ユキの日記『サリン事件を知ってる小学生。』

こんばんは、ユキです。

フリースクールにて。
職員に「あの子、1人で遊んでるから相手してやって」と、指示されました。

職員の目的は分かっています。
ちょっと気難しい子で、お話しが上手に出来ないから。

私「〇〇くん、何してるの?」
男児「試験管を作ろうと思って、ストローで工作してる」
「試験管で、どんな実験やるの?」
「毒薬をたくさん作って、駅でバラまく」
あら、別のフリースクールから転校してきたけど、
ここのフリースクールでも友達できなくて、ストレス溜まり気味かな。

「なんで、そうしようと思ったの?」
「昔、地下鉄サリン事件あったじゃん。あれみたいに、試験管に毒薬入れて、駅でバラまいてみたい」

「あの事件でさ、たくさんの人が死んだの知ってる?」
「知ってる」

「じゃあさ、〇〇くんのお母さんが毒薬で死んじゃったら、〇〇くんはどう思う?」
「僕は悲しくて淋しいよ。でも、お母さんは僕のこと『ウザい』って言うから、僕のこと嫌いなんだと思う」

「〇〇くんがお母さんのことを大切に思ってるように、ユキ先生は〇〇くんのことを大切に思ってるよ」
「ほんとに? どうせウソでしょ」
「ウソじゃないよ」
そっと男児の身体を引き寄せて、同じ目線にひざまずいて、抱きしめた。

「ほんとに、◯◯くんのこと、大切なひとだと思ってるよ」
私のアゴの上に乗せた顔で、どんな表情を浮かべていたのかは、分からない。
「だから、〇〇くんが毒薬を駅でバラまいて、人を殺して、警察に捕まってほしくないんだよ。ユキ先生はね、また明日、〇〇くんとココのフリースクールで『おはよう!』って逢いたいよ」
「ほんとに?」
「ウソだと思う?」

「・・・ほんとかもしれない、って思った」
「ありがとう。そう思ってもらえて、信じてくれて、ユキ先生は嬉しいよ」

「じゃあ、毒薬はやめとこうかな。明日、ユキ先生に会えなくなるし」

抱きしめた身体を離し、目を見て言った。

「また明日、ココで逢おうね。〇〇くんが来てくれるの、楽しみに待ってるからね」
「僕が来て、ウザくないの?」
「さっき言ったじゃん。『◯◯くんのこと、大切なひとだと思ってるよ』って」

「大切な人って、なに?」
「居なくなったら、悲しいし淋しい人。例えば、〇〇くんのお母さんとか」
「あぁ、そういう意味か。ユキ先生は、僕のこと、そんなふうに思ってるの?」
「そうだよ」
「どうして?」

「〇〇くんのことが大好きだからだよ」
そう言って、もう1度、抱きしめた。

「もー、恥ずかしいから、やめてー」
「ねぇ〇〇くん、いま、どんな気持ち?」

「えー・・・うーん・・・すごく嬉しい」
「今の気持ち、ずっと忘れないでいてね。ユキ先生からのお願いです」
「わかった」

再び身体を離した時、彼の瞳は、試験管づくりには向いていなかった。
「試験管のやつ、中止するから片付ける。別の遊びやりたい」
「いいねぇ! 片付け、手伝おっか?」

〇〇くんのお母さん、あなたの息子さんは、あなたを大切に思っていますよ。
ウザい、なんて言わないであげて下さい。
過激な発言をしても、理由を丁寧に聴いてあげて下さい。
そして、「大好きだよ」と、抱きしめてあげて下さい。

きっとあなたを守ってくれる、立派な男性に育ってくれる、無限の可能性を秘めていますよ。

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