精神疾患の家族会完全ガイド|統合失調症・うつ病・発達障害の家族支援とみんなねっとの活動
edit2026.04.26 visibility27
「息子が統合失調症と診断され、自分が育て方を間違えたのではと毎晩自分を責めている」
「妻のうつが長引き、共倒れになりそう。でも親戚にも会社にも言えない」
「発達障害の娘の将来が不安で、同じ立場の親と一度でいいから本音で話したい」
精神疾患のある人を家族に持つご家族は、しばしば「一番近くにいるのに、一番孤立する」立場に置かれます。社会的偏見への配慮で誰にも言えず、医療スタッフは患者本人を優先するため家族の悩みは後回しになりがちで、福祉サービスは本人向けには整備が進んでも家族向けは手薄——そんな構造のなかで、ご家族はひとりで抱え込み、心身を消耗していきます。
そんなご家族のために、同じ立場の家族どうしが集まり、体験と知識を分かち合う「家族会」という仕組みが、日本では1965年以来、半世紀以上にわたって地道に続いてきました。中心となっているのは公益社団法人全国精神保健福祉会連合会(通称「みんなねっと」)で、47都道府県の連合会と全国約1,200の地域家族会をネットワークしています。
この記事では、ココトモが福祉・就労支援の現場で出会ってきたご家族の声をもとに、家族会の歴史と意義、主要団体、参加の進め方、家族心理教育やきょうだい児支援まで、「家族としての自分を、まず楽にする」入り口を丁寧にまとめました。本人を支える前に、まずご家族自身が支えられていい——その理由がきっと見つかります。
📌 この記事でわかること
- 1965年の「全家連」から2007年「みんなねっと」へ——精神保健家族会の半世紀の歩み
- 家族会が必要とされる科学的根拠——Brown & Birleyらの「感情表出(EE)研究」と再発予防
- 疾患別の家族会5タイプ——統合失調症/うつ病・双極性/発達障害/依存症/不登校・ひきこもり
- 主要5団体の特徴と公式窓口——みんなねっと、COMHBO、日本うつ病センター、JDDネット、日精協
- 家族会への参加5ステップと、選び方5ポイント/ありがちな失敗5選
- 家族心理教育(Family Psychoeducation)——厚労省も推進する科学的根拠ある介入
- きょうだい児・配偶者・親同士の支援、「親なきあと」問題まで
家族会とは|定義と60年の歴史
精神保健分野における「家族会」とは、精神疾患や精神障害のある人を家族に持つ人どうしが、同じ立場で集まり、悩みや情報を分かち合い、相互に支え合うグループのことです。英語圏では patient family association や family support group と呼ばれ、海外でも統合失調症・うつ病・依存症などを中心に長く実践されてきた、世界共通のセルフヘルプ・グループの一形態でもあります。
1965年「全家連」の発足——日本の家族会の出発点
日本における精神保健家族会の本格的な出発点は、1965年(昭和40年)に発足した「全国精神障害者家族会連合会」(通称:全家連)です。当時の日本は、精神疾患のある人が長期入院を強いられ、家族の負担と社会的孤立は深刻でした。全家連は家族自身が立ち上がり、政策提言と相互援助の両輪で長年活動を続け、精神保健福祉法の改正や社会復帰施設の整備、地域移行の推進に大きな役割を果たしてきました。
しかし2007年、組織運営上の困難により全家連は解散。その後継として同年、「公益社団法人全国精神保健福祉会連合会」(通称:みんなねっと、英文表記 NPSFC/2007年設立、2012年公益社団法人化)が設立され、現在に至るまで全国の家族会のネットワークを担っています。
「みんなねっと」の役割と規模
みんなねっとは、47都道府県の連合会と、その下の全国約1,200の地域家族会をつなぐ全国組織です。会員家族はおおむね3〜4万人規模(年度により変動)とされ、月刊機関誌『みんなねっと』の発行、家族相談、政策提言、家族心理教育の普及、研究助成などを行っています。
地域家族会は市町村単位や保健所単位で運営されることが多く、月1回の定例会・学習会・新年会・日帰り旅行などが基本パッケージです。会費は年額2,000〜5,000円程度が中心で、初回見学は無料が一般的です。
家族会が大切にする「3つの機能」
みんなねっとや各地の家族会が長年掲げてきた中心の役割は、次の3つに整理されます。
- ① 相互援助(ピアサポート)——同じ立場の家族どうしが体験を語り、聴き合うことで、孤立感をやわらげる
