職場での傾聴・1on1の聴き方完全ガイド|上司・先輩が部下の話を引き出す8つの質問
edit2026.05.13 visibility14
「1on1の時間が始まると、何を話せばいいのか分からなくなる」
「部下が『特にありません』としか言ってくれず、結局自分が一方的に話してしまう」
「最近元気がない部下が気になるが、踏み込んでいいのか線引きが難しい」
管理職になって最初に直面するのが、「部下の話をどう聴くか」という壁です。会議のファシリテーションや業務指示には自信があっても、1対1で本音を引き出す対話は、まったく別のスキルが必要になります。多くの管理職が「自分の上司に話を聴いてもらえた経験がない」まま現場に上がるため、見本がないまま手探りで進めることになりがちです。
一方で、Googleが2012年から2015年にかけて実施した社内研究「プロジェクト・アリストテレス」では、優れたチームに共通する最大の要因が「心理的安全性(Psychological Safety)」であると結論づけられました。心理的安全性の概念は、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に提唱したもので、現在では世界中の経営現場で実践テーマとなっています。
この記事では、ココトモが企業研修・産業領域でのキャリア支援で関わってきた管理職・人事担当者の声をもとに、1on1ミーティングの構造・効果的な質問8つ・ダメな質問5選・心理的安全性を高める具体行動・部下のメンタル不調サインの察知まで、明日からの1on1で実際に使える形で整理しました。「聴き方は性格ではなく技術」——その視点で、ご自分の対話を見直すきっかけになれば幸いです。
📌 この記事でわかること
- Google「プロジェクト・アリストテレス」が示した心理的安全性と1on1の関係
- 部下の話を聴けない4つの罠(マウンティング/答え押し付け/経験投影/評価モード継続)
- 1on1の理想的な5ステップ構造(アイスブレイク→近況→今の課題→キャリア→次回までのアクション)
- 明日から使える効果的な質問8つと、絶対避けたいダメな質問5選
- エドモンドソン研究をベースにした心理的安全性を高める5つの具体行動
- 見逃しがちな部下のメンタル不調サイン7項目と、産業医・人事・EAPの3層対応
- なぜ1on1で評価しない方がいいのか——評価面談との明確な分離の理由
- 体験談3パターン・失敗5選・FAQ10問まで、現場のリアルを網羅
1on1ミーティングとは|Google「プロジェクト・アリストテレス」と心理的安全性
1on1ミーティング(以下、1on1)とは、上司と部下が定期的に1対1で行う、業務報告ではなく「部下のための時間」です。シリコンバレー発祥の手法で、日本ではヤフー株式会社が2012年に全社導入したことをきっかけに広まりました。現在は大企業・スタートアップ・自治体・医療機関にまで導入が進み、人材育成と離職予防の両面で標準的な手法となりつつあります。
Googleが2015年に発表した「プロジェクト・アリストテレス」
Googleは2012年から3年がかりで社内の180チームを徹底分析し、「成果を出すチームに共通する要素は何か」を解明しようとしました。当初の仮説は「優秀な人材を集めればうまくいく」でしたが、データはまったく違う結論を示しました。
人員構成・スキル・性格特性のどれよりも、「心理的安全性(Psychological Safety)」が圧倒的に大きな差を生んでいたのです。これは「対人リスクをとっても罰せられないという信念」と定義され、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年の論文で提唱した概念です。
心理的安全性は「ぬるさ」ではない
よくある誤解として、「心理的安全性=優しさ・甘さ・ぬるい職場」と捉えられがちですが、これは正反対です。エドモンドソン教授は著書『恐れのない組織(The Fearless Organization)』のなかで、心理的安全性は「率直に意見・反対・失敗を口にできる状態」であり、高い基準と両立してこそ機能すると繰り返し述べています。
つまり、心理的安全性が高い職場ほど、議論は活発で、失敗の報告も早く、改善のサイクルが速い——そういう「健全な葛藤」が生まれやすい場、というのが正確な理解です。
1on1の頻度——週1〜月1の幅で
1on1の頻度は組織によって幅があります。シリコンバレー流では週1回・30分が中心ですが、日本企業では隔週1回・30分、あるいは月1回・60分のパターンも一般的です。業種・部下の人数・業務の繁閑によって調整するもので、「正解はひとつではない」と捉えるのが現実的です。
ただし、2か月以上空くと『1on1の効果が出にくくなる』という指摘が多く、最低でも月1回は確保するのが現場での目安になっています。
なぜ日本企業で1on1が広がったのか
日本企業で1on1が広がった背景には、「終身雇用・年功序列の崩壊」と「若手の早期離職」という2つの社会変化があります。かつての日本企業では、長時間の同じ職場・同じ飲み会・同じプロジェクトのなかで、上司と部下の対話は自然発生していました。しかし、テレワークの普及・ジョブ型雇用への移行・世代間ギャップの拡大により、「意図的に1対1の時間をつくらないと対話が消える」状況が一般化しました。
また、入社3年以内の離職率が3割を超える業種が増えるなかで、「部下が辞める前に変化に気づくチャネル」として、1on1は単なる育成手法を超えた経営インフラの位置を占めるようになっています。
出典:Google re:Work「Project Aristotle」公開資料/Edmondson, A. C. (1999) “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”/Amy Edmondson『The Fearless Organization(恐れのない組織)』2018
部下の話を聴けない4つの罠|善意の管理職ほどハマる
多くの管理職が、部下の話を「聴いているつもり」で聴けていません。悪意があるのではなく、むしろ「育てたい・助けたい」という善意ほど、聴く姿勢を歪めてしまうのが厄介な点です。代表的な4つの罠を整理しました。
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① マウンティングの罠
部下の話を聴きながら、無意識に「自分の方が経験がある」「もっと厳しい状況を乗り越えた」と心の中でランク付けしてしまう。表情・相槌の質に表れ、部下は「この人には話しても無駄だ」と察知する
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② 答え押し付けの罠
話の途中で「それは○○すればいい」と即座に解決策を渡してしまう。部下は自分で考える機会を失い、「相談しても自分の答えにならない」と学習し、次第に本音を話さなくなる
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③ 自分の経験投影の罠
「自分が新人の頃は…」と話を奪い取ってしまう。部下の状況と自分の過去は別物なのに、共感を装って自分語りに転じる。気づくと1on1の時間の半分以上を自分が話している
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④ 評価モード継続の罠
日常業務での「評価する側/される側」の構造を、1on1にそのまま持ち込んでしまう。部下は「弱みを見せたら評価が下がる」と警戒し、当たり障りのない報告で時間が過ぎる
この4つの罠に共通するのは、「上司が話の主導権を握り続けている」という構造です。1on1は「上司の指導の場」ではなく「部下が考え、感じ、整理するための時間」——この前提を腹落ちさせるところから始まります。
1on1の理想的な構造|5ステップで30分〜60分を組み立てる
1on1は「自由に話そう」だけでは機能しません。一定の構造(フレーム)があった方が、部下も上司も安心して時間を使えます。標準的な5ステップを紹介します。
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1
① 5分:アイスブレイク
いきなり仕事の話に入らず、まず業務以外のテーマで会話を温める時間を取ります。「週末どうでした?」「最近観たドラマあります?」など、雑談で構いません。これは緊張をほぐすだけでなく、上司側も「評価する人」モードから「聴く人」モードへ切り替えるスイッチになります。
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2
② 5〜10分:近況
「この2週間どうでしたか?」とオープンに尋ね、業務・体調・気分まで含めて広く聴きます。「特にないです」と返ってきたら、待つのが鉄則。沈黙を埋めようとせず、3〜5秒待つと、部下のほうから言葉が出てくることが多いです。
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3
③ 10〜20分:今の課題・気になっていること
1on1のメインパート。「いま気になっていることは?」「うまく進んでいないと感じることは?」と、部下が今まさに抱えているテーマを引き出します。解決を急がず、まず状況を一緒に眺める姿勢が、相手の思考を深めます。
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4
④ 5〜10分:キャリア・成長
毎回でなくてよく、月1回ほどのペースで中期的な視点を扱います。「3か月後にどうなっていたい?」「いま試したいスキルは?」など、業務の外側にある成長テーマに触れます。短期業務に追われる部下ほど、この時間が貴重な「立ち止まり」になります。
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5
⑤ 5分:次回までのアクション
「次の1on1までに、何を試してみたい?」と、部下自身に小さなアクションを言葉にしてもらいます。上司から宿題を出すのではなく、部下のなかから出てきたアクションを採用するのがポイント。次回の冒頭で「あれ、どうなった?」と振り返れば、PDCAが回り始めます。
この5ステップは目安であり、毎回きっちり守る必要はありません。部下が話したいテーマがあれば、全時間をそれに使ってもいいのが1on1の柔軟さです。テンプレートに縛られすぎると、罠④の「評価モード」に戻ってしまいます。
効果的な質問8つ|部下の言葉を引き出す問いかけ
1on1の質を決めるのは、上司が投げる「最初の問い」です。閉じた問い(YES/NOで終わるもの)ではなく、部下の内側から言葉を引き出すオープンクエスチョンを中心に据えるのが基本です。現場でよく機能する8つを紹介します。
☀️
① 最近どう?
超シンプルだが破壊力のある問い。仕事に限定せず、生活全体を含めて答えられる余白がある。「特にないです」が返ってきても焦らず、3秒待つと本音が出る
💭
② いま気になっていることは?
「課題は?」より柔らかく、不安・違和感・引っかかりまで広く拾える問い。本人がまだ言語化できていないモヤモヤを引き出す入り口になる
🚀
③ もし制約がなかったら?
時間・予算・人手などの現実的な制約を一度外して考えてもらう問い。普段は口に出せない「本当はこうしたい」が出てくる。創造性を解放する効果がある
🌟
④ うまくいっている時の自分は?
問題分析ではなく強みに焦点を当てる問い。「調子のいい時の自分はどんな状態か」を言語化することで、再現性のあるパフォーマンスのコツが見える
🤝
⑤ 私にどう関わってほしい?
上司側の関わり方を、部下に決めてもらう問い。「もっと相談に乗ってほしい」「逆に任せてほしい」など、部下のニーズが明確になり、関係性が更新される
🧪
⑥ 次に試したいことは?
「やるべきこと」ではなく「試したいこと」と聞くのがコツ。失敗してもOKというニュアンスが伝わり、心理的安全性のなかで小さな実験が動き出す
💡
⑦ 最近気づいたことは?
業務の中での発見・違和感・学びを言語化する問い。小さな気づきを口に出すこと自体が学習の定着になり、本人の成長を本人が認識する機会になる
🔭
⑧ 3か月後のあなたは?
中期的な視点を取り戻す問い。日々の業務に埋もれていた「なりたい姿」を引き出す。「1年後」だと遠すぎ、「来月」だと近すぎる。3か月が考えやすいスパン
これらの問いに共通するのは、「答えが決まっていない」こと、そして「上司が答えを持っていないことを伝えている」ことです。部下のなかから答えが立ち上がってくる時間を、上司の役目として守る——これが1on1のもっとも重要な技術です。
ダメな質問5選|部下の口を閉ざす問いかけ
一方で、無自覚に使ってしまう「対話を止める質問」があります。多くの管理職が善意で使ってしまうものほど、部下に強い圧力を与えます。
- 誘導質問——「○○すべきだと思わない?」「やっぱり△△が原因だよね?」のように、答えを織り込んだ質問。部下は「上司に同意するしかない」と感じ、本音は閉じる。質問の形をした命令になっている
- 取調べ質問——「なぜできなかったの?」「どうしてそうなった?」と原因を詰める質問の連鎖。「Why」が3回続くと、部下は防衛モードに入る。事実確認は必要だが、責める口調と峻別する
- YES/NO質問の連発——「進んでる?」「順調?」「問題ない?」と、はい・いいえで終わる質問だけで時間を使うパターン。一見会話に見えて、何も深まらない。オープンクエスチョンに置き換える
- 抽象的すぎる質問——「これからどうしたい?」「人生どうしていくつもり?」のような大きすぎる問い。考える足場がなく、部下は「何を答えればいいか分からない」と固まる。スパンと範囲を区切ると答えやすい
- 私感的な質問——「私はこう思うんだけど、君はどう?」と、上司の意見を先に出してから尋ねる質問。多くの部下は上司の意見に合わせて回答するため、本音は引き出せない。意見は最後に伝える
心理的安全性を高める5つの具体行動|エドモンドソン研究ベース
エドモンドソン教授の研究と、Googleプロジェクト・アリストテレスの実証データから、心理的安全性を高めるためにリーダーが取れる具体行動が抽出されています。1on1の場面でそのまま使える5つを紹介します。これらは派手な仕掛けではなく、日々の小さな所作の積み重ねです。1か月で組織は変わりませんが、半年〜1年続けると確実にチームの空気が変化します。
- 自分の失敗を先に開示する——「私もこの間、こんな失敗をしてね」と上司側からの自己開示を先に置く。エドモンドソン教授はこれを「リーダーの脆弱性開示」と呼び、部下が安心して弱みを話せる土壌になると指摘している
- 意見を求める前に、聞く準備があると示す——「反対意見も歓迎したい」「異論があれば本当にありがたい」と、最初に明示する。これがないと、部下は「言ったら睨まれる」と感じて口を閉じる
