相談における守秘義務完全ガイド|傾聴ボランティア・ピアサポーター・カウンセラーが守るべき秘密と例外5つ

相談における守秘義務完全ガイド|傾聴ボランティア・ピアサポーター・カウンセラーが守るべき秘密と例外5つ

「相談してみたいけれど、話した内容が職場や家族に伝わったらどうしよう」
「傾聴ボランティアを始めたが、聴いた話を家に帰ってから家族にうっかり話してしまった。これってまずいのでは?」
「クライアントが『他害したい』と言い出した。守秘義務を破ってでも誰かに知らせるべきか、判断がつかない」

相談の現場で最初に立ち上がる、そして最後まで問われ続けるのが守秘義務(confidentiality)という土台です。秘密が守られるという信頼がなければ、人は本当の悩みを口にできません。逆に、秘密を守ることばかりに執着しすぎると、虐待・自殺・他害といった「秘密を守ることで誰かが死ぬ」事態に対応できなくなります。

守秘義務はカウンセラーだけの問題ではありません。ピアサポーター・傾聴ボランティア・自助グループのファシリテーター・電話相談員——他者の話を聴くすべての立場の人が、自分なりの仕方でこの倫理に向き合っています。同時に、相談する側にとっても「私の情報はどこまで守られるのか/例外はあるのか」を知っておくことは、安心して相談に踏み出す第一歩です。

この記事は、公認心理師法第41条・第46条、刑法第134条、児童虐待防止法、米国 Tarasoff 判決といった法的・倫理的根拠を踏まえつつ、ココトモが相談員プラットフォームの運営を通じて見てきた現場の声をもとに、「相談員側」と「相談者側」の双方に届く守秘義務の実践ガイドとしてまとめました。資格の有無にかかわらず、人の話を聴くすべての人へ届きますように。

📌 この記事でわかること

  • 守秘義務の正しい定義——専門職倫理の基盤と、Bordin の「治療同盟(working alliance)」を支える土台としての役割
  • 日本での法的位置づけ——公認心理師法 第41条・第46条、刑法第134条、各士業法、児童虐待防止法までを一望
  • 守秘義務の5つの例外——本人同意・自傷他害(Tarasoff 1976)・虐待通告・裁判所命令・チーム内共有
  • 傾聴ボランティア・ピアサポーターに法的守秘義務はないが、倫理的責務は同等という立場の整理
  • SNS・記録・スーパーバイズでの事例の扱い5原則、漏洩発生時の初動
  • 相談者側が初回に確認すべき5つの質問、二次被害・三角関係(家族への善意の漏洩)の防止策、FAQ6問

守秘義務とは|信頼関係(治療同盟)を支える専門職倫理の根幹

守秘義務(confidentiality)とは、「専門的な関係の中で得た情報を、本人の同意なく第三者に開示しない義務」を指します。カウンセリング・医療・法律相談・宗教的告解など、人が「ここでしか言えないこと」を語る場所には、必ずこの義務が前提として置かれています。

歴史的起源——ヒポクラテスの誓いに刻まれた古代の倫理

守秘義務の起源は古代ギリシアのヒポクラテスの誓い(紀元前5世紀頃)に遡ります。「医療に関連してであれ、医療外においてであれ、人々の生活に関して見たり聞いたりしたことは、漏らすべきでないものとし、そのような事柄は口にすべきでないこととして守る」——この一節が、現代まで続く守秘義務の文化的・倫理的源流です。
医療から始まったこの倫理は、その後カウンセリング・心理療法・法律相談・宗教的告解(confession)へと領域を拡大しました。「人が深い秘密を語れる場を社会の中に確保する」ことそのものが、文明にとっての必要装置だと位置づけられてきたのです。

治療同盟(working alliance)の土台——Bordin 1979

心理療法の研究者 Edward Bordin は1979年の論文「The generalizability of the psychoanalytic concept of the working alliance」で、心理療法の効果を左右する中核概念として「治療同盟(working alliance)」を提唱しました。治療同盟は①目標の合意、②課題の合意、③情緒的絆——の3要素で構成され、その「情緒的絆」を支える最大の柱が、秘密が守られるという信頼です。
研究では、治療同盟の強さがクライアントの転帰(アウトカム)と中程度から強い相関を持つことが繰り返し確認されています(Horvath & Symonds, 1991ほか)。守秘義務は単なるルールではなく、援助の効果そのものを生み出す装置であり、これが破られた瞬間、関係は機能を失います。