- ② 学習活動——医療・福祉・年金・成年後見・「親なきあと」など、家族に必要な知識を体系的に学ぶ
- ③ 社会的運動(アドボカシー)——精神保健福祉施策の改善や偏見の解消を、家族の声として社会に届ける
出典:公益社団法人全国精神保健福祉会連合会「みんなねっと」公式情報(https://seishinhoken.jp/)/厚生労働省「精神保健医療福祉施策」公開資料/全家連史料(2026年5月時点。会員数・地域家族会数は年度・集計により差があります)
なぜ家族会が必要か|「家族の感情表出(EE)」研究と再発予防
家族会が世界的に普及した背景には、半世紀以上にわたる実証研究の蓄積があります。なかでも家族支援の重要性を決定づけたのが、イギリスのGeorge Brown と J. K. Birleyらが1960〜70年代に行った「感情表出(Expressed Emotion, EE)」研究です。
🔬 Brown & Birleyらの感情表出(EE)研究
Brown らは、退院後の統合失調症患者の再発率を追跡し、家族の感情表出が高い(High EE)家庭では、低い(Low EE)家庭と比べて再発率が顕著に高いことを示しました。「High EE」とは具体的には、ご家族の批判的なコメント・敵意・過剰な情緒的巻き込みが多い状態を指します。
重要なのは、これは「家族が悪い」という結論ではないことです。むしろ、家族が長年ひとりで抱え込み、疲弊し、結果として High EE 状態に追い込まれている——その家族自身が支援を必要としているという構造的問題を明らかにしたのが、この研究の最大の功績でした。
「家族のせい」と決めつけないために
精神医学の歴史には、過去に統合失調症の発症原因を母親の育て方に帰す「精神分裂病親説」や「冷蔵庫マザー仮説」など、家族を傷つけ続けてきた誤った理論がありました。これらは現在では完全に否定されています。
精神疾患は脳の機能・遺伝的素因・環境的ストレスなど複合的な要因で発症するものであり、家族の関わり方が「原因」ではありません。ただし、家族の関わり方は再発リスクや回復のしやすさに影響することが研究で示されており、だからこそ家族会と家族心理教育が、本人にとっても家族にとっても有益なのです。
「家族の負担」は医学的にも検証されている
日本でも、みんなねっとが2018年に実施した「精神障がい者の家族に対する大規模実態調査」(全国14,000家族規模)では、家族の半数以上がうつ状態の指標を満たし、3割以上が「死にたいと思ったことがある」と回答しました。「家族こそ最大のハイリスク群」と言われる根拠です。
家族会は、こうした家族の負担を見える化し、支援につなぐ最前線でもあります。
出典:Brown GW, Birley JLT, Wing JK (1972) “Influence of Family Life on the Course of Schizophrenic Disorders: A Replication” British Journal of Psychiatry/みんなねっと「精神障がい者の家族に対する大規模実態調査」2018年報告書/厚生労働省「精神保健福祉施策」公開資料を参照
家族会の主な5タイプ|疾患・テーマ別の入り口
家族会は精神疾患のすべてを一律にカバーしているわけではなく、疾患や状況ごとに別の系統として発達してきました。ご自身の家族の状況に近いタイプから探すと、必要な情報や仲間に最短で出会えます。
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① 統合失調症の家族会
家族会の中核を成すタイプ。長期化・社会復帰・就労・「親なきあと」を扱う。みんなねっと加盟の地域家族会の多くがこの系統で、月1回の定例会と年1〜2回の学習会が基本
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② うつ病・双極性障害の家族会
配偶者・子を持つ家族が中心。回復と再発の波、休職・復職、配偶者の二次的うつへの配慮が中心テーマ。日本うつ病センターや双極性障害の家族会が全国にネットワークを持つ
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③ 発達障害の家族会
ASD・ADHD・LDの子を持つ親が中心。療育・学校・就労移行・きょうだい支援が主要テーマ。日本発達障害ネットワーク(JDDネット)や地域の親の会が広く活動している
