弾けるだなんて」

俺の言葉を、マスターは笑って否定する。

「そうじゃないわ」

「?」

「驚いたのはあなたよ」

「な、なにがです?」

「あの子がローブを外したの、初めてよ」

やるじゃない、あなた。と、マスターは付け足し、微笑んだ。

そして、彼女の演奏が始まる。

そして彼女は。

『おふざけ』を見事に弾き切った。

演奏が終わった瞬間。

『パーフェクト!』という叫びと共に、拍手が湧きあがる。

その演奏の凄まじさは、うっかりと俺まで「お、お見事……」と声を漏らしてしまうほどだった。諭吉と自信を失い、茫然自失となる。

そんな俺の様子が気に入ったのか、おっさんはまた『がっはっは』と豪快に笑った。変わらず酒臭い。

は、はは。

笑ってしまう。

「気落ちすんな。あの女が特別なだけだ、坊主が悪い訳じゃねーよ」

慰められるが、負った精神的ダメージが癒える事はない。ここまでコテンパンにされたのは正直、数年記憶にない。

「あの子は何者ですか?」

たまらず尋ねる。

『あの嬢ちゃんは……」

『!』

おっさんが何かを言いかけた時。バーの扉が勢いよく開かれた。

男が一人、うち開きのドアを蹴り開けた体勢で立っていた。

俺の前に勝負をしていたピアニストだ。

右手には大きな一升瓶。

血走った目で店内の椅子に座る少女を血走った目で睨み、早足で距離を詰める。

フーと猫が威嚇する。

「僕が負けるなんてありえないんだ。僕が負けるなんて!」

が、っと、男は左手で少女の右手を掴み、テーブルの上に固定。

一升瓶を持った手を振り上げ、

「…………!」
きゃ、と、店の女性客が息をのんだ瞬間。男は、
少女の手目がけ、掲げた酒瓶を振り下ろした。

 

#[狂気]に つづく

#[天才 VS 天才]←いっこまえ

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