解決志向ブリーフセラピー(SFBT)完全ガイド|ミラクル・クエスチョン・スケーリング・例外探しの実践技法

解決志向ブリーフセラピー(SFBT)完全ガイド|ミラクル・クエスチョン・スケーリング・例外探しの実践技法

「カウンセリングというと、辛い過去を延々と掘り下げるイメージがある」
「短期間で前向きに変われる支援法があると聞いたが、本当に効くのか」
「学校や職場で使える、軽やかなアプローチを学びたい」

伝統的な心理療法の多くは、「問題の原因を深く掘り下げて理解する」ことに重きを置いてきました。しかし、1980年代のアメリカ・ミルウォーキーで、まったく逆方向のアプローチが生まれます。「問題ではなく、解決に焦点を当てる」——Steve de Shazer(スティーブ・ド・シェイザー)と Insoo Kim Berg(インスー・キム・バーグ)夫妻が体系化した解決志向ブリーフセラピー(Solution-Focused Brief Therapy:SFBT)です。

SFBTは、「クライエントこそが自分の人生の専門家」という前提に立ち、ミラクル・クエスチョンスケーリング・クエスチョンといった独特の問いかけを通じて、本人がすでに持っている力を引き出します。平均5回前後のセッションで終結することが多く、短期療法(ブリーフセラピー)の代表格として、いまや学校・企業・医療・福祉のあらゆる現場で活用されています。

この記事では、ココトモがカウンセリング学習者・心理職を目指す方・現場で支援に携わる方に向けて、SFBTの原理・主要技法・適応範囲・限界まで、原典と公的情報をもとに丁寧にまとめました。「魔法のような質問」と誤解されがちなこの技法の、本当の姿が見えてくるはずです。

📌 この記事でわかること

  • Steve de Shazer と Insoo Kim Berg が1978年に設立したMilwaukee Brief Family Therapy Center(BFTC)から始まったSFBTの歴史
  • 「問題志向」から「解決志向」へのパラダイム転換と、5つの基本前提
  • SFBTの5大技法——ミラクル・クエスチョン/スケーリング・クエスチョン/例外探し質問/コーピング・クエスチョン/コンプリメント
  • 1セッションの典型的な流れ(目標設定→解決像→例外→スケーリング→宿題)と、5回前後で終結することが多い短期療法としての特徴
  • 学校・職場・カップル・短期介入での適応領域と、ナラティブ・セラピーとの関係
  • 「ポジティブ強要」「魔法の質問」といったありがちな誤解5選と現場での倫理
  • 日本ブリーフセラピー協会・SFAスクールなど、日本でSFBTを学ぶ方法と書籍・研修・スーパービジョン

解決志向ブリーフセラピー(SFBT)とは|ミルウォーキーで生まれた発想の転換

解決志向ブリーフセラピー(Solution-Focused Brief Therapy:SFBT)は、1980年代にアメリカ・ウィスコンシン州ミルウォーキーで体系化された短期療法です。創始者はSteve de Shazer(1940-2005)と、その妻であり共同研究者のInsoo Kim Berg(1934-2007、韓国系アメリカ人)。両者は1978年にBrief Family Therapy Center(BFTC)をミルウォーキーに設立し、家族療法・MRI(Mental Research Institute)モデルなどの影響を受けながら、独自のアプローチを発展させました。

「問題」ではなく「解決」に焦点を当てる

伝統的なカウンセリングや精神分析が「なぜこの問題が起きたのか」を追究するのに対し、SFBTは「問題がなくなったとき、あなたの生活はどう変わっているか」を問います。原因分析を行わずに、クライエントが望む未来像(解決像)を共に描き、すでに起きている小さな成功体験(例外)を拾い上げていく——これがSFBTの根本姿勢です。
de Shazer は『Keys to Solution in Brief Therapy』(1985年)『Clues: Investigating Solutions in Brief Therapy』(1988年)『Words Were Originally Magic』(1994年)などの著書で、この哲学を一貫して打ち出しました。Berg は『Family Based Services』(1991年)『Children’s Solution Work』(2003年)など、現場応用に強い著作群を残しています。