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④ 依存症の家族会
アルコール・薬物・ギャンブル依存の家族向け。アラノン(Al-Anon)/ナラノン(Nar-Anon)/ギャマノン(Gam-Anon)などの12ステップグループが世界的に活動。共依存からの回復が中心テーマ
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⑤ 不登校・ひきこもりの家族会
医療診断がついていないケースも含む、広い意味での「家族の悩み」を扱う。KHJ全国ひきこもり家族会連合会が全国組織として活動し、8050問題・就労支援・親なきあとを横断的に支える
主要な5団体|全国規模で活動するネットワーク
家族会の全国組織や、家族支援に関わる主要団体を5つ紹介します。いずれも公式サイトを持ち、地域窓口・相談電話・刊行物を整備しています。ご自分の地域の家族会が見つからない場合は、まず全国窓口に問い合わせるとスムーズです。
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① みんなねっと(全国精神保健福祉会連合会)
2007年設立、2012年公益社団法人化。47都道府県連合会+約1,200の地域家族会の中央組織。月刊誌『みんなねっと』、家族相談、政策提言。公式:seishinhoken.jp
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② COMHBO(コンボ)
NPO法人地域精神保健福祉機構。当事者と家族の地域生活を支える研究・出版・研修を全国展開。雑誌『こころの元気+』や家族心理教育普及で著名。本人と家族の両方を視野に入れた活動
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③ 日本うつ病センター
うつ病・双極性障害の研究と普及啓発を行う公益財団法人。家族向け公開講座・相談会を定期開催。配偶者・親・子の立場別の情報提供が手厚い
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④ 日本発達障害ネットワーク(JDDネット)
ASD・ADHD・LD・知的障害など発達障害関連の当事者団体・家族会・支援団体の連合体。全国の親の会のハブとして、政策提言・啓発・研修を担う
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⑤ 日本精神科病院協会(日精協)
全国の精神科病院・診療所のネットワーク。病院内家族教室や家族会の運営支援を行うほか、家族向け資料の刊行や心理教育プログラムの普及にも関与
家族会への参加5ステップ|見学から定例参加まで
家族会の門は、思っているより低いものです。電話一本・メール一通から始められ、無理のないペースで関われます。ゼロからの参加手順を5つに整理しました。
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1
① 地域の家族会を探す
最も確実なのはみんなねっとの公式サイト(seishinhoken.jp)で都道府県連合会を検索する方法です。市町村の保健所・精神保健福祉センター・地域包括支援センターに「精神疾患のある家族の会を紹介してほしい」と電話するルートも有効。発達障害なら市町村の発達支援センター、依存症なら精神保健福祉センターが窓口になります。
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② 見学・体験参加を申し込む
多くの家族会では初回見学は無料で、事前連絡があれば歓迎されます。「話さなくていい、聴くだけでいい」のが基本ルール。最初は緊張するのが当然なので、「途中で帰っても構いません」と伝えてくれる会が多数派です。1回で判断せず、2〜3回参加してから入会を検討するのが一般的です。
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③ 入会の申込みと会費
会費は年額2,000〜5,000円程度が中心で、運営費・会報発行費・茶菓代に充てられます。みんなねっと加盟会の場合、地域会・都道府県連合会・全国連合会の三層の会費が必要なこともありますが、合計でも年間1万円を超えないのが標準的。所得状況に応じて減免制度がある会も多いです。