守秘義務は「相談者の権利」であり、相談員の義務

重要な視点として、守秘義務は「相談員側の義務」であると同時に「相談者側の権利」です。相談者は「自分の話が秘密として守られる」ことを当然に期待してよく、それを守ることが援助者の責任になります。この主従関係を取り違えると、援助者が「秘密にしてあげている」という上から目線になり、関係が歪みます。

出典:Edward Bordin「The generalizability of the psychoanalytic concept of the working alliance」(Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 16(3), 1979)/Horvath & Symonds「Relation between working alliance and outcome in psychotherapy: A meta-analysis」(Journal of Counseling Psychology, 1991)/ヒポクラテスの誓い(古代ギリシア医学倫理文書)

日本での法的位置づけ|公認心理師法・刑法・各士業法の条文を一望

日本では、守秘義務は職種ごとに異なる法律で規定されています。公認心理師は2017年に成立した国家資格であり、ここで初めて心理職に法的な守秘義務が課されました。

公認心理師法 第41条・第46条——心理職初の法的守秘義務

⚖️ 公認心理師法(2017年成立/2018年9月施行)

第41条(秘密保持義務):「公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。」
第46条(罰則):「第41条の規定に違反した者は、1年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。」
ポイントは2つ。①退職後・登録抹消後も継続して義務が課される、②親告罪(被害者の告訴がないと公訴提起できない)として刑事罰の対象になる、という点です。心理職にとって、守秘義務は単なる職業倫理ではなく「破れば前科がつき得る法的義務」に格上げされました。

臨床心理士の倫理綱領——日本臨床心理士会・日本心理臨床学会

国家資格である公認心理師とは別に、臨床心理士は1988年から続く民間資格であり、日本臨床心理士会・日本心理臨床学会の倫理綱領に守秘義務が明記されています。法的な罰則はありませんが、違反した場合は資格停止・取消などの団体内処分の対象となり、実務上は法的義務と同等の拘束力を持ちます。

医師・弁護士・宗教者などの守秘義務——刑法第134条

職種 根拠法 罰則 特徴
医師・薬剤師・助産師 刑法第134条第1項 6か月以下の懲役 or 10万円以下の罰金 刑法に直接規定。最古の守秘規定の一つ
弁護士・弁理士・公証人 刑法第134条第1項、弁護士法第23条 6か月以下の懲役 or 10万円以下の罰金 業務上知り得た秘密の保持。証言拒絶権あり
宗教者(神父・僧侶など) 刑法第134条第2項 同上 「宗教の職にある者」として明記。告解の秘密
公認心理師 公認心理師法 第41条・第46条 1年以下の懲役 or 30万円以下の罰金 2018年施行。心理職初の国家資格
看護師・保健師・助産師 保健師助産師看護師法 第42条の2・第44条の4 6か月以下の懲役 or 10万円以下の罰金 医療チーム内共有は前提として整理
社会福祉士・精神保健福祉士 社会福祉士及び介護福祉士法 第46条/精神保健福祉士法 第40条 1年以下の懲役 or 30万円以下の罰金 福祉領域の代表的国家資格
公務員 国家公務員法 第100条/地方公務員法 第34条 1年以下の懲役 or 50万円以下の罰金 退職後も継続。スクールカウンセラー兼任時に重要

このように、多くの援助職には何らかの法的守秘義務が課されているのが日本の実情です。スクールカウンセラーや公的機関の相談員は、職種としての守秘義務に加えて、公務員法上の守秘義務が重ねて課されるケースも少なくありません。

出典:公認心理師法(e-Gov法令検索)/刑法第134条/弁護士法第23条/保健師助産師看護師法/社会福祉士及び介護福祉士法/日本臨床心理士会 倫理綱領

守秘義務の5つの例外|「秘密を守ることが害になる」場面の判断基準

守秘義務には「絶対」はありません。本人または第三者の生命・身体に重大な危険が及ぶ場合、虐待が疑われる場合、法的に開示を命じられた場合などは、守秘よりも優先される利益があります。ここでは公認心理師法・米国 Tarasoff 判決・関連法令を踏まえ、現場で問われる5つの例外を整理します。