- 感謝を具体的に伝える——「ありがとう」だけでなく「先週の○○の対応、本当に助かった」と場面・行動・効果を具体的に伝える。抽象的な感謝は儀礼に聞こえ、心理的安全性は上がらない
- 失敗を「学習データ」として扱う——失敗の報告に対して「責める」より先に「教えてくれてありがとう」と返す。これにより、報告のスピードが上がり、組織として早く学べる。エドモンドソン教授は「報告される失敗の数」を心理的安全性の指標としている
- 1on1の内容を評価に持ち込まない——1on1で出た悩み・弱み・本音を、次の評価面談で材料にしない。これを徹底することで、初めて部下は安心して本音を語れる。後述の評価面談との分離は、心理的安全性の生命線
補足として、エドモンドソン教授は心理的安全性が高い組織の特徴を「率直さ・好奇心・健全な葛藤」の3点でも整理しています。一方、心理的安全性が低い組織では、会議で誰も発言しない、失敗が現場で隠蔽される、上司の前で本音を言わない——こうした「沈黙のコスト」が組織を蝕みます。1on1は、この沈黙のコストを下げるための最小単位の処方箋といえます。
部下のメンタル不調サインを察知する7項目|気づきの解像度を上げる
⚠️ 「いつもと違う」は早期対応の最大の手がかり
厚生労働省「働く人のメンタルヘルス」では、ラインケア(管理職による部下のケア)の最重要ポイントとして「いつもと違う様子に気づく」ことを挙げています。診断するのは医師の役目で、管理職に求められるのは「変化に気づき、適切なルートにつなぐ」こと——この線引きを押さえると行動しやすくなります。
「いつもと違う」を見つける3つの観察軸
変化に気づくには、「比較対象」が必要です。多くの管理職が見落とすのは、観察軸を持たないまま「なんとなく元気がない」と感じる段階で止まってしまうこと。次の3軸で観察すると、変化が言語化しやすくなります。
- 時系列の比較——「3か月前のこの部下と今を比べてどう違うか」を意識的に振り返る
- 場面の比較——「会議の発言/チャットの返信/雑談の様子」と複数の場面で兆候を確認する
- 本人基準の比較——「他の部下と比べてではなく、この人本来の状態」を基準に据える
見逃しがちな7つのサイン
- 遅刻・欠勤の増加——時間に正確だった人の遅刻が増える、月曜の欠勤が連続する、有給を金曜に集中させる——これらはエネルギー低下の典型的なサイン
- PC前で固まる時間が増える——画面を見つめたまま手が動かない、午後になると明らかに作業が止まる、ミスが増える。集中力の低下は本人も気づきにくい変化
- 笑わなくなる・表情が乏しくなる——以前は雑談に笑顔で参加していた人が、無表情になる。社内チャットの絵文字や返信の温度感が変わる
- 口数が極端に減る——会議で発言しなくなる、雑談を避ける、ランチに同席しなくなる。逆に過剰に明るく振る舞うケースもあるので「いつもと違う」が物差し
- 電話を取らない・メールの返信が遅い——コミュニケーション全般から距離を置く行動。判断や応答のエネルギーが枯渇しているサイン
- 身だしなみの変化——服装が乱れる、髪を整えない、姿勢が崩れる——本人が自分のケアにエネルギーを割けない状態を示すことがある
- 「辞めようかな」「消えたい」など退職や否定的な発言——軽い口調でも、こうした言葉が出たら必ず受け止める。「冗談だよ」と流さず、別の場で改めて声をかける
これらのサインは「単独で出る」より「複数が同時に出る」と要注意です。1〜2項目だけなら一時的な体調・気分の波の可能性もありますが、3項目以上が2週間以上続く場合は、次に説明する3層対応に進みます。
「不調かも」と感じた時の対応3層|産業医・人事・EAP
管理職の役目は「気づき、つなぐこと」までで、診断や治療には踏み込まない。これが大原則です。日本の労働安全衛生法と各社の制度に基づき、3つの層を理解しておくと安心です。
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1