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④ 定例会・学習会に継続参加
月1回・2時間前後の定例会が基本。前半は情報共有や学習会(医療・福祉制度・年金・成年後見など)、後半は分かち合い(ピアサポートの時間)という構成が多いです。会のなかで話されたことは会の外に持ち出さないのが鉄則で、安心して本音が話せる場を全員で守ります。
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⑤ 自分の体験を語る・運営を支える
半年〜1年ほど通うと、新しい参加者が見学に来るようになります。そのとき「自分も最初はこうだった」と語る側に回る瞬間が、ご家族にとって大きな転機になります。さらに数年経つと役員・会計・広報を担うことになり、自分の経験が「次の家族の入り口」を支える側に回ります——これがセルフヘルプ・グループの相互援助の核心です。
家族心理教育(Family Psychoeducation)|医療側からのアプローチ
家族会が「家族どうしの相互援助」だとすれば、家族心理教育(Family Psychoeducation, FPE)は、医療機関や精神保健福祉センターなど専門職が主催する家族向けの構造化プログラムです。家族会と並び、家族支援のもう一つの柱として、日本でも厚労省が推進してきました。
家族心理教育の構成
家族心理教育は一般的に、5〜10回程度の連続講座として行われ、次の要素で構成されます。
- ① 疾患の正しい知識——統合失調症・うつ病・双極性障害などの基礎、薬物療法、再発のサイン
- ② コミュニケーション・スキル——批判ではなく依頼形で伝える、感情を言葉にする練習
- ③ 問題解決スキル——家庭内で発生した具体的な困りごとを、一緒に分解して対処策を考える
- ④ 家族どうしの分かち合い——構造化されたグループのなかで、同じ立場の家族と体験を共有
- ⑤ 制度・社会資源の理解——医療・福祉・年金・成年後見・「親なきあと」の制度知識
科学的根拠の蓄積
家族心理教育は、統合失調症の再発率を低減する効果が複数のメタ分析で確認されており、世界的にも本人への薬物療法と並ぶ標準的介入の一つに位置づけられています。日本でも厚労省の「重度かつ慢性の精神障害者に対する医療の在り方」検討会などで推奨され、診療報酬上も「精神科ショート・ケア」「依存症集団療法」などの枠組みで一部評価されています。
医療機関で受けられる場合は担当医・精神保健福祉士(PSW)に相談、地域では精神保健福祉センターが主催する家族教室にアクセスするのが現実的な経路です。
家族会と家族心理教育の使い分け
両者は性質が異なるため、「どちらか」ではなく「両方」に参加することが理想的です。家族心理教育で体系的な知識と対処スキルを学び、家族会で日常に落とし込む試行錯誤を仲間と共有する——この組み合わせが、家族支援を最大化する黄金パターンとされています。
- 家族心理教育:5〜10回の連続講座、専門職が運営、知識・スキルを構造的に学ぶ、期間限定で完結
- 家族会:月1回の継続的な集まり、家族自身が運営、生活のリアルを語り合う、半永久的に続く
医療機関で家族心理教育を案内されたら、ぜひ受講をご検討ください。家族会と並行することで、知識が「自分の家族のケース」に立体化していく実感が得られます。
きょうだい支援|「きょうだい児」の独自の難しさ
⚠️ きょうだい児が抱える「6つの荷物」
精神疾患・発達障害・知的障害のある人のきょうだいは、しばしば「きょうだい児」と呼ばれ、独自の困難を抱えます。①親の関心が病気のきょうだいに集中することによる寂しさ、②家族のなかで「いい子」「しっかり者」を演じる重圧、③進路選択・結婚・就職での葛藤、④「親なきあと」の介護・財産管理への不安、⑤遺伝への恐れ、⑥誰にも相談できないという孤立——いずれも本人の人生と切り離せない重みを持つテーマです。
「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」など
日本では「全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会」(通称:全国きょうだいの会)が長く活動しており、地域ごとのきょうだいの集まりや、若いきょうだいによるオンラインの会も増えています。精神疾患に限らず、発達障害・知的障害・身体障害・難病など、幅広いきょうだいが集まります。
