第三回『障害と生きる』――考え方を工夫すること

【前回の振り返り】

前回は、障害を抱えながら生活を続けていくために、生活の土台を整えることについて書きました。

睡眠、食事、通院、服薬。

一人で抱え込まず、支援につながること。

予定や働き方を、自分に合う形にしていくこと。

そうした一つひとつは、私にとって生き延びるために必要な工夫でした。

ただ、生活の形を整えるだけで、すべてが楽になったわけではありません。

生活を固めながらも、私は自分の考え方や、物事の受け止め方についても、少しずつ見直していく必要がありました。

今回は、その「考え方を工夫すること」について書いてみようと思います。

【考え方を変えるというより、追い込みすぎない形にする】

「考え方を変える」と聞くと、前向きになることや、物事を明るく受け止めることのように感じるかもしれません。

けれど、私にとっての考え方の工夫は、無理にポジティブになることではありませんでした。

むしろ、自分を追い込みすぎないために、物事の見方を少しずつ調整していくことでした。

私は長い間、周りと同じ速度で進めないことや、同じように働けないこと、同じような人生設計を描けないことに、苦しさを感じてきました。

周りは進んでいるのに、自分だけ遅れている。

普通ならもっとできるはずなのに、自分にはできていない。

そんなふうに考えて、自分を責めてしまうこともありました。

けれど、同じ速度、同じ成功基準、同じ幸せの形を追い続けるほど、私は苦しくなっていきました。

だから少しずつ、「同じであること」を目指しすぎないようにしていきました。

周りと同じ速度で進めなくてもいい。

同じ成功基準を持てなくてもいい。

同じ幸せの形を選べなくてもいい。

そう考えることは、あきらめることではありませんでした。

自分が壊れにくい形を探すために、必要な考え方だったのだと思います。

【しんどい日の結論を信用しすぎない】

考え方を工夫するうえで、私にとって大切だったことの一つに、「しんどい日の結論を信用しすぎない」というものがあります。

落ち込んでいる日や、疲れがたまっている日には、どうしても物事を悪い方向に考えやすくなります。

もうだめかもしれない。

自分には向いていないのかもしれない。

これからもずっと苦しいままなのかもしれない。

そんなふうに、頭の中で結論が大きくなってしまうことがあります。

もちろん、そのときの苦しさが嘘というわけではありません。

しんどいものは、しんどい。

つらいものは、つらい。

そこを無理に否定する必要はないと思っています。

ただ、しんどい日に出した結論が、いつも正しいとは限りません。

疲れているときの自分は、視野が狭くなっていることがあります。

落ち込んでいるときの自分は、未来まで全部暗く見えてしまうことがあります。

だから私は、そういう日は無理に人生の結論を出さないようにしています。

「今日は決めつけずに考えていい日」

そう思うようにしています。

今日の自分は、判断する力が少し弱っているかもしれない。

だから、今すぐ決めなくてもいい。

明日以降、少し落ち着いてからもう一度考えてもいい。

そうやって、しんどい日の自分にすべてを決めさせないことも、私にとっては大切な工夫でした。

【完璧に立ち直るより、揺れ幅を小さくする】

以前の私は、落ち込まない自分にならなければいけないと思っていたところがありました。

もっと強くならなければいけない。

気にしないようにならなければいけない。

早く立ち直れる人間にならなければいけない。

そんなふうに考えていました。

けれど、障害を抱えながら生きていると、気分の波や、疲れやすさ、人間関係の影響を完全になくすことは難しいと感じています。

落ち込む日もあります。

動けない日もあります。

考えがまとまらない日もあります。

何かをきっかけに、大きく揺れてしまう日もあります。

だから私は、「まったく揺れない自分」を目指すよりも、「揺れても戻ってこられる形」を作ることの方が大切なのだと思うようになりました。

完璧に立ち直ることを目指すのではなく、揺れ幅を少し小さくする。

大きく崩れきる前に、休む。

しんどくなりそうな予定は詰め込みすぎない。

不調のサインに気づいたら、早めに生活を整える。

一人で抱え込みすぎないようにする。

そうした小さな工夫の積み重ねが、私にとっては大切でした。

耐えるだけでは、いつか限界が来てしまいます。

だから、ただ我慢し続けるのではなく、揺れ幅を小さくして維持する。

それが、私にとっての生きる工夫の一つでした。

【「普通になる」より「壊れにくくなる」】

私は長い間、「普通にならなければいけない」と思っていました。

普通に学校へ行くこと。

普通に働くこと。

普通に人付き合いをすること。

普通に将来を考えること。

そうしたものに近づけない自分を、責めていた時期もありました。

けれど今は、「普通になること」よりも、「壊れにくくなること」を大切にしたいと思っています。

普通に見える形に無理に合わせても、自分の内側が壊れてしまうなら、それは私に合った生き方ではないのだと思います。

無理に周りと同じ形を目指すより、自分が長く続けられる形を探す。

調子を崩しにくい予定の入れ方を考える。

疲れたときに休める余白を残す。

相談できる相手や場所を持つ。

自分を責める前に、仕組みを見直す。

そういう考え方に変わっていきました。

できなかった自分を責めるだけでは、同じ苦しさを繰り返してしまいます。

でも、「どうすれば少し楽になるか」「どこを変えれば崩れにくくなるか」と考えると、少しだけ次の工夫が見えてくることがあります。

自分を責めることより、仕組みを見直すこと。

それも、私にとって大切な考え方でした。

【攻める時期と守る時期を分ける】

もう一つ、私が大切にしている考え方があります。

それは、「今は攻める時期なのか、守る時期なのか」を考えることです。

元気があるときには、新しