家族療法完全ガイド|システムズアプローチ・ナラティブ・構造派・戦略派など主要5学派と実践

家族療法完全ガイド|システムズアプローチ・ナラティブ・構造派・戦略派など主要5学派と実践

「不登校の子どもをカウンセリングに連れて行ったが、本人より家族全体に課題があると言われた」
「摂食障害の娘の治療で、初めて家族療法という言葉に出会った」
「依存症の家族会で、『犯人探しをやめる』という考え方に救われた」

心理療法というと、相談者と治療者が1対1で行うイメージが強いかもしれません。しかし1950年代の米国で、まったく違うパラダイムが生まれました。「問題は個人ではなく家族というシステムにある」と捉える家族療法(Family Therapy)です。

不登校の子は「問題児」ではなく、家族のバランスが揺らいだときに最初にサインを出したIP(identified patient/患者と見なされた人)と捉え直す。摂食障害の症状を、家族の沈黙したコミュニケーションが形を変えて表れたものとして読み直す——家族療法の視点は、当事者と家族の「責められる感覚」を解き、関係そのものを治療の対象にしていきます。

この記事では、ココトモが心理職を目指す方・不登校や摂食障害・依存症の家族支援に関わる方に向けて、家族療法の基本概念から主要5学派(構造派・戦略派・システミック・ナラティブ・解決志向)、ナラティブ・セラピーの技法、適応領域、日本での発展、倫理的留意点までを、原典と公的情報をもとに丁寧にまとめました。

📌 この記事でわかること

  • 1950年代米国で生まれた家族療法のパラダイム転換——「個人の病理」から「家族システム」へ
  • 家族療法を理解するための5つの基本概念——システム/IP/円環的因果律/ホメオスタシス/差異
  • 主要5学派の創始者と特徴——構造派(Minuchin)・戦略派(Haley)・システミック(Bateson系/ミラノ派)・ナラティブ(White & Epston)・解決志向(de Shazer & Berg)
  • ナラティブ・セラピーの核となる技法——問題の外在化・ユニーク・アウトカム・オーディエンス・リ・オーサリング
  • 家族療法の進行プロセスとジェノグラム(家族図)の作成方法
  • 適応領域(不登校・摂食障害・依存症・DV・離婚・思春期問題)と、DV・虐待時の慎重な対応原則
  • 日本での発展史(東豊・吉川悟・坂本真佐哉ら)と学ぶための学会・研修ルート

家族療法とは|1950年代米国で発展した「個人から家族へ」のパラダイム転換

家族療法は、家族をひとつの「システム(system)」として捉え、個人の症状や問題を家族の関係性・コミュニケーション・構造のなかに位置づけて理解し変化を促す心理療法です。1対1の個人面接ではなく、夫婦・親子・きょうだいなど複数のメンバーが同じ部屋に集まって行うことを基本とします。

個人モデルへの限界感が生んだパラダイム転換

1950年代の米国では、統合失調症の研究と治療の現場で、ある観察が積み重なっていました。「ご本人が病院で改善しても、家庭に戻るとまた症状が悪化する」という現象です。これを単に「家族が悪い」と責めるのではなく、「家族という単位そのものが、症状を維持するパターンを持っているのではないか」と仮説を立てた研究者たちが、家族療法の源流となりました。
人類学者のGregory Bateson(1904-1980)を中心とするパロアルト・グループ(Mental Research Institute, MRI)は、家族内のコミュニケーションを観察し、有名なダブルバインド理論を提唱します。これは「個人の病気」という見方を根本から揺るがすものでした。