世界へ広がり、日本でも1990年代に紹介

BFTCは1980〜90年代に世界中の臨床家を引き寄せ、欧州・北米・アジアへとSFBTが広がりました。国際的な学会であるSolution-Focused Brief Therapy Association(SFBTA)と欧州のEuropean Brief Therapy Association(EBTA)が研究・トレーニングをリードしています。
日本では1990年代に紹介され、現在は日本ブリーフセラピー協会(JABT)日本ブリーフサイコセラピー学会などが学術・研修活動を担っています。学校教育・産業領域・コーチング・福祉分野で、もっとも普及した短期心理療法のひとつとなりました。

出典:de Shazer S. 『Keys to Solution in Brief Therapy』(1985, W.W. Norton) / Berg IK. 『Family Based Services』(1991, W.W. Norton) / Solution-Focused Brief Therapy Association 公開資料 / 日本ブリーフセラピー協会 公開情報

「問題志向」vs「解決志向」|パラダイムの転換

SFBTの独自性を理解するには、伝統的な「問題志向」アプローチと比較するのが近道です。両者は対立というより、カウンセラーの視点の置き方が違うものとして整理されます。

観点 問題志向アプローチ(伝統的) 解決志向アプローチ(SFBT)
焦点 問題の原因・経緯・症状 解決像・例外・本人の強み
時間軸 過去(なぜ起きたか) 未来(どうなりたいか)と現在
専門家 セラピストが解釈・診断する クライエント自身が自分の専門家
変化のサイズ 大きな洞察・根本解決 小さな変化が大きな変化を呼ぶ
セッション数 長期(数十回〜数年) 短期(平均5回前後)
代表的問い 「なぜそうなったのですか?」 「うまくいっていた時は何が違いましたか?」
関係性 専門家ーー患者 協働的パートナー

重要なのは、「問題志向が間違いで解決志向が正しい」ということではない点です。SFBTは「問題分析を意図的に脇に置く」ことで、本人がもともと持っている資源(リソース)が見えやすくなるという発想に立ちます。深刻なトラウマや精神疾患のケースでは、問題理解とSFBTを組み合わせる支援が一般的です。

SFBTの5つの基本前提|哲学を一枚で押さえる

de Shazer と Berg は、SFBTを支える哲学を「Assumptions(前提)」として明文化しています。技法を学ぶ前に、この5つの前提を腹に落とすことが、SFBTを正しく使いこなす鍵です。

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① 問題と解決は別物

問題を深く理解しなくても、解決は構築できる。原因を特定する必要はなく、「望む状態」を直接描くことで道が開ける。「壊れたものを直す」より「望むものを作る」

② うまくいっていることに注目する

どんなクライエントにも、すでに「うまくいっている瞬間」が必ずある。その例外を見つけ、増やしていく。「壊れていないものは直さない、うまくいっていることは続ける」

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③ クライエントが専門家

自分の人生・状況・価値観をいちばん知っているのはクライエント自身。セラピストは「知らない姿勢(not-knowing stance)」で問いかけ、答えはクライエントから引き出す

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④ 小さな変化が大きな変化を呼ぶ

「人生をひっくり返す変化」ではなく、「明日からできる小さな一歩」を重視する。波紋のように小さな変化が周囲に広がり、システム全体が動き始める

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⑤ 例外は必ずある

「いつもダメ」「何をしても効かない」と語られても、丁寧に探せば例外(うまくいっていた時、ましだった瞬間)が必ず存在する。例外こそが解決の種である

SFBTの主要5技法|質問のかたちで支援が動く

SFBTは「特殊な解釈」をするのではなく、「特殊な質問」をする療法です。質問のかたちそのものが介入であり、クライエントの注意の向きを未来や強みに切り替えていきます。代表的な5技法を押さえましょう。

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① ミラクル・クエスチョン

「今夜眠っている間に奇跡が起きて、問題が解決していたら、明日の朝あなたはまず何で気づきますか?」と問い、未来の解決像をありありと描いてもらう。SFBTの代表技法

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② スケーリング・クエスチョン

「0から10で、いまの状態はどのくらいですか」と数値で問う。10は理想状態、0は最悪。現在地・小さな進展・目標値を可視化し、次の一歩を具体化する

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③ 例外探し質問

「最近、問題がましだったのはいつですか?」「うまくいっていた時、何が違いましたか?」と問い、すでに起きている小さな成功例を掘り起こす。例外は解決の種

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④ コーピング・クエスチョン

「これだけ大変な状況で、どうやって持ちこたえているのですか?」と問う。深い苦境にあるクライエントの「すでに持っているサバイバル力」を可視化する技法

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⑤ コンプリメント

クライエントの強み・工夫・努力を、お世辞ではなく事実として承認する。直接的コンプリメント/間接的コンプリメント/セルフコンプリメントの3種類を使い分ける

ミラクル・クエスチョンの実例|典型的な台詞と展開

🪄 ミラクル・クエスチョンの典型的な切り出し

「では、少し変わった質問をしてもいいですか? 今夜あなたが眠っている間に、奇跡が起きたとしましょう。あなたを今日ここに連れてきた問題が、すっかり解決していたとします。でも、あなたは眠っていたので、その奇跡が起きたことを知りません。明日の朝、目が覚めたとき、あなたはまず何で『あ、奇跡が起きたんだ』と気づきますか?

この問いの肝は、いくつかの仕掛けにあります。

  • 「眠っている間に」——本人の努力や能力に依存せず、まず「望む状態」を素直に描かせる装置
  • 「明日の朝、まず何で気づきますか?」——抽象論ではなく、具体的・感覚的な小さな変化を引き出す
  • 奇跡を「達成可能なもの」と語らない——あえて「奇跡」と呼ぶことで、本人の検閲や現実的制約を一時的に外す
  • 家族・周囲の人の視点も問う——「あなたの奇跡に、家族はどうやって気づきますか?」と広げると、関係性のなかでの解決像が描けるようになる

クライエントが「朝の支度が少し早く済む」「コーヒーを淹れる余裕がある」「家族におはようと言える」など、具体的で日常的な細部を語り始めたら、その瞬間がスケーリング・クエスチョンや例外探しへ移る合図です。「最近、それに近い朝はありましたか?」と問い、すでに芽生えている解決の兆しを拾い上げていきます。

SFBTセッションの典型的な進行|5ステップ

SFBTのセッション構造は、シンプルでありながら洗練されています。de Shazer と Berg がBFTCで磨き上げた標準的な流れを、5ステップに整理しました。

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    ① 目標設定(Goal Formulation)

    「今日のセッションで、何が起きたら『来てよかった』と思えますか?」と問い、クライエントが望む変化を明確にする。「不安を消したい」のような否定形ではなく、「不安が減ったとき、代わりに何があるか」という肯定形で描いてもらう。

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    ② 解決像の構築(Miracle Question)

    ミラクル・クエスチョンを使い、問題が解決した「明日の朝」をできるだけ具体的に描く。視覚・聴覚・身体感覚を伴う細部を引き出し、解決像を共有のイメージにする。

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    ③ 例外探し(Exception Finding)

    「いまの奇跡の様子に少しでも近かった瞬間はありますか?」「最近、問題がましだった日はありましたか?」と問い、すでに起きている例外を発見する。クライエントは多くの場合、「あ、そういえば…」と語り始める。

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    ④ スケーリング(Scaling)

    「奇跡が10、最悪が0として、今日はいくつですか?」と問う。「3です」と答えれば、「0ではなく3にいるのはなぜですか?」と例外を掘る。続けて「3が4になるには、何が違っていますか?」と次の一歩を具体化する。

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    ⑤ 休憩・コンプリメント・宿題

    5〜10分の「考える休憩(thinking break)」のあと、セラピストはクライエントの強みを承認するコンプリメントを伝え、次回までの観察課題(「うまくいったことを観察してきてください」)を提案する。BFTCで開発された独特のフォーマット。