① 産業医(第一の専門ルート)
労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場には産業医の選任が義務づけられています。メンタル不調が疑われる場合、本人の同意を得たうえで産業医面談を案内するのが最初のステップ。産業医は労務上の意見を出せる立場で、必要に応じて主治医との連携・休職判断・復職支援を担います。
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2
② 人事・労務(社内の制度ルート)
休職制度・配置転換・業務量調整・時短勤務など、制度面の対応は人事・労務部門の領域です。管理職が個人的に判断して業務を減らすのではなく、人事と相談しながら正式な手続きで進めることで、本人にとっても公平な対応になります。ストレスチェック制度(2015年12月施行、50人以上事業場で年1回義務)の結果を起点に動き出すケースも多くあります。
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3
③ EAP(社外の相談ルート)
EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)は、社外のカウンセラー・心理職に匿名で相談できる制度です。導入している企業では、本人が会社に知られずに専門相談を受けられるため、「社内には相談しづらい」段階で活用できる重要な選択肢になります。自社にEAPがあるかどうかは、人事部に確認しておきましょう。
管理職としては、「自分が解決しよう」と抱え込まず、専門ルートに早めに橋をかけるのが最善の支援です。産業カウンセラーガイドでは、社内の相談窓口体制についてさらに詳しく整理しています。
評価面談との明確な分離|なぜ1on1で評価しない方がいいのか
1on1と評価面談を混同するのは、心理的安全性を一気に壊す代表的な失敗です。両者の役割は明確に違います。
📋 1on1と評価面談の違い
1on1の目的:部下の成長・気づき・整理を支える「部下のための時間」。評価軸は持ち込まない。
評価面談の目的:期初・期末の目標設定、業績の確認、処遇への反映を行う「制度の時間」。評価軸が中心にある。
この2つを同じ場でやろうとすると、部下は「評価される場で本音を出すのは危険」と感じ、口を閉ざします。結果、1on1は形だけ続いて中身が空洞化していきます。
分離するための3つの工夫
- カレンダーで明確に区別する——「1on1(月2回)」「評価面談(半期1回)」と分けて、誤解の余地をなくす
- 1on1の冒頭で言葉にする——「ここは評価する時間じゃないから、安心して話してね」と毎回伝える。小さな言語化が積み重なって信頼になる
- 1on1で出た弱みを評価に持ち込まない——これを徹底することで、初めて部下は本音を出せる。逆に1回でも持ち込むと、関係は数年単位で戻らなくなる
「目標設定」だけは1on1で扱ってもいい
例外として、評価制度に紐づかない自主的な目標設定は1on1で扱っても問題ありません。たとえば「3か月後にこのスキルを身につけたい」「来期はこの分野に挑戦したい」といった、部下が主導する成長テーマは1on1の良い議題になります。これらは評価面談で「達成度を測る対象」にしないと事前に約束しておくのがポイントです。
評価制度上のMBO(目標管理)と1on1での挑戦テーマを分けて運用すると、部下は安心して「失敗してもいい目標」を口に出せるようになり、結果として組織全体の挑戦の総量が増えていきます。
体験談|3つの現場の物語
💬 40代・管理職(IT企業マネージャー、部下8名)
「正直、1on1は『時間の無駄』だと思っていました。部下が黙ったまま終わる回も多くて。転機は、研修で『最初の5分は雑談、そこから2週間どうだったか聞く』という型を教わったこと。型に乗ったら、不思議と部下が話し出すようになり、半年後にはエンジニアの一人が『3年前から考えていた転職を保留にして、ここで挑戦してみます』と言ってくれて。聴くって技術なんだと初めて実感しました」(148字)