① 本人の同意がある場合

相談者本人が明示的に同意している場合は、同意の範囲で情報共有できる。「家族にも経過を伝えてよい」「学校に状況を伝えてほしい」などの同意は文書化するのが原則

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② 自傷・他害の明確で切迫した危険

本人や第三者の生命・身体に重大かつ切迫した危険がある場合は、必要最小限の情報を必要な機関(家族・救急・警察・精神保健福祉センター等)に共有できる。Tarasoff判決の核心

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③ 虐待の通告義務

児童虐待防止法第6条/高齢者虐待防止法第7条・第21条/障害者虐待防止法第7条で通告義務が定められている。守秘義務よりも通告義務が優先する旨が法文上明示されている

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④ 裁判所からの命令

裁判所からの証言命令・記録提出命令には応じる義務がある(民事訴訟法第197条・刑事訴訟法第149条で証言拒絶権の対象職種は限定列挙)。心理職の証言拒絶権は明文上限定的

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⑤ チーム内共有・多職種連携

医療・福祉・教育の現場では、多職種チーム内での情報共有は守秘義務違反にならない(「黙示の同意」の範囲)。ただし必要最小限事前説明が原則

① 本人の同意——「インフォームド・コンセント」の核心

最も基本的かつ強力な例外は本人の明示的同意です。「主治医と情報共有してよい」「家族に経過を伝えてよい」「学校のスクールカウンセラーに繋いでよい」など、相談者自身が同意した範囲では、援助者は情報を共有できます。
実務上のポイントは2つ。①同意は具体的に——「誰に・何を・どこまで・いつまで」を限定する。②同意は撤回可能——いつでも撤回できることを伝え、撤回の意思表示があった時点で共有を停止する。包括的な白紙委任は避けます。

② 自傷・他害——Tarasoff判決が定めた「警告義務」

🚨 Tarasoff v. Regents of the University of California(1976)

1969年、カリフォルニア大学バークレー校の学生プロセンジット・ポダールは、大学の心理セラピストに対し「タチアナ・タラソフを殺害したい」と告げました。セラピストは警察に通報したものの、被害者本人や家族には警告せず、その後ポダールはタラソフを殺害。遺族が大学を訴えたこの裁判で、カリフォルニア州最高裁は「セラピストには予見可能な被害者を保護する義務(duty to protect)がある」と判示しました。
この判決は世界中の心理職倫理に影響を与え、日本の公認心理師法第41条「正当な理由」にも、この「自他害の切迫した危険」が含まれると解されています。「秘密を守ることで誰かが死ぬ」事態は、守秘義務が破られるべき例外の代表です。

実務での判断基準は「具体性・切迫性・重大性」の3要素です。「死にたい気持ちがある」と「明日23時に屋上から飛び降りる予定で、もう遺書も書いた」では、対応が全く違います。後者のような具体的な計画・手段・時期がある場合は、家族・救急・主治医・精神保健福祉センター等への連絡を検討します。判断に迷う場合は必ずSV(スーパーバイザー)に相談し、独断を避けるのが原則です。

③ 虐待の通告義務——守秘義務よりも上位

日本では3つの虐待防止法が、それぞれ守秘義務との関係を明文化しています。
児童虐待防止法 第6条:「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」。同条第3項で「(他の法律の規定により)秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第1項の規定による通告をする義務の遵守を妨げるものと解釈してはならない」と明記。
高齢者虐待防止法 第7条・第21条障害者虐待防止法 第7条も同様の構造で、通告義務が守秘義務に優先することが法文上明らかにされています。
つまり、虐待を疑わせる事実を業務上知った場合、援助者は守秘義務を理由に通告を控えることは許されません。「疑い」の段階で通告でき、通告者の身元は児童相談所等によって保護されます。

④ 裁判所命令——証言拒絶権の限界

刑事訴訟法第149条は、医師・弁護士・公証人・宗教者などに業務上知り得た秘密に関する証言拒絶権を認めていますが、心理職(公認心理師・臨床心理士)はこの限定列挙に含まれていません。民事訴訟法第197条第1項第2号も同様の構造です。
実務上は、裁判所からの記録提出命令・証人出頭命令には応じる義務があり、応じない場合は刑事罰や過料の対象になり得ます。ただし、提出する情報は命令された範囲に限定することが大切で、不必要な情報まで開示しないよう、所属機関の法務部門や弁護士に相談しながら対応します。