「治療の単位」が個人から家族へ

1960〜70年代にかけて、Salvador Minuchin(1921-2017)がフィラデルフィア小児ガイダンスクリニックで構造派家族療法を体系化し、Jay Haley(1923-2007)が戦略派を発展させ、ミラノではMara Selvini Palazzoliらがミラノ学派(Milan Systemic Approach)を打ち立てます。これらは「治療の単位は個人ではなく家族である」という共通の認識を持ちながら、それぞれ独自の理論と技法を発展させました。
1990年代に入ると、オーストラリアのMichael White(1948-2008)とニュージーランドのDavid Epstonナラティブ・セラピーを、米国ミルウォーキーではSteve de Shazer(1940-2005)Insoo Kim Berg(1934-2007)解決志向ブリーフセラピー(SFBT)を提唱し、家族療法はさらに多様化していきます。

個人療法との根本的な違い

家族療法は、認知行動療法来談者中心療法のような個人モデルとは前提が異なります。個人療法では「相談者の内面・思考・感情」が焦点ですが、家族療法では「家族メンバー間の関係性・相互作用・コミュニケーション」が焦点です。原因を一人に帰属させず、循環するパターンとして捉える点が決定的に違います。

出典:日本家族療法学会 公開情報/日本ブリーフサイコセラピー学会 公開情報/Family Process Institute 公開資料/Minuchin, S. “Families and Family Therapy”(1974)

家族療法の基本概念|5つのキーワード

家族療法を理解するには、独特の概念体系に慣れる必要があります。心理職を目指す方も、現場で家族支援に関わる方も、まずは次の5つを押さえてください。

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① システム(System)

家族は単なる個人の集まりではなく、メンバー同士が相互に影響し合う一つのまとまり(システム)。一人が変われば全体が動き、全体が変わればまた個々が変わる。一般システム理論(von Bertalanffy)を心理臨床に応用した中核概念

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② IP(Identified Patient)

「患者と見なされた人」の意。家族の中で症状を抱えている人を「問題児」ではなく、家族の歪みが最初に表面化したサインとして捉える。「IPを治す」ではなく「IPを通して家族システムを理解する」が原則

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③ 円環的因果律

「親の叱責が子の反抗を生む」という直線的因果ではなく、「叱責→反抗→さらなる叱責→さらなる反抗」と循環するパターンとして捉える。犯人探しを終わらせ、関係の悪循環を断ち切る視点

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④ ホメオスタシス

家族システムが「現状の安定」を維持しようとする働き。一見つらい状況でも、家族は無自覚にそれを保つよう動く。だからこそ変化には抵抗が生じる。この理解が介入の鍵になる

⑤ 差異(Difference)

Bateson の「違いを生む違い(the difference that makes a difference)」。家族の中で「いつもと違う出来事」「例外的にうまくいった瞬間」に注目することが、変化の糸口になる。解決志向アプローチの源流

家族療法の主要5学派|創始者と特徴

家族療法には複数の学派があり、それぞれ独自の理論と技法を発展させてきました。ここでは特に押さえておきたい5学派を紹介します。

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① 構造派家族療法

Salvador Minuchin(1921-2017)が1960〜70年代に体系化。家族内の世代境界・サブシステム・連合・三角関係といった「構造」に注目し、機能不全な構造を組み替える。摂食障害・心身症の治療で実績

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② 戦略派家族療法

Jay Haley(1923-2007)が中心。Milton Erickson の催眠療法の影響を受け、逆説的介入・パラドキシカル指示・直接的タスクで症状を維持するパターンを崩す。短期で具体的な行動変容を狙う

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③ システミック(ミラノ派)

Gregory Batesonの理論を源流に、Mara Selvini Palazzoliらのミラノ学派が体系化。仮説立て・円環的質問・中立性の3原則。チームで観察しながら家族の意味世界を読み解く

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④ ナラティブ・セラピー

Michael White(1948-2008)David Epstonが1990年代に確立。「人が問題なのではなく、問題が問題」と捉え、問題を外在化し、新しい物語を共に書き直す(リ・オーサリング)

⑤ 解決志向ブリーフセラピー

Steve de Shazer(1940-2005)Insoo Kim Berg(1934-2007)が米国ミルウォーキーで開発。原因追及をやめ、例外・スケーリング・ミラクル・クエスチョンで解決像を共に描く。短期療法の代表