💬 35歳・人事担当(中堅メーカー、人事課5年目)
「全社で1on1導入の旗振りをしましたが、最初の2年は形骸化が深刻でした。改善のポイントは『管理職に研修だけでなく、お互いに1on1を体験してもらった』こと。管理職同士でペアを組んで模擬1on1をやると、『聴いてもらうとこんなに違うのか』と腹落ちする方が続出。3年目から不調者の早期発見が増え、休職前の対応ができるようになりました」(150字)
💬 50代・メンター(新入社員のメンタリング担当)
「新人メンタリングを4年やっています。最初は『何かアドバイスしなきゃ』とプレッシャーでしたが、ある先輩に『9割聴いて1割しか話さない』と教わってから楽になりました。新人は答えを欲しがっているように見えて、本当は『話を整理する場』を求めている。沈黙を怖がらず、3秒待つだけで、自分の言葉が出てくる瞬間に何度も立ち会えました」(145字)
ありがちな失敗5選|善意で踏み外すパターン
- 議題を上司が用意する——「今日はこれについて聞きたい」と上司から議題を出すと、業務報告会に逆戻り。議題は部下から出してもらうのが原則で、出ない時は質問8つから始める
- 毎回キャンセル・延期する——「忙しいから来週」を3回続けると、部下は「結局この時間は優先度が低い」と学習する。1on1のキャンセルは、組織信頼を直接削る行為になる
- 1on1の場でメモを取りまくる——上司がノートに書き続けると、評価面談の雰囲気が出てしまう。簡単なメモは「終わった後にまとめる」のが安心。記録するなら部下に「メモしていい?」と必ず断る
- 「うちのチームは心理的安全性が高い」と上司が言う——心理的安全性は部下が感じるものであり、上司が判定するものではない。エドモンドソン教授も「リーダーが自己評価で判定するのは要注意」と指摘している
- 不調サインに気づいたのに様子見——「もう少し見守ろう」と先延ばしにすると、休職・退職という重い対応になりかねない。気づいた時点で人事・産業医に相談する選択肢を常に持っておく
よくある質問|1on1・職場の傾聴Q&A 10問
Q1. 部下が「特にありません」しか言いません。どうすれば? ▼
「特にないです」は「考える時間が必要」のサインです。すぐに次の質問に移らず、3〜5秒待つだけで言葉が出てくることが多くあります。それでも出ない場合は、「最近の業務で印象に残ったこと、ひとつだけ教えて」と範囲を狭めた質問に切り替えると答えやすくなります。1on1を始めて数か月は「特にない」が続くこともありますが、関係性とともに必ず変わります。
Q2. 1on1の理想的な頻度は?週1?月1? ▼
業種・部下の人数・業務の繁閑によって幅がありますが、シリコンバレー流は週1回・30分、日本企業の中央値は隔週1回または月1回・30〜60分です。2か月以上空くと効果が出にくくなるため、最低でも月1回は確保するのが目安。頻度より「カレンダーに固定して、絶対にキャンセルしない」ことのほうが重要です。
Q3. オンライン1on1(リモート)でも質は保てますか? ▼
保てます。ただし対面と比べて非言語情報が減るため、いくつか工夫が必要です。お互いカメラオンにする、雑談の時間を意識的に長めにとる、画面共有はせず「対話」に集中する、沈黙を怖がらず待つ——この4点を意識すると、リモートでも質の高い1on1が成立します。逆に、リモートのほうが部下にとって安心感がある場合もあります。
Q4. 評価面談と1on1を完全に分けるべき理由は? ▼
評価軸が混ざると、部下は「弱みを見せたら評価が下がる」と警戒し、本音を話さなくなるからです。1on1は「部下のための時間」、評価面談は「制度のための時間」と役割が違います。カレンダーで明確に区別し、1on1の冒頭で「ここは評価する場じゃない」と毎回言葉にすることで、心理的安全性が積み上がっていきます。
Q5. 沈黙が怖くて、つい話してしまいます。どうすれば? ▼