⑤ チーム内共有・多職種連携——「黙示の同意」の範囲

医療機関・福祉施設・学校・職場のEAP(従業員支援プログラム)など、多職種チームで援助を行う場面では、必要な情報をチーム内で共有することが前提となります。これは個別の同意がなくても「サービス利用そのものが黙示の同意」として整理されますが、それでも実務上は次の3原則を守ります。

  • 事前説明——初回面接時に「医療チーム/学校教員/産業医とは必要に応じて情報共有する場合があります」と説明し、了承を得る
  • 必要最小限——共有するのは援助に必要な範囲に限定。「全部話す」ではなく「これを共有する目的は何か」を毎回確認
  • 共有先の限定——同じ医療機関でも、関係のない部署・職員への情報流出は守秘義務違反。共有範囲を明確化

スーパーバイズ(SV)も同様で、事例提示は個人が特定されないよう匿名化することが原則。SVを受けること自体は事前に相談者に伝えておくのがベストプラクティスです。

出典:Tarasoff v. Regents of the University of California, 17 Cal.3d 425(1976)/児童虐待の防止等に関する法律高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律/刑事訴訟法第149条/民事訴訟法第197条

傾聴ボランティア・ピアサポーターの場合|法はないが、倫理は同等

ここで多くの人が誤解する論点があります。「無資格者の方が守秘義務がゆるい・漏れる」というスティグマが、根強く流布しています。しかし現場の実態は逆で、よく訓練されたピアサポーターや傾聴ボランティアは、国家資格者と同等の倫理感覚で活動しています。

法的義務はないが、倫理的責務は同等

傾聴ボランティア・ピアサポーター・自助グループのファシリテーター・電話相談員(資格を要しないもの)には、個別の法律による守秘義務は課されていません。違反しても直接の刑事罰の対象にはなりません。
しかし、それは「漏らしてよい」を意味しません。多くの団体は誓約書・内規・倫理綱領で、活動を通じて知り得た情報の秘密保持を明文化しています。違反した場合は活動停止・除名・損害賠償請求の対象になり、刑事罰がないだけで倫理的・社会的責任は重く課されます。

団体ごとの誓約書・内規の典型例

  • いのちの電話——研修修了時に守秘義務に関する誓約書を提出。活動中に得た情報は本人特定情報も含めて家族・友人に話さないよう徹底
  • 傾聴ボランティア団体——活動先(施設・病院・自宅訪問)で知った情報は活動外で話題にしない、SNSへの投稿禁止、活動報告は匿名化
  • 自助グループ(AA・NA等)——「ここで聞いたことは、ここに置いていく(What’s said here, stays here)」が伝統的な約束。アノニミティ(匿名性)の原則
  • ピアサポート組織——担当者間の情報共有はSV・カンファレンスに限定、活動外での個別接触は禁止
  • 電話相談員(資格不問)——通話内容を録音禁止、メモは活動終了時にシュレッダー、家族にも内容を話さない

ココトモの立場——「資格の有無は倫理の高低を意味しない」

ココトモは、ピアサポート・傾聴ボランティアの現場に長く伴走してきた立場から、「資格がないから倫理がゆるい」というスティグマに明確に反対します。むしろ、無資格者は法による外的拘束がない分、自分自身の内的な倫理基準を意識的に育てる必要があると考えています。
「私には法律上の守秘義務はないけれど、目の前の人の信頼を裏切らない」——この内発的な倫理こそが、長く現場に立ち続けるための支柱になります。実践経験を積む過程でこの倫理感覚を体得することは、技法を学ぶこと以上に大切な営みです。傾聴ボランティアガイドでも、活動開始前に倫理綱領を読み込むことの重要性を強調しています。

SNS・記録の扱い5原則|「うっかり」が漏洩になる時代の備え

現代の守秘義務違反は、「悪意ある暴露」よりも「うっかりした投稿・共有」から発生しています。スマホ1台で世界に発信できる時代、援助者には「情報のハンドリング」そのものに対する自覚が必要です。