学派別の比較|創始者・年代・特徴・主要技法

各学派の位置関係を整理した表です。同じ「家族療法」と呼ばれていても、注目するポイントと技法はかなり異なります。

学派 創始者 年代 特徴 主要技法
構造派 Salvador Minuchin 1960〜70年代 家族の構造・境界に注目 ジョイニング・実演化・境界線の引き直し
戦略派 Jay Haley
Cloé Madanes
1970年代〜 症状維持パターンに介入 逆説的介入・直接的タスク・症状処方
システミック(ミラノ派) Mara Selvini Palazzoli
(Bateson理論を継承)
1970〜80年代 仮説・円環・中立の3原則 円環的質問・チーム観察・肯定的意味付け
ナラティブ Michael White
David Epston
1990年代〜 問題と人を分ける 外在化・ユニーク・アウトカム・リ・オーサリング
解決志向(SFBT) Steve de Shazer
Insoo Kim Berg
1980年代〜 例外と解決像に焦点 ミラクル・クエスチョン・スケーリング・コンプリメント

出典:Nichols, M. P. & Davis, S. D. “Family Therapy: Concepts and Methods”/日本家族療法学会 公開資料/日本ブリーフサイコセラピー学会 公開資料

ナラティブ・セラピーの中核技法|4つのキーコンセプト

1990年代以降、家族療法のなかでも特に注目を集めているのがナラティブ・セラピーです。Michael White と David Epston が確立したこのアプローチは、「人が問題なのではなく、問題が問題なのである(The person is not the problem; the problem is the problem.)」という名言に集約されます。

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① 問題の外在化(Externalization)

「あなたが怒りっぽい」ではなく「『怒り』があなたを支配することがある」と表現する。問題を人格から切り離し、対峙可能な対象として見直す。子どもには「もやもや君」「だらだら虫」など名前を付けると効果的

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② ユニーク・アウトカム

問題に支配されなかった「例外的瞬間」を探す。「不安に勝てたとき」「いつもと違う対応ができた日」を丁寧に拾い、そこから新しい物語の素材を集める。White はこれを「unique outcome」と名付けた

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③ オーディエンス(証人)

変化を「証人」となる他者の前で語ることで定着させる。家族・友人・支援者を招き、当事者の新しい物語を聴いてもらう。アウトサイダー・ウィットネス(外部証人)の手法として発展

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④ リ・オーサリング(書き直し)

「ダメな子」という支配的物語(dominant story)から、ユニーク・アウトカムをつなぎ合わせたもう一つの物語(alternative story)へと、自分の人生の語りを書き直す。手紙療法(letter writing)が代表技法

家族療法の進行プロセス|5ステップで全体像をつかむ

家族療法のセッションがどう進むのか、典型的な流れを5段階にまとめました。学派により詳細は異なりますが、おおよその進行はこの順序で理解できます。

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    ① 家族全員(または可能な範囲)の参加

    初回は同居家族全員の参加が原則。難しい場合は来談可能なメンバーから始める。「夫婦のみ」「母子のみ」でもスタート可能。誰が参加するか自体が、家族システムを読み解く第一の情報になる。

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    ② IPの特定と「個人病理化」からの離脱

    最初に「困っているのは誰か」を確認するが、その人を犯人扱いせずIP(identified patient)として位置づけ直す。「症状を出している人」ではなく「家族のサインを最初に出した人」という枠組みに転換する。

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    ③ システム理解(ジョイニング・ジェノグラム作成)

    セラピストは家族に「ジョイニング(joining)」——一時的に家族の一員のように関係を結ぶ姿勢で関わる。ジェノグラム(家族図)を作成し、3世代の関係・葛藤・喪失・転居・病歴などを可視化する。

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    ④ 介入(学派に応じた技法)

    構造派なら境界線の引き直し、戦略派なら逆説的介入、ナラティブなら外在化と書き直し、解決志向ならミラクル・クエスチョンなど、学派と家族の特性に応じた介入を選ぶ。多くの場合、複数の学派の技法が組み合わされる。