特徴的なのは、「親の代弁者」ではなく「自分自身の人生を語る場」として機能している点です。本人や親の前では話せない正直な気持ちを、同じ立場の仲間とだけ分かち合える——これがきょうだい会の最大の意義です。
ヤングケアラーとしてのきょうだい児
近年、未成年のきょうだい児がヤングケアラーとして注目されるようになりました。学校生活・友人関係・進学を犠牲にしてきょうだいの世話を担う子どもは、決して少なくありません。
詳しくは ヤングケアラー自助ガイド で、若年介護者の自助グループや相談窓口を整理しています。きょうだい児ご本人、あるいは支援者の方は、ぜひあわせてお読みください。
配偶者支援|パートナーが精神疾患の場合
親や子のケースとは異なり、配偶者が精神疾患を抱える場合、ご家族は「対等な大人どうしのパートナーシップ」と「ケアラーの役割」が混在するという独特の重さを抱えます。
配偶者特有のテーマ
- 共倒れリスク——夫婦という最小単位での介護は、休む場所がなく、ケアラー自身の二次的うつにつながりやすい
- 家計と仕事——配偶者が休職・退職した場合、もう一方が一家の収入を支えることになり、長期化すると経済的に逼迫する
- 子育てとの両立——未成年の子がいる場合、子のヤングケアラー化を防ぎつつ、配偶者をどう支えるかという二重課題
- 離別の葛藤——病気を理由に別れていいのか、続けるべきか。誰にも答えを出せない問いを抱え続ける
- 性別による偏り——統計上、女性配偶者がケアラーになる比率が高く、社会的サポートが届きにくいことも
配偶者向けの家族会は地域差が大きく、全国一律のネットワークはまだ十分でないものの、うつ病・双極性障害の家族会では配偶者参加比率が高めです。また、介護家族のメンタルケアの観点は 介護者メンタルヘルス・ガイド でも横断的に扱っていますので、配偶者として疲弊しがちな方はあわせてご覧ください。
親同士の支援|「親なきあと」問題と長期戦の支え合い
精神疾患のある子を持つ親の家族会で、もっとも繰り返し議論されてきたテーマが「親なきあと」です。親自身が高齢化し、亡くなった後、本人がどう生きていくのか——これは精神保健分野だけでなく、知的障害・発達障害分野でも共通の最重要課題です。
「親なきあと」に備える主な制度
- 成年後見制度——判断能力が不十分な方の財産管理・身上監護を、家庭裁判所が選任した後見人が担う
- 日常生活自立支援事業——成年後見の前段階で、社会福祉協議会が金銭管理・福祉サービス利用援助を行う
- 障害年金——精神疾患・発達障害でも要件を満たせば受給可能。20歳前傷病の場合は20歳前障害年金
- グループホーム・共同生活援助——親と離れて地域で暮らす場。順番待ちの地域もあり、早めの情報収集が必須
- 信託・遺言——「親なきあと信託」や、本人の生活費を分割給付する仕組みが商品化されている
家族会では、すでに「親なきあと」を経験した先輩家族から実体験を聴ける機会が大きな価値を持ちます。制度の本を読むだけでは見えてこない「申請の壁」「家族間の話し合いのやり方」「本人への伝え方」を、同じ立場の人から学べる——これは家族会という場でしか得られない情報です。
準備を始めるタイミング
多くのご家族が口を揃えて言うのが、「もっと早く準備を始めればよかった」という後悔です。親が70代を迎える前、本人の生活が比較的安定している時期に、まず情報収集だけでも始めておくと、いざというときの選択肢が広がります。
具体的には、①障害年金の受給申請、②本人の生活費・年間支出の見える化、③グループホームや就労支援事業所の見学、④信頼できる相談支援専門員(計画相談)の確保、⑤きょうだいや親族との話し合い——この5つを、親が元気なうちに順番に進めるのが家族会で繰り返し提案される定型ルートです。
「親」だけが家族ではない
「親なきあと」というテーマは、しばしば親世代だけの問題として語られがちですが、実際にはきょうだい・配偶者・子も含めた家族全体の問題です。きょうだいに「親が亡くなった後はあなたが支えるのが当然」と暗黙の期待をかける構造は、きょうだい自身の人生を圧迫します。
家族会では、こうした家族内の役割分担を「言葉にして話し合う」練習の場としても機能します。先輩家族の体験談を聴くことで、「我が家でもこの話し合いを始めなきゃ」と気づくご家族が多数派です。
体験談|3つの家族の物語
💬 統合失調症の息子と歩んで15年(60代・母)