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    ① SNS匿名化投稿の落とし穴——「特定できる人にだけ特定できる」リスク

    「今日、〇〇な相談があった」と匿名化したつもりで投稿しても、相談者本人が読めば自分のことだと分かる場合があります。年齢・性別・地域・職業・出来事の特徴——複数組み合わせると個人特定が可能になる。原則として、業務で得た事例はSNSに投稿しないのが安全。創作的に変形する場合も、SV経験者の助言を得る

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    ② メモ・録音・録画の扱い——「保管」と「廃棄」の管理

    面接メモは個人名・所属を符号化し、自宅持ち帰り禁止が原則。クラウド保存はパスワード・二段階認証必須。録音は事前の同意がない限り行わず、目的(SV利用等)終了後は速やかに削除。録音データを私用クラウドに保存しないこと

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    ③ スーパーバイズでの事例提示——「教育目的」でも匿名化必須

    SVは守秘義務の例外として認められているが、それでも事例提示時は徹底的に匿名化。氏名・年齢・地域・職業のいずれかを少し変える、本質に関係ない要素を削るなどの工夫を。SV参加者にも守秘義務の網がかかる旨を冒頭で確認

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    ④ 退職・離任時の情報破棄——「持ち出し禁止」の徹底

    退職・異動・ボランティア卒業時は、個人的に持っているメモ・記録・データを完全に破棄。「いつか書籍に役立つかも」と保管する誘惑は重大なリスク。組織保管分のみを残し、個人保管分はゼロにする。公認心理師法第41条は「公認心理師でなくなった後も」守秘義務が継続すると明記

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    ⑤ 漏洩発生時の初動——「隠蔽せず、即報告」

    SNS誤投稿・PC紛失・メール誤送信などが起きたら、即座に所属組織に報告。隠蔽は事態を悪化させるだけ。本人への謝罪・原因究明・再発防止策の3点を組織と協議。個人情報保護委員会への報告義務が発生する場合もある(個人情報保護法)

相談者側の理解|初回に確認すべき5つの質問

ここからは相談する側に向けたパートです。「自分の情報がどう守られるか」を初回に確認することは、安心して相談に踏み出すための基本動作です。優れた援助者は、聞かれる前に説明してくれますが、説明がなければ自分から尋ねて構いません。

  • ① 「ここで話したことは、誰にどの範囲で共有されますか?」——スタッフ間共有・主治医連携・上司報告・親への連絡など、想定される共有先を最初に明示してもらう
  • ② 「家族や職場・学校に、内容が伝わることはありますか?」——会社のEAP・スクールカウンセラー・親が同伴の未成年面接など、組織的な情報フローを確認
  • ③ 「秘密が破られる例外はどんな場合ですか?」——自他害の危険・虐待・裁判所命令などの例外を、援助者の口から具体的に説明してもらう
  • ④ 「面接記録はどのように保管・廃棄されますか?」——電子カルテか紙か、保管期間、退職時の引き継ぎなど、記録のライフサイクルを尋ねる
  • ⑤ 「スーパーバイズや研修で事例として扱われることはありますか?」——専門職の成長のため必要な営みだが、事前説明があるかを確認

これらを尋ねることは「援助者を疑う」行為ではなく、「信頼関係を一緒に作る共同作業」です。質問を歓迎してくれる援助者ほど、守秘義務を真剣に扱っています。逆に、これらの質問にしどろもどろになったり「あなたを信じて」と精神論で押し返す援助者は、慎重に距離を取る判断材料になります。

未成年・要介護高齢者の場合——「親への共有」の取り扱い

未成年(特に中高生)が相談する場合、「親に知らせるかどうか」は常に難しい問題です。スクールカウンセラーは原則として本人の同意なく親には伝えない立場をとりますが、自傷・自殺リスクが高い場合は本人と話し合った上で親に共有することがあります。
要介護高齢者の場合も、家族介護者との情報共有は本人の同意が原則。認知症等で本人の同意能力が低下している場合は、ケアマネージャーや成年後見人を交えた判断が必要です。