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    ⑤ システムの変容と終結

    家族のコミュニケーション・役割分担・物語が変わると、IPの症状も自然に軽減することが多い。「家族が自分たちで問題に対処できる」状態を確認して終結。再発に備え、フォローアップの目安を共有する。

ジェノグラム(家族図)の作成|3世代を一枚に

📊 ジェノグラムとは

ジェノグラム(genogram)は、家族関係を記号で図示する3世代の家族図です。Murray Bowen の多世代家族療法を源流に、McGoldrick らが体系化し、現在では家族療法・医療・福祉・公衆衛生など幅広い領域で標準ツールとなっています。
男性は四角、女性は丸、当事者(IP)は二重線で囲む、結婚は実線、離婚は二重斜線、死別は×印——といった国際的な記号体系があり、葛藤関係・密着関係・距離関係などの線種を加えることで、家族の力動を一枚の図で共有できます。

ジェノグラムで見えてくること

  • 世代を超えて反復するパターン——3世代続く離別・依存症・うつ・親子断絶など
  • 家族内の連合と排除——「母と子の密着」「父の孤立」「きょうだいの三角関係」
  • 重要な喪失とライフイベント——祖父母の死後の家族再編、転居、流産・死産
  • 未解決の課題——前妻・前夫の存在、隠された養子縁組、家族の秘密
  • 強みの所在——いつも頼られる叔母、世代を超えた支援者、信頼できる親戚

ジェノグラムは病理探しのツールではなく、家族の物語を可視化し、関係を語り直すための地図です。初回〜数回のセッションで一緒に書くことで、家族メンバー自身が「あ、こういうことだったのか」と気づく契機にもなります。

家族療法の適応領域|6つの主な現場

家族療法はあらゆる心理的課題に有効というわけではありませんが、特に「個人だけの介入では限界がある」「家族関係そのものが課題に絡んでいる」場合に強みを発揮します。

領域 主な対象 家族療法の貢献
不登校 小中高生のIP・両親 「学校に行かせる」から「家族のコミュニケーション再構築」へ。不登校ピアサポートと併用
摂食障害 思春期女子と家族 Minuchin の構造派が実績。モーズレイ・モデル(Maudsley Method)は家族療法を基盤とした標準治療
依存症 本人・配偶者・子ども 共依存・イネイブリングのパターンを変える。家族会と心理教育の併用が有効
DV・虐待 ※慎重な適応 加害が継続中の状況では家族同席は推奨されない。被害者の安全確保を最優先に、個別介入が原則
離婚・再婚 夫婦・ステップファミリー ステップファミリー特有の境界の混乱・継子継親関係の再構築に有効
思春期の問題行動 非行・引きこもり・自傷 「問題児」のラベルを外し、家族システムの再編成と境界の引き直しが鍵

日本での発展|独自の翻案と臨床家たち

日本に家族療法が紹介されたのは1970年代後半からで、1984年に日本家族研究・家族療法学会(現・日本家族療法学会)が設立されました。米国で発展した理論を、日本の家族文化(直接的な対立を避け、空気を読み合う文化)に翻案する作業が、複数の臨床家によって積み重ねられてきました。

日本の家族療法を牽引してきた臨床家

  • 東豊(ひがし ゆたか)——龍谷大学名誉教授。日本のシステムズアプローチを牽引し、独自のセラピスト・コミュニケーション論を展開。著書『セラピスト入門』『リフレーミングの秘訣』ほか多数
  • 吉川悟(よしかわ さとる)——龍谷大学教授。家族療法とシステムズアプローチを医療・教育・福祉に橋渡し。『システムズアプローチ入門』『家族療法』など
  • 坂本真佐哉(さかもと まさや)——神戸松蔭女子学院大学教授。ナラティブ・セラピーと解決志向の臨床応用を多数発表。『今日から始まるナラティヴ・セラピー』ほか
  • 遊佐安一郎——日本における家族療法の早期紹介者の一人。長年にわたり臨床と教育に貢献
  • 森俊夫(もり としお/1955-2015)——東京大学を経て、ブリーフセラピー・解決志向の普及に大きく貢献