SFBTの適応領域|どんな現場で活きるか

SFBTは「軽やかさ」「短期性」「クライエント主導」という特徴から、医療臨床だけでなく多様な領域に応用されています。代表的な5領域を紹介します。

  • 学校教育——スクールカウンセラーが児童・生徒との短時間の面接で活用。不登校・いじめ・進路相談・友人関係など、原因追及より「望む学校生活」を描かせるアプローチが有効。教師研修にも導入される。
  • 産業・組織——産業カウンセラー・EAP(Employee Assistance Program)・キャリアコンサルタントが、短時間面接や復職支援、ハラスメント相談、キャリア面談で活用。問題分析より「望むキャリア像」を描かせる。
  • カップル・家族——カップルセラピー・家族療法の文脈で、対立構造から「共に望む未来像」へ視点を切り替える際に有効。Berg は児童保護分野でのSFBT適用にも先駆的な実践を残した。
  • 医療・看護——慢性疾患・依存症からの回復・がん患者の生活支援など、長期戦のなかで「いま・ここ」での小さな前進を見出すツールとして使われる。Berg『Tales of Solutions』『Brief Coaching for Lasting Solutions』が定番文献。
  • コーチング——ビジネス・スポーツ・教育コーチングに大きな影響を与えた。「ソリューションフォーカスト・コーチング」として独立した流れも形成されている。

短期療法としての特徴|5回前後で結了することが多い

SFBTは「ブリーフセラピー」を名乗る通り、短期での結了を志向します。BFTCでの初期研究では、平均セッション数が5回前後と報告されてきました。他の主要心理療法と比較すると、その短さが際立ちます。

療法 平均セッション数の目安 主な焦点
SFBT(解決志向ブリーフセラピー) 5回前後 解決像・例外・強み
認知行動療法(CBT) 12〜20回程度 認知・行動の修正
来談者中心療法 限定なし 関係性・自己受容
精神分析的療法 数十回〜数年 無意識・転移
家族療法 10回前後 家族システム

「短い=浅い」ではありません。SFBTは「変化のきっかけは1回のセッションで十分起きうる」という de Shazer の臨床観察に基づき、毎回のセッションが完結性を持つように設計されています。そのため「ワンセッションセラピー」として、初回面接の枠組みとしても使われます。

ナラティブ・セラピーとの関係|似ているが哲学が違う

SFBTとよく比較されるのが、Michael White と David Epston が体系化したナラティブ・セラピーです。両者は1980年代の家族療法から派生したポストモダン心理療法という共通点がありますが、焦点と方法は異なります。

観点 SFBT(解決志向ブリーフセラピー) ナラティブ・セラピー
創始者 Steve de Shazer / Insoo Kim Berg Michael White / David Epston
発祥地・年代 米国ミルウォーキー/1980年代 オーストラリア・ニュージーランド/1980年代
中心概念 解決像・例外・強み 外在化・ユニークな結果・再著述
問題への態度 問題は脇に置く 問題を「人物」として外在化する
社会的視点 個人と関係性 社会的言説・権力構造への注目
典型的問い 「奇跡が起きたら…」 「その『不安くん』はいつから来た?」

両者は「クライエントの語り」「強み志向」「短期志向」という共通点があり、実際の現場では併用されることも多くあります。

日本でのSFBT|日本ブリーフセラピー協会とSFAスクール

日本へのSFBT紹介は1990年代に始まり、現在ではいくつかの学会・協会・研修機関が活動しています。

日本ブリーフセラピー協会(JABT)

日本ブリーフセラピー協会は、ブリーフセラピー全般(SFBT・MRIモデル・エリクソニアン催眠など)の研修・普及を担う団体です。年次大会・研修会・認定資格などを通じて、心理職・教育関係者・対人援助職への裾野を広げています。

日本ブリーフサイコセラピー学会

1991年設立。ブリーフセラピー全般の研究・実践を扱う学会で、SFBTもその中心テーマのひとつ。年次大会と学会誌『ブリーフサイコセラピー研究』を通じて、エビデンスと実践知の蓄積を進めています。

SFA(Solution-Focused Approach)スクール

SFBTを「アプローチ」として現場応用に重点を置いた研修コミュニティ。教育・福祉・産業領域で活用されることが多く、ワークショップ形式の連続講座が各地で開催されています。SFBTを実務で使いたい教員・カウンセラー・コーチに人気があります。

主要な邦訳書籍

  • de Shazer『短期療法 解決の鍵』『家族療法・新作戦』(邦訳:金剛出版ほか)
  • Berg『ソリューション・フォーカスト・アプローチ入門』『家族支援ハンドブック』
  • 長谷川啓三・若島孔文・宮田敬一らによる解説書群(金剛出版・北大路書房・遠見書房など)
  • 『解決志向ブリーフセラピーハンドブック』(共著、訳書多数)