二次被害・三角関係の防止|「善意の漏洩」が壊すもの

守秘義務違反は、悪意ある暴露よりも「善意の漏洩」から起きることがほとんどです。とくに援助関係に第三者(家族・友人・同僚)が絡む「三角関係」の中で、援助者が善意で動くほど秘密が漏れていく構造が頻発します。

典型例①——「お母さんを安心させたくて」家族に伝える

未成年・若年成人の相談で、心配する親が援助者に「子どもの様子を教えてください」と尋ねてくる場面。援助者が善意で「お元気ですよ」「最近笑顔が増えました」と返答することは、本人の同意なく情報を共有している状態であり、守秘義務違反に該当します。
本人が知れば「親と通じている」と感じ、信頼関係は一気に崩れます。正しい対応は「面接の内容は本人の同意なくお伝えできません。お母さまの心配は別に受け止める形で、必要なら別途ご相談を承ります」と役割と情報の線を引くこと。

典型例②——「職場で困っている同僚に役立つから」と他人に話す

傾聴ボランティアが帰宅後、家族との会話の中で「今日こういう話を聴いてね……」と何気なく語ってしまう場面。個人名を出さなくても、内容そのものが情報であり、特定の家族・友人が共通の知人を持つ場合は容易に身元が割れます。
対策はシンプルで、業務で得た情報は活動外で一切話題にしないを原則化すること。「今日疲れた」「重い話だった」までは話してよいが、内容には触れない。これがルールです。

典型例③——SV・ケースカンファでの「うっかり詳細」

SV・ケースカンファレンスは守秘義務の例外として認められていますが、過剰に詳細な情報共有は不要です。「30代女性、配偶者の不貞で抑うつ状態」程度の情報で十分なケースに、職業・出身地・配偶者の勤務先まで提示してしまうと、参加者の中に共通の知人がいる場合、特定リスクが跳ね上がります。「援助方針の検討に必要な情報か?」を毎回問い直す習慣が、漏洩を防ぎます。

体験談|守秘義務をめぐる3つの物語

💬 ① 通告義務と守秘義務の狭間で揺れた(30代・スクールカウンセラー)

「中3の生徒から『家で叩かれている』と打ち明けられました。『先生にだけ話したから、誰にも言わないで』と懇願され、私自身も子どもの信頼を裏切れない思いと、児童虐待防止法第6条の通告義務との間で激しく揺れました。SVに相談し、生徒には『あなたを守るためには、児童相談所にも力を借りる必要がある。一緒に行こう』と話して、本人の不安に寄り添いながら通告。結果として家庭への介入が入り、生徒は『先生が動いてくれて良かった』と数か月後に話してくれました」(180字)

💬 ② 善意のSNS投稿で守秘義務違反になりかけた(20代・ピアサポーター)

「ピアサポートの活動で印象に残ったやり取りを、自分のX(旧Twitter)に『今日こんな素敵な話を聴いた』と匿名化して投稿しました。翌日、相談者本人から『あれ、私のことですよね』とメッセージが。慌てて削除し謝罪、SVと所属団体に報告しました。匿名化したつもりが、年齢・職業・地域の組み合わせで完全に特定されていた。それ以降、業務で得た事例は一切SNSに書かないというルールを徹底しています」(175字)

💬 ③ 「家族にも秘密」と言われたが、自殺リスクで判断した(40代・公認心理師)

「30代男性のクライアントから『家族には絶対に言わないでほしい』と希死念慮を打ち明けられました。聞き取るうち、具体的な計画と日時、場所まで決まっていることが分かり、私は『あなたの命を守るために、ご家族とも連絡を取らせてください』と告げました。クライアントは最初強く反発しましたが、最終的に同意。緊急的に家族と医療機関を巻き込んだ結果、措置入院は避けつつ自宅で見守れる体制が作れました。守秘義務の例外を行使する判断は重いが、命の前では優先順位がはっきりします」(200字)

よくある質問|守秘義務Q&A 6問

Q1. 相談員に話した内容が、家族や職場に伝わることはありますか?

原則として本人の同意なく第三者に伝えられることはありません。例外は、自傷・他害の切迫した危険、虐待の通告義務、裁判所命令、同じ組織内での援助チーム共有(事前説明あり)の場合に限られます。職場のEAP(従業員支援プログラム)の場合、企業の人事部門には個別の相談内容は共有されないのが一般的ですが、初回に必ず「会社にどこまで伝わりますか?」を確認しておくと安心です。

Q2. 公認心理師は守秘義務を破ると、本当に逮捕されるのですか?