日本の臨床現場では、構造派・戦略派・ナラティブ・解決志向を厳密に分けず、「システムズアプローチ」という包括的な視点で統合的に扱うのが主流です。学派対立よりも、目の前の家族にどう役立つかを優先する現実的な姿勢が、日本の家族療法の特徴と言えるでしょう。

家族療法を学ぶ方法|学会・研修・スーパービジョン

家族療法は書籍だけでは身につかず、実際のロールプレイ・事例検討・スーパービジョンを重ねて初めて使えるようになる技法です。日本で学ぶ主なルートをまとめました。

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    ① 日本家族療法学会への加入

    1984年設立、家族療法・システムズアプローチの中心的学会。年次大会・研修・機関誌『家族療法研究』を通じた学びの場が整っており、学生・院生・若手臨床家の入会も歓迎している。臨床心理士・公認心理師の有資格者だけでなく、教員・看護師・福祉職も多数参加。

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    ② 日本ブリーフサイコセラピー学会

    解決志向・ナラティブ・戦略派など、短期療法系の家族療法を学ぶ場として代表的。年次大会・研修・地区研修会を通じて、入門〜上級まで段階的に学べる。

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    ③ 大学院での体系的学習

    家族療法を専門に学べる大学院は限られるが、龍谷大学・神戸松蔭女子学院大学・東京家政大学・立命館大学などには、家族療法・システムズアプローチを専門とする教員が在籍。心理療法の体系と合わせて学ぶと土台が固まる。

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    ④ 民間の研修機関・ワークショップ

    日本家族療法学会・日本ブリーフサイコセラピー学会のほか、各地の研究会・私設研修機関がワークショップを開催。短期集中型(3日〜1週間)の入門コースから、年単位の継続研修まで多様。

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    ⑤ スーパービジョンと事例検討の継続

    学派を問わず、家族療法はスーパービジョン(経験豊富な指導者からの個別指導)なしには成熟しない。録画・録音を用いたケース・カンファレンス、ワンウェイミラーや反映チームを使った訓練が伝統的に重視されている。

家族療法の倫理|DV・虐待時の慎重さと原則

⚠️ 家族療法には適応の限界がある

家族療法は強力なアプローチですが、すべての家族問題に適用できるわけではありません。特にDV(ドメスティック・バイオレンス)や児童虐待が継続している状況では、加害者と被害者を同じ部屋に呼ぶことが、被害をさらに深める結果を招きかねません。

DV・虐待時の原則

現代の家族療法では、「加害が継続している間は、家族同席のセッションは行わない」が国際的に共有された原則となっています。米国の家族療法協会(AAMFT:American Association for Marriage and Family Therapy)の倫理綱領、英国の家族療法協会(AFT)のガイドラインも同様の立場を取っています。
被害者の安全(safety first)を最優先に、まずは被害者の個別カウンセリング・シェルター・法的支援を整えてから、必要に応じて加害者の個別治療プログラムや、安全が確保された後の関係修復セッションへと進むのが原則です。

その他の倫理的留意点

  • 家族の秘密と守秘義務——個別面接で得た情報を、家族合同セッションでどう扱うかの事前合意が必須
  • 子どもの権利——子どもが家族療法の場で過度な役割(カウンセラー役・親役)を担わされないよう配慮
  • 文化的多様性——家族観・ジェンダー規範・性的指向の多様性に対する感受性が求められる
  • 逆説的介入の濫用禁止——戦略派の逆説的指示は強力だが、信頼関係なしの濫用は害となる
  • 「家族が悪い」と決めつけない——家族療法は責任追及ではなく、関係を変えるための共同作業である