「息子が大学2年で発症し、最初の5年は自分の育て方が悪かったと泣き続けました。地域の家族会の見学に行ったとき、『あなたのせいじゃないですよ』と先輩のお母さんに肩を抱かれて、ようやく涙が止まった。今は私が新しい家族を迎える側で、息子もB型作業所に週4日通えるようになりました」
💬 うつ病の夫を10年支えて(40代・妻)
「夫が休職と復職を繰り返すなかで、私自身が眠れなくなり、心療内科に通うようになりました。日本うつ病センターの家族向け公開講座で、配偶者の二次的うつという言葉を初めて知り、自分を責めるのをやめられました。同じ立場の妻3人とLINEでつながっていることが、いまの生命線です」
💬 ASDの娘と「親なきあと」を考える(50代・父)
「娘が高校卒業後ひきこもりに近い状態となり、就労移行支援を経てA型事業所に通い始めました。地域の発達障害親の会で『親なきあと信託』を知り、税理士さんも紹介してもらえた。10年前なら自分ひとりで本だけ読んで決めていた——家族会に出会えたことが、いちばん大きな財産です」
家族会の選び方5ポイント|失敗しない見極め方
家族会と一口に言っても、運営方針・雰囲気・規模はさまざまです。ご自分に合った会を見つけるためのチェックポイントを5つ整理しました。
- 運営の透明性——会費の使い道、役員の選出方法、定例会の議事録など、運営情報が会員に公開されているか。年1回の総会と会計報告が機能している会は安心度が高いです。
- 批判ばかりにならない雰囲気——本人や医療・支援者への批判の言い合いだけで終わる会は、消耗が大きくなりがちです。「困りごと→対処策→希望」の流れがある会を選びましょう。
- 守秘義務の徹底——「会のなかで聴いた話は外に持ち出さない」が共通ルールとして明文化され、毎回確認される会が安全です。SNS発信のルールも要確認。
- みんなねっと等への加盟状況——全国組織に加盟している会は、研修・情報・政策情報のチャネルを持っており、質の担保がしやすいです。未加盟が悪いわけではありませんが、選ぶ指標にはなります。
- 多様な立場が共存しているか——親・配偶者・きょうだい・子など、立場の違う家族が共存できているか。立場が偏った会は、自分の悩みが言いづらいことがあります。立場別の分科会がある会は理想的です。
ありがちな失敗5選|参加者側が気をつけたいこと
家族会に参加する側にも、知らずにやってしまいがちな失敗があります。場の安全を全員で守るためのチェックとしてご活用ください。
- 本人の代弁を強く語りすぎる——「うちの子は本当はこう思っているはず」と本人不在で代弁し続けると、他のご家族の話す時間を奪うことがあります。あくまで「家族としての自分」の体験を語る場と意識しましょう。
- 特定の治療法・薬・健康食品を推奨する——「この薬がよく効く」「この民間療法がいい」と勧めるのは、医療判断を超えるため厳に避けます。情報共有は「私の家族はこうだった」という体験談の範囲にとどめます。
- 他の家族の対応を断罪する——「そんなことしたら本人が悪化する」「あなたの育て方が問題」など、他の家族を裁く発言は家族会の根本ルール違反です。同じ立場として聴くことに徹します。
- 個人情報を会の外に持ち出す——SNS・ブログ・友人との会話で「家族会で聞いた話」を共有すると、信頼が崩れます。会で聴いたことは会のなかに置いて帰るのが鉄則です。
- 消耗しているのに無理に通い続ける——家族会に通うこと自体が負担になる時期もあります。月1回の参加が辛ければ、3か月に1回でも、年1回でも構いません。無理しないことが、長く続けるコツです。
よくある質問|家族会Q&A 10問
Q1. 家族が精神疾患と診断されたばかりでも、家族会に行っていいですか? ▼
むしろ初期こそ家族会の意義が大きいです。診断直後は、家族自身がショック・自責・将来不安で混乱しやすく、ひとりで抱え込むと心身を消耗します。同じ経験を通ってきた先輩家族の言葉に救われたという声は非常に多く、「まだ早いかも」と遠慮せずに見学だけでも行ってみる価値があります。
Q2. 本人に「家族会に行く」と言うべきですか? ▼
ご本人の状態と関係性によります。落ち着いていて理解力があるなら、「あなたを支える方法を学びに行く」と伝える方が信頼関係を保ちやすいです。一方、被害的になりがちな時期には黙って参加する家族もいます。正解はひとつではなく、家族会の先輩に相談してから決めるのも選択肢です。
Q3. 会費はどのくらいかかりますか? ▼