SFBTを学ぶ方法|書籍・研修・スーパービジョン

SFBTを身につけるには、書籍・実地研修・スーパービジョンを組み合わせるのが王道です。日本国内でも独学から専門研修まで段階的なルートが整っています。

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    ① 入門書で哲学と技法を押さえる

    日本語では Berg『ソリューション・フォーカスト・アプローチ入門』、宮田敬一編『ブリーフセラピー入門』、長谷川啓三『家族療法とブリーフセラピー』が定番。技法だけ覚えるのではなく、5つの基本前提を腹に落とす読み方を。

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    ② 体験型ワークショップに参加

    日本ブリーフセラピー協会・SFAスクール・各地の心理学系大学が開催するワークショップで、ロールプレイ中心の体験学習を積む。「セラピスト役・クライエント役・観察者役」を回す形式が主流。

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    ③ 現場で使いながら逐語記録を取る

    学校・産業・福祉などの実務場面で実際に使ってみる。許可を得たうえで逐語記録を作り、自分の問いかけの癖・取りこぼした例外・スケーリングの使い方を振り返る。

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    ④ スーパービジョンを受ける

    SFBTに精通した臨床家から、定期的なスーパービジョン(個人・グループ)を受ける。録音またはロールプレイをもとに、技法の精度と倫理を磨く。臨床心理士・公認心理師としての成長にも不可欠。

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    ⑤ 国際学会・原典に触れる

    SFBTAやEBTAの年次大会、de Shazer/Bergの原典に英語で当たることで、技法の背景にある言語哲学(後期ウィトゲンシュタイン)まで深く理解できる。研究者・指導者を目指す段階で取り組む価値が大きい。

SFBTの限界|どこで単独適用が難しいか

SFBTは強力なアプローチですが、万能ではありません。創始者の de Shazer と Berg 自身も「適用範囲には限界がある」と明言してきました。

⚠️ 単独適用が難しい代表的なケース

  • 急性期の重度精神疾患——統合失調症の急性期、重度の躁うつエピソード、急性のPTSDフラッシュバックなど。薬物療法・入院治療・専門的心理療法と並行することが前提
  • 複雑性トラウマ——幼少期からの慢性的虐待・性的搾取などのトラウマは、解決像を描く前にまず安心・安全の再構築が必要。トラウマフォーカスト療法・EMDRなどとの統合が望ましい
  • 自殺念慮の切迫期——具体的計画を伴う希死念慮の場合、まず安全プランニング・危機介入が優先。SFBTのコーピング・クエスチョンは支援的に使えるが、それ単独で十分とはしない
  • 強い解離・現実検討の歪み——未来像を描く前に、グラウンディング・現実感の安定化が先
  • クライエントが「話したい」「掘り下げたい」と望む場合——解決志向だけで進めると、本人のニーズを取りこぼす。来談者中心療法・力動的アプローチとの組み合わせが望ましい

現代の臨床では、SFBTを「単独で全てに使う」のではなく、「ケースに応じて他の療法と組み合わせる柔軟さ」が前提です。CBT・来談者中心療法・家族療法・トラウマ療法との統合的実践が、現場のスタンダードになっています。

体験談|SFBTを現場で使う3人の物語

💬 不登校支援で「奇跡が起きたら」と問えた中学校スクールカウンセラー(40代・女性)

「『学校に行きたくない』と泣くばかりだった中2の生徒に、ある日ミラクル・クエスチョンを試しました。最初は『そんなのありえない』と言っていたのが、しばらくして『朝、お母さんと一緒にコーヒー飲んでから家を出る』とぽつり。家庭でのちょっとした朝の儀式が見え、それを家族と共有したら2週間後に放課後登校が始まりました。SFBTは『軽い質問』に見えて、本人のなかにある芽を見つける鋭い装置だと実感しています」

💬 メンタル不調の社員と短時間面接で前進した産業相談員(50代・男性)