多くの管理職が同じ悩みを抱えます。コツは「3秒数える」と決めておくことと、「沈黙=相手が考えている時間」と捉え直すこと。沈黙を埋めようと上司が話し始めると、相手の思考は止まります。手元の水を飲む、視線をノートに落とすなど、沈黙の間に上司ができる小さな動作を決めておくと、待つことに耐えやすくなります。
Q6. 「最近どう?」だけで30分持たせるコツは? ▼
最初の問いがすべてではなく、相手の答えに合わせて深掘りしていくのが本質です。「最近どう?」→「○○が大変で…」→「もう少し詳しく聞かせて」→「その中で一番引っかかっているのはどこ?」と具体化していく問いを重ねると、30分はすぐ過ぎます。「広げる→絞る→広げる」のリズムを意識すると、対話に厚みが出ます。
Q7. 部下が泣き出してしまった時はどうすれば? ▼
まず「驚かない・遮らない・解決しない」。ティッシュを差し出し、「ゆっくりで大丈夫」と言葉にしながら、相手が落ち着くまで静かに横にいます。泣いていることそのものを否定しないのが最大の支援です。落ち着いたあとで「何があったか、話せそうなら聞かせて」と促し、内容によっては産業医・人事・EAPへの橋渡しを検討します。一人で抱えないでください。
Q8. 不調かもしれない部下に、メンタル系の話をどう切り出す? ▼
診断・推測は避け、「いつもと違う様子」を事実として伝えるのが原則です。「最近、表情が硬く見える時があって気になっていたんだけど、体調はどう?」のように、観察→気遣い→質問の順で伝えます。「うつ病じゃない?」のような診断ワードは絶対に使わず、産業医面談やEAPの利用を選択肢として提示するに留めます。
Q9. ストレスチェックの結果を1on1で扱っていい? ▼
労働安全衛生法に基づくストレスチェックの個人結果は本人の同意なく上司に開示されません。1on1で結果を直接扱うことはできず、本人が自発的に話してきた場合のみ受け止める姿勢が適切です。組織全体の集団分析結果は、人事・産業医経由でラインに共有されることがあり、それは職場改善の材料として活用できます。
Q10. 「1on1なんて無駄」と言う部下にはどう接する? ▼
無理に説得せず、「無駄と感じている理由」を聴くのが第一歩です。過去の上司から評価モードでの面談ばかりだった、何を話していいか分からない、業務時間を奪われていると感じる——理由はさまざまです。理由が見えたら、それに合わせて1on1の使い方を一緒に設計し直します。3か月続けても変わらない場合は、1on1の頻度を減らす・他の手段にする等、柔軟に対応するのも選択肢です。
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参照元:Google re:Work「Project Aristotle」公開資料(https://rework.withgoogle.com/)/Edmondson, A. C. (1999) “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”(Administrative Science Quarterly)/Amy C. Edmondson『The Fearless Organization(恐れのない組織)』Wiley, 2018/厚生労働省「働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト こころの耳」(https://kokoro.mhlw.go.jp/)/厚生労働省「ストレスチェック制度 簡単導入マニュアル」(労働安全衛生法に基づく制度、2015年12月施行)/厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」/一般社団法人 日本産業カウンセラー協会 公開資料を参照(いずれも2026年5月時点)。1on1の頻度・形式は組織により幅があり、本記事の数字・運用は標準的なレンジを示すものです。