地域の家族会で年額2,000〜5,000円が中心です。みんなねっと加盟会の場合、地域会・都道府県連合会・全国連合会の三層の会費が必要になることもありますが、合計でも年1万円を超えないのが標準的。所得状況による減免制度を設けている会も多いので、初回見学の際に遠慮なく確認してください。
Q4. 家族会と認知症の家族会は同じですか? ▼
別系統です。本記事の家族会は精神疾患(統合失調症・うつ病・双極性障害・発達障害など)のある人を家族に持つ方が対象で、中央組織はみんなねっと。一方、認知症の家族会の代表的な団体は公益社団法人認知症の人と家族の会です。テーマと制度(医療保険・介護保険)の枠組みが異なるため、別の組織として発達してきました。
Q5. 家族会と家族心理教育の違いは? ▼
家族会は家族どうしが運営する相互援助のグループ、家族心理教育は医療機関や精神保健福祉センターなど専門職が主催する構造化プログラムです。性質は異なりますが補完的な関係で、両方に参加するご家族も多くいます。家族心理教育で学んだ知識を、家族会で日常に落とし込むという使い分けが理想的です。
Q6. オンラインで参加できる家族会はありますか? ▼
新型コロナを機にオンライン定例会を取り入れる家族会が増え、現在もハイブリッド開催を続ける会が多くあります。地方在住・介護中で外出が難しい・きょうだい児で本人と同居していて家で話しづらい——こうした方々にはオンライン会が大きな助けになります。みんなねっと公式サイトや各地域連合会の案内を確認しましょう。
Q7. 男性(父親・夫)の参加者は少ないと聞きました。本当ですか? ▼
従来、家族会は母親・妻の参加が多く、父親・夫の参加が少ない傾向がありました。近年は「父の会」「お父さんの会」として男性家族のサブグループを設ける家族会が増えています。男性家族向けの集まりが地域にない場合は、世話人・運営に相談すると、男性参加者を集めてくれることもあります。
Q8. 家族会で批判ばかり聴くのが辛い。やめるべきでしょうか? ▼
会の雰囲気が「批判の応酬」になっている場合、参加者自身が消耗します。無理に通い続ける必要はありません。一度離れて、別の地域の家族会・オンライン会・家族心理教育プログラムなど、別の場に切り替える選択肢があります。会の雰囲気は会ごとに大きく違いますので、ひとつの会の印象で家族会全体を判断しないでください。
Q9. 「親なきあと」をどう準備すればいいでしょうか? ▼
成年後見制度・日常生活自立支援事業・障害年金・グループホーム・親なきあと信託の5つが主な柱です。家族会では先輩家族から実体験を聴けるのが最大の強みです。並行して市町村の障害福祉課・社会福祉協議会・障害者基幹相談支援センターにも早めに相談を。親が元気なうちに本人と話し合うことが、もっとも重要な準備です。
Q10. 家族会に行く時間も気力もありません。それでも何か方法はありますか? ▼
無理に対面参加する必要はありません。みんなねっとの月刊誌『みんなねっと』やCOMHBO『こころの元気+』を購読することから始めるのも立派な一歩です。また、みんなねっと家族相談や各都道府県の精神保健福祉センターの家族支援電話相談を活用するルートもあります。介護者メンタルヘルス・ガイドもご家族向けに執筆しています。
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参照元:公益社団法人全国精神保健福祉会連合会「みんなねっと」公式情報(https://seishinhoken.jp/)/NPO法人地域精神保健福祉機構コンボ(COMHBO)公開資料/公益財団法人日本うつ病センター 公開情報/日本発達障害ネットワーク(JDDネット)公開情報/日本精神科病院協会(日精協)公開資料/全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会(全国きょうだいの会)公開情報/KHJ全国ひきこもり家族会連合会 公開情報/厚生労働省「精神保健医療福祉施策」公開資料/Brown GW, Birley JLT, Wing JK (1972) “Influence of Family Life on the Course of Schizophrenic Disorders: A Replication” British Journal of Psychiatry/みんなねっと「精神障がい者の家族に対する大規模実態調査」2018年報告書 を参照(いずれも2026年5月時点。会員数・地域家族会数・会費は年度・集計・会により差があります)