「30分しか時間が取れない産業領域の面接で、SFBTのスケーリング・クエスチョンが本当に役立っています。『今日は5です』と言われたら『0でも10でもなく5にいる工夫は?』と聞くだけで、本人がすでにやっている対処が言葉になる。問題分析に時間を割かなくても、次の一歩が見えるんです。長期面接を必要としない層への第一選択として定着しました」

💬 SFBTとCBTを併用するキャリアコンサルタント(35歳・女性)

「キャリア相談はそもそも『望むキャリア像』が中心テーマなので、SFBTと相性抜群です。一方で『どうせ私なんて』という認知の歪みが強い相談者には、CBTの認知再構成も併用しています。SFBT単独で押し通そうとせず、目の前の人に合わせて技法を組み合わせる柔軟さが、いちばん大切な学びでした」

SFBTにありがちな誤解5選|「魔法の質問」ではない

SFBTは技法のキャッチーさゆえ、しばしば表面的に理解されて誤用されます。代表的な誤解5つを整理しておきます。

  • 誤解①「ミラクル・クエスチョンは魔法の質問だ」——あの問いを暗記して投げかければ解決が降ってくる、という理解は誤りです。SFBTの本質は質問ではなく、5つの基本前提に立った姿勢。技法だけ真似ても効果は出ません。
  • 誤解②「ポジティブ思考を強要するセラピーだ」——SFBTは「無理にポジティブになれ」とは言いません。むしろ、コーピング・クエスチョンで「これだけ大変ななかでよくここまで」と苦境を承認します。強み志向と苦しみの否認は別物です。
  • 誤解③「問題を聞かないから冷たい」——SFBTでも初回には十分な問題傾聴を行います。「問題を聞かない」のではなく、「問題分析を支援の中心に据えない」。クライエントが語りたい問題はもちろん丁寧に受け止めます。
  • 誤解④「軽い問題にしか使えない」——Berg は児童保護・依存症・ドメスティック・バイオレンス・自殺予防など、もっとも深刻な領域でSFBTを使ってきました。重度ケースで「単独適用しない」ことと「使えない」ことは違います。
  • 誤解⑤「短いから簡単だ」——SFBTは「短く終わるよう設計された」療法であり、「簡単」な療法ではありません。むしろ、例外を逃さず拾う観察力・スケーリングの使い分け・コンプリメントの誠実さには、深い訓練が必要です。

よくある質問|SFBT Q&A 10問

Q1. SFBTは「ポジティブ強要」の心理療法ではないですか?

いいえ。SFBTは「無理に明るくなれ」とは決して求めません。むしろ、コーピング・クエスチョン(「これだけ大変な状況で、どうやって持ちこたえているのですか?」)に代表されるように、クライエントの苦しみを十分に承認したうえで、その人がすでに使っているサバイバル力に光を当てるのがSFBTの姿勢です。ポジティブ強要との根本的な違いは、感情の否認を求めないこと。「辛い」「絶望している」という語りは、そのまま受け止められます。

Q2. ミラクル・クエスチョンを最初から使うのが正解ですか?

必ずしも初回でなくても構いません。十分なラポール(信頼関係)が築かれていないうちにいきなりミラクル・クエスチョンを投げると、「ふざけている」と受け取られたり、防衛的な反応を招いたりします。クライエントが安心して空想に乗れるタイミングを見極めて使うのがプロの技です。初回はスケーリングや例外探しから入る方が自然なケースも多くあります。

Q3. SFBTはCBT(認知行動療法)と何が違いますか?

CBTは「認知や行動の歪みを特定し、修正する」ことで症状改善を目指す療法です。一方、SFBTは「望む状態を具体化し、すでに起きている例外を増やす」ことで変化を起こします。CBTは問題分析を含むのに対し、SFBTは問題分析を意図的に脇に置きます。両者は対立せず、現場では併用されることも多く、目の前のクライエントに合わせて使い分けるのが現代的アプローチです。詳しくは認知行動療法ガイドを参照ください。

Q4. SFBTのエビデンス(効果研究)はあるのですか?

はい、メタアナリシスを含む複数の研究が蓄積されています。うつ・不安・夫婦問題・児童行動問題・物質使用障害などの領域で、CBTや他の標準的療法と同等の効果が示されたメタ分析もあります(Kim 2008、Gingerich & Peterson 2013 ほか)。ただし、SFBTは「治療プロトコル」というよりアプローチ哲学であるため、CBTほど厳密なRCT(ランダム化比較試験)が組みにくいという研究方法上の課題も指摘されています。

Q5. 子どもや児童にもSFBTは使えますか?

