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時計

閲覧数833 コメント数0 person退会したユーザー edit2019.02.18

ある朽ち果てた建物の中に埃まみれの机がある。
その中に、持ち主から忘れ去られた時計が静かに眠っている。
いや、眠ってはいない。
1秒1秒確かに時を刻んでいる。
真っ暗な引き出しの中で
昼も夜も、太陽輝く夏も雪の降る寒い冬も。
今も、多分これから先も誰にも見られる事もないのに
確かに時を刻んでいる。

でもいつか、電池が切れて静かに時を刻むことをやめるだろう。
時計はそれをどう思うだろう。
それを運命として静かに受け入れるのだろうか。
私はそんな時計になりたい。

「あっ、しまった」と思ったときはもう遅かった。
誤って屋根から落ちた。
歩くことも困難になった。
世界が180度変わってしまった。
脊髄損傷、もう治ることはない。
一日中下半身は痺れて痙攣している。
仕事もスポーツももちろんできない。

心のよりどころは妻だった。
しかし、彼女も怪我した後しばらくして
私から離れていってしまった。
彼女は悪くない。
悪いのはこんな体になった私だろう。
なぜなら私は16の時、アルバイトでの事故で
右手の指を4本失った。
若い頃のことだ、人に右手を見られるまいと
常に意識的に又は無意識的に右手を隠していた。
それでも彼女は私と一緒になることを選んでくれた。
それでまたこの怪我だ。
こんなことが二度も続くなんて。
自分でも笑ってしまいそうだ。
彼女は悪くないのだ。
もう夢は見たくない。
誰かとしゃべっても作り笑いはしても
心から笑うことはなくなった。
人と距離を置くようになり、人はだんだん離れていく。
そして何を見ても心が動かなくなった。

人に忘れさられた時計。
私はそんな時計になりたい。

又は、もう一度誰かに時を刻む時計として
見つけてもらえる日が来るのだろうか。
ささやかな夢でもみたくなる日が訪れるのだろうか。
人の笑顔が見たいと思う日が来るのだろうか。
人は私をどう思うのだろうか。
今の私には分からない。
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