公認心理師法第46条で1年以下の懲役または30万円以下の罰金と定められており、刑事罰の対象です。ただし親告罪のため、被害者(相談者)からの告訴がないと公訴提起できません。実務上は、刑事罰よりも先に登録取消・名称使用停止などの行政処分や、民事の損害賠償請求、所属機関からの懲戒解雇など、複数のリスクが同時に発生します。「逮捕されるかどうか」より「人生のキャリアが終わる」と捉えるのが現実的です。

Q3. 傾聴ボランティアには法的守秘義務がないと聞きました。安心して相談していいの?

法的義務はなくとも、所属団体の内規・誓約書・倫理綱領によって守秘が課されており、違反すれば活動停止・除名・損害賠償の対象になります。よく訓練されたボランティアは資格者と同等の倫理感覚で活動しており、「無資格者の方が漏れる」というのは多くの場合、偏見です。心配な場合は、活動先団体に「守秘義務はどう扱っていますか」と直接尋ねるのが最も確実。誠実な団体ほど明確に答えてくれます。詳しくは傾聴ボランティアガイドを参照。

Q4. クライアントが「他害したい」と言い出した時、私はどう動けばいい?

Tarasoff判決および公認心理師法第41条「正当な理由」の典型例です。判断基準は「具体性・切迫性・重大性」の3要素。①具体的な対象が特定されているか、②計画・手段・時期があるか、③重大な危害(生命・身体)が想定されるか。3要素が揃う場合、警察・予見可能な被害者への警告・所属機関への報告などを検討します。独断は禁忌で、必ずSV・所属機関の上司・必要なら弁護士に相談しながら動きます。詳しくは境界線ガイドと合わせて参照を。

Q5. SVや研修で自分の事例が共有されているかもしれないと不安です。事前に確認できますか?

確認して構いません。初回面接で「あなたの事例がSVや研修で扱われることはありますか?」と尋ねれば、誠実な援助者は「個人が特定されない形で、援助方針を検討するために匿名化して共有する場合があります」と説明してくれます。SVは援助の質を保つために不可欠であり、援助者の独断を防ぐ装置でもあるので、適切に運用されているSVは相談者にとっても利益になる、という理解が現代的なスタンスです。詳しくはスーパービジョンガイドを参照。

Q6. 過去に相談員に話した内容が、退職後の元相談員から漏れることはある?

公認心理師法第41条は「公認心理師でなくなった後においても、同様とする」と明記しており、退職後・登録抹消後も守秘義務は生涯継続します。違反すれば罰則の対象です。臨床心理士・社会福祉士・精神保健福祉士なども同様の規定があります。傾聴ボランティアの場合は法的義務はないものの、多くの団体は誓約書で活動終了後の守秘義務継続を明文化しています。万一漏れが疑われる場合は、所属していた団体・職能団体(日本臨床心理士会等)・個人情報保護委員会に相談する道があります。

あわせて読みたい|守秘義務を支える周辺知識

参照元:公認心理師法(e-Gov法令検索) 第41条・第46条/刑法第134条/児童虐待の防止等に関する法律 第6条/高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律 第7条・第21条/障害者虐待の防止、障害者の養護者に対する支援等に関する法律 第7条/刑事訴訟法第149条/民事訴訟法第197条/個人情報の保護に関する法律/Tarasoff v. Regents of the University of California, 17 Cal.3d 425(1976)/Edward Bordin「The generalizability of the psychoanalytic concept of the working alliance」(Psychotherapy: Theory, Research & Practice, 16(3), 252-260, 1979)/Horvath & Symonds「Relation between working alliance and outcome in psychotherapy: A meta-analysis」(Journal of Counseling Psychology, 38(2), 139-149, 1991)/日本心理臨床学会 倫理綱領/日本臨床心理士会 倫理綱領/日本公認心理師協会 倫理基準/ヒポクラテスの誓い(古代ギリシア医学倫理文書)(いずれも2026年5月時点。法令・倫理綱領は改訂されることがあるため、最新版は各公式サイトでご確認ください)

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