はい、むしろ得意分野のひとつです。Insoo Kim Berg は児童分野での実践を多く残し、『Children’s Solution Work』(2003) などの著作があります。子どもには、ミラクル・クエスチョンを「魔法のステッキ」「ドラえもんの道具」などに置き換えたり、スケーリングを絵・色・指の数で表現するなどの工夫が用いられます。学校現場でスクールカウンセラーが日常的に使う技法群です。

Q6. SFBTは何回くらいのセッションで終結するのが標準ですか?

BFTCでの初期研究や複数の追試研究では、平均5回前後とされてきました。ただし、ケースによっては1〜2回で目標達成して終結することも、10回以上を要することもあります。重要なのは「短ければ短いほど良い」のではなく、「クライエントが目標を達成したら、その時点で終結する」という姿勢です。終結は別れではなく、必要に応じていつでも戻ってこられるという形を取ります。

Q7. ナラティブ・セラピーとどう違いますか?

両者ともポストモダン家族療法の系譜ですが、焦点が異なります。SFBTは解決像と例外に焦点を当て、ナラティブ・セラピーは問題の外在化(「不安くん」のように人格化する)と物語の再著述を中心に据えます。SFBTは個人と関係性に注目するのに対し、ナラティブはより社会的言説・権力構造への批判的視点を持ちます。両者は併用されることも多くあります。

Q8. SFBTのスーパービジョンは誰から受ければいいですか?

日本国内であれば、日本ブリーフセラピー協会・日本ブリーフサイコセラピー学会に所属する経験豊富な臨床家からスーパービジョンを受けるのが王道です。SFAスクールや各大学院でも、SFBTを専門にする指導者が在籍しています。国際的には、SFBTAやEBTAの認定トレーナーが世界各地で活動しており、オンラインでスーパービジョンを受けることも可能です。

Q9. 自分の人生にも、自己流でSFBTを取り入れられますか?

はい、考え方の枠組みとしてなら十分役立ちます。日記に「今日うまくいったこと(例外)」を書く、自分に「いま0〜10で何点?」「+1にするには?」とスケーリングを自問する、「もし奇跡が起きたら明日の朝の自分はどう違う?」と自分に問う——こうした日常的な実践は、セルフケアとして有効です。ただし、自己流の使用はあくまで補助で、深刻な心理的困難を抱えている場合は専門家の支援を受けてください。

Q10. SFBTは公認心理師・臨床心理士の試験範囲ですか?

はい。公認心理師・臨床心理士の試験では、心理療法の主要モデルのひとつとしてSFBTやブリーフセラピーが出題範囲に含まれます。創始者(de Shazer / Berg)、主要技法(ミラクル・クエスチョン、スケーリング、例外探し)、ブリーフセラピーの基本概念は押さえておくべきポイントです。出題比重は大きくありませんが、家族療法・短期療法の文脈で繰り返し問われています。

あわせて読みたい|カウンセリング技法の深掘り

参照元:de Shazer S. 『Keys to Solution in Brief Therapy』(1985, W.W. Norton)/同『Clues: Investigating Solutions in Brief Therapy』(1988)/同『Words Were Originally Magic』(1994)/Berg IK. 『Family Based Services: A Solution-Focused Approach』(1991, W.W. Norton)/Berg IK. & Steiner T. 『Children’s Solution Work』(2003)/Solution-Focused Brief Therapy Association (SFBTA) 公開資料(https://sfbta.org/)/European Brief Therapy Association (EBTA) 公開資料(https://www.ebta.eu/)/日本ブリーフセラピー協会 公開情報/日本ブリーフサイコセラピー学会 公開資料/Kim JS. (2008) “Examining the effectiveness of solution-focused brief therapy: A meta-analysis”/Gingerich WJ. & Peterson LT. (2013) “Effectiveness of Solution-Focused Brief Therapy: A Systematic Qualitative Review of Controlled Outcome Studies”(いずれも2026年5月時点の公開情報を参照)

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