体験談|家族療法を受けた3つの物語

💬 中学2年の息子の不登校で、家族全員でカウンセリングへ(40代・母)

「息子だけがおかしいと思って病院に連れて行ったら、家族療法を勧められました。最初は『なぜ家族全員?』と戸惑いましたが、夫婦の沈黙、息子へのプレッシャー、長女との比較——家族の中で循環していたものが見え、家族会議のスタイルが変わりました。半年後、息子は週2日から学校に戻り始め、何より家の空気が変わりました」(120字)

💬 摂食障害の娘と、家族で取り組んだ食卓の再構築(50代・父)

「高校生の娘の神経性やせ症で、入院後に家族療法を導入しました。家族で食卓を囲む時間、母子の密着、私の不在——構造を一つずつ言葉にしていきました。『食事を娘の責任にしない』『両親で連携する』を実践するうち、娘の体重も少しずつ戻り始めました。家族みんなで治療していった、という感覚が今も残っています」(120字)

💬 ナラティブ・セラピーで「悪い嫁」の物語を書き直した(30代・女性)

「義母との関係に悩み続けていた頃、ナラティブ・セラピーに出会いました。『あなたが悪い嫁なのではなく、〈嫁役割〉という物語があなたを縛っている』と外在化されたとき、初めて自分を責めずに状況を見られました。夫と少しずつ話し合い、別の物語——お互いに距離を置きながら尊重する関係——を書き始めました」(120字)

家族療法へのありがちな誤解5選

家族療法は誤解されやすい療法でもあります。書籍や紹介記事だけでは誤った理解が定着しやすいため、特に押さえてほしい5点を整理しました。

  • ❌「家族が悪い」と非難する療法ではない——家族療法はシステムに注目するアプローチであり、誰かを犯人扱いするものではありません。むしろ「犯人探しをやめる」ことが出発点です。
  • ❌「家族全員でカウンセラーになる」わけではない——家族にセラピストの役割を担わせるのではなく、家族メンバー同士のコミュニケーションを変えていくのが目的です。
  • ❌「個人療法より優れている」というわけではない——適応領域が違うだけで、優劣はありません。認知行動療法来談者中心療法と相補的に使われます。
  • ❌「IP(identified patient)に問題はない」という意味ではない——IPに困りごとがあるのは確かです。ただ「IPだけが悪い」ではなく、家族全体でサインを受け止め直すという意味です。
  • ❌「家族全員が参加しなければ始められない」わけではない——理想は全員参加ですが、実際には来談可能なメンバーから始めるのが普通です。むしろ「誰が来て誰が来ないか」自体が大事な情報になります。

よくある質問|家族療法Q&A 10問

Q1. 家族療法は何回くらいで終わりますか?

学派・課題により幅があります。戦略派や解決志向ブリーフセラピーは10回前後を目安に短期で終わることが多く、構造派・ナラティブは半年〜1年かけることもあります。日本の臨床現場では、月1〜2回ペースで半年〜1年程度が多い印象です。家族の課題と目標により柔軟に設計されます。

Q2. 家族全員が参加しないと意味がありませんか?

いいえ、来談可能なメンバーから始めるのが原則です。理想は同居家族全員ですが、実際には「父が頑なに参加を拒む」「思春期の子が来たがらない」というケースも多くあります。家族療法は「誰が来て誰が来ないか」自体が重要な情報と捉えるので、来られる人だけで始めて構いません。

Q3. IP(identified patient)とは「問題のある人」のことですか?

正確には「家族の中で症状を最初に表出した人」「家族から患者と見なされている人」という意味です。「IP=悪い人」ではなく、家族システムの揺らぎがその人を通じて表面化したと捉え直します。IPに困りごとが現にあることは認めたうえで、家族全体でサインを受け止め直すための用語です。

Q4. ナラティブ・セラピーと従来の家族療法はどう違いますか?

