心の支援に必要な「ケア」と「セラピー」
心の専門家たちは、相談者の心の問題と向き合うときに「ケア」と「セラピー」の2つを使い分けるようです。
ケアとセラピーは皆さんが相談対応する際にも自然とおこなっていることで、ケアとセラピーの違いを知ることで相談者に適切な対応をできる可能性が高まります。
ケアとは
- ケアの定義
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ケアとは、相手を傷つけない行為。
傷つけないために、相手の気持ちやニーズを理解して応えること。簡単に言えば、相手がしてほしいことをしてあげるのがケアです。
ケアについて
相手を傷つけないことがケアなのであれば何もしなければ良いように思ってしまいますが、相談者が「放っておいてほしくない」という気持ちを持っている場合だと何もしないことで相手を傷つけてしまいます。
だからケアをするためには相談者の気持ちやニーズを理解する必要があります。
相談者に関心を寄せ、相談者に質問をして、相談者の気持ちやニーズを深く理解し、相談者の気持ちに応えようとする行為がケアです。
ココトモ相談員の役割である『相談者を理解してあげる存在になること』はケアそのものなので、ココトモは相談者をケアする場所だと言えます。
ケアは、安全を確保し、生存を可能にするために必要なことだと言われています。
- ケアの具体例
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- 相談者の悩みを受け止め、否定せず、共感の言葉がけをする
- 相談者が自分の気持ちやニーズを整理できるように、また相談員が相談者の気持ちやニーズを理解するために、たくさん質問をする
- 「DVの専門相談窓口を知りたい」という相談者には、行政の窓口情報を送ってあげる
ケアの難しい点
ケアの難しい点は、「相手が何に傷つくか」「相手が何を求めているのか」分からないことです。
悩みが大きくて不安定な相談者ほど、最初の相談文のなかに自分の状況や気持ちを詳しく書くことなんてできません。
相談者本人でさえも自分が何を求めているのか分からないことが多いです。
ケアをするためには質問をして、一緒に相談者の気持ちやニーズを整理していく必要があります。
セラピーとは
- セラピーの定義
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セラピーとは、傷と向き合うことを目指す行為。
相手が傷を乗り越えられるようにサポートすること。簡単に言えば、相談者本人を変えて自立を促す行為がセラピーです。
セラピーについて
周りが相談者を支える行為がケアであるのにたいして、セラピーは相談者本人を変えようとする行為です。
そのためには相談者が自分の傷や現実と向き合う必要があるため、必然的にリスクが伴い、場合によっては相談者の傷を広げてしまうこともあります。
意見や助言は基本的にセラピーです。
また、相談者が自分の問題と向き合わなければいけない質問は質問であってもセラピーになります。
- セラピーの具体例
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- 「学校に行きたくなかったのは本当は体調不良のせいではないんじゃないの?」といった質問をする
- 「私が同じような経験をしたときはこんなふうに考えてみたら頑張れたよ」といった助言をする
- 「まずはXXXができるようになるまで一緒に頑張ってみましょうか」といった提案をする
セラピーの難しい点
セラピーの難しい点は、伝え方やタイミングによっては相手を傷つけてしまう可能性が高いことです。
本人に準備ができていないのに傷と向き合わせてしまうと余計に傷を広げてしまいます。
たとえば、頑張ることに疲れて休むためにココトモに訪れた相談者にたいして「一緒に頑張ろう」「考え方をポジティブに変えよう」などの言葉がけしたら余計に追い詰めてしまいますよね。
後にも書きますが、ケアなきセラピーは暴力になるということを覚えておいてください。
心の支援の鉄則は『ケアが先、セラピーは後』であること
ここまでの内容を読んでいただくと分かるとおり、セラピーをおこなう場合は必ず先にケアが必要です。
相手のことを深く理解することなしに適切なセラピー的行為はできないからです。
ケアが先であることは、臨床心理士、精神科医、カウンセラー、ソーシャルワーカーなど、心の支援をおこなうすべての職業で共通しています。
ケアは信頼関係を築く行為でもあります。
僕ら素人同士が相談にのりあう場合だと、相手との信頼関係を築くためにもまずはケア的行為が必要です。
誰だって「自分のことをよく知らないのにいきなり助言してくる人」よりも「自分に興味を持って色々聞いてくれたうえで助言してくれる人」のほうが嬉しいです。
信頼している人からの助言であれば、たとえ的外れであっても「自分のことを気にかけてくれる人がいる」と感じることができて嬉しいし、そういう相手の存在こそが支えになるんですよね。
なぜなら、心の問題の根っこには共通して「孤独」があるからです。
心の支援の鉄則は『ケアが先、セラピーは後』!
絶対に覚えておいてください。
おまけ
今回ケアとセラピーについて紹介させていただいたのは、僕自身がココトモの活動をつうじて感じてきた「心の寄り添い方」とピッタリ重なる部分が大きかったからです。
僕が2年間の相談対応をつうじて感じたことを書いた記事があるので、もし興味あればこちらも読んでいただけると嬉しいです(*´`)
- 相談マニュアル参考文献
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- 孤独の本質 つながりの力
- 聞く技術 聞いてもらう技術
- 居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書
- ふつうの相談
- 当事者主動サービスで学ぶピアサポート
- 精神障がいピアサポーター
- ピアスタッフとして働くヒント
- 人を助けるということ
- 臨床心理学の倫理を学ぶ
- カウンセラー 専門家としての条件
- 傾聴の基本
- ケアする人の対話スキルABCD
- 「死にたい」に現場で向き合う 自殺予防の最前線
- 「死にたい」と言われたら
- 自殺学入門 知っておきたい自殺対策の現状と課題
- いのちの電話を支える
- 電話相談の実際
- プロカウンセラーの共感の技術
- 精神科医はどのように話を聴くのか
- 野の医者は笑う 心の治療とは何か?
- ロジャーズ クライエント中心療法
- SNSカウンセリング・ハンドブック
- SNSカウンセリング・ケースブック
- テキストカウンセリング入門
- 遠隔心理支援スキルガイド
- クライシス・カウンセリング
- カウンセリングとは何か
- カウンセリングの話
- 新・カウンセリングの話
- 河合隼雄のカウンセリング教室
- 河合隼雄の"こころ" 教えることは寄り添うこと
- カウンセリングの実際
- 心をはなれて、人はよみがえる
- ころんで学ぶ心理療法
- 「自己発見」の心理学
- 精神科医の本音
- かかわりの途上で
- だれかに、話を聞いてもらったほうがいいんじゃない?
- なんでも見つかる夜に、こころだけが見つからない
- 心はどこへ消えた?
- ケアとは何か
- 物語としてのケア
- 社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法
- 望まない孤独
- 「死んでもいいけど、死んじゃだめ」と僕が言い続ける理由
- 臨床のフリコラージュ 心の支援の現在地