従来のシステム論的家族療法が「家族の構造や相互作用」に注目するのに対し、ナラティブ・セラピーは「家族が共有する物語・言語」に注目します。「問題と人を分ける外在化」「ユニーク・アウトカム」「リ・オーサリング」など独自の技法を持ち、ポスト構造主義の影響を受けた1990年代以降の新潮流です。

Q5. DVがある家庭でも家族療法は受けられますか?

加害が継続している間は、家族同席のセッションは推奨されません。加害者と被害者を同席させることで、被害がさらに深まるリスクがあります。まずは被害者の安全確保(個別カウンセリング・シェルター・法的支援)が最優先で、加害者は別途専用の更生プログラムへ。安全が確立されたあとに、関係修復のセッションを検討します。

Q6. 家族療法はどこで受けられますか?

大学附属の心理相談室・精神科クリニック・スクールカウンセラー・私設のカウンセリングルームなどで受けられます。家族療法を専門にする心理士はまだ多くないため、日本家族療法学会の認定家族心理士や、システムズアプローチを学んだ臨床心理士・公認心理師を探すのが確実です。摂食障害や思春期の問題では、対応可能な医療機関も増えています。

Q7. 家族療法は健康保険で受けられますか?

医療機関で行われる家族面接が、診療報酬の「通院・在宅精神療法」等の枠内で算定されるケースはありますが、家族療法そのものが独立した保険適用項目として確立されているわけではありません。大学相談室・私設カウンセリングルームでは原則自費(1回5,000〜15,000円が相場)です。地域の精神保健福祉センター・児童相談所では無料相談も受けられます。

Q8. 子どもの不登校に家族療法は本当に効きますか?

不登校は家族療法のもっとも代表的な適応領域のひとつです。「学校に行かせる」ことを目的にせず、家族のコミュニケーション・夫婦関係・きょうだいの位置づけを再構築することで、結果として登校が再開するケースが多く報告されています。不登校ピアサポートや個別のカウンセリングと併用することもよくあります。

Q9. ジェノグラムは自分でも描けますか?

基本的な家系図としては自分でも描けますが、関係の力動(密着・葛藤・距離など)を読み解く部分は、訓練を受けた臨床家との共同作業が前提です。書籍やテンプレートを参考に下書きを作り、それをセラピストと一緒に深掘りするスタイルが推奨されます。自己理解の入り口としても有効です。

Q10. 家族療法を勉強したい大学院生は、まず何を読めばいいですか?

入門書としては、東豊『セラピスト入門』『家族療法のヒント』、吉川悟『システムズアプローチ入門』、坂本真佐哉『今日から始まるナラティヴ・セラピー』が定評があります。原典では Minuchin の『家族と家族療法』、Haley の『戦略的心理療法』、Selvini Palazzoli らの『逆説と対抗逆説』、White & Epston の『物語としての家族』が必読です。学会大会への参加とスーパービジョンを並行するのが王道です。

あわせて読みたい|次の一歩のヒント

参照元: 日本家族療法学会日本ブリーフサイコセラピー学会/ Minuchin, S. “Families and Family Therapy”(1974, Harvard University Press)/ Haley, J. “Problem-Solving Therapy”(1976, Jossey-Bass)/ Selvini Palazzoli, M. et al. “Paradox and Counterparadox”(1978, Jason Aronson)/ White, M. & Epston, D. “Narrative Means to Therapeutic Ends”(1990, W. W. Norton)/ de Shazer, S. “Keys to Solution in Brief Therapy”(1985, W. W. Norton)/ Bateson, G. “Steps to an Ecology of Mind”(1972, Ballantine Books)/ Dulwich Centre(Narrative Therapy Centre)Family Process InstituteAmerican Association for Marriage and Family Therapy(AAMFT)/ 東豊『セラピスト入門』『リフレーミングの秘訣』(日本評論社)/ 吉川悟『システムズアプローチ入門』(金剛出版)/ 坂本真佐哉『今日から始まるナラティヴ・セラピー』(日本評論社) (いずれも2026年5月時点。学派の年代・適応領域は研究の進展により更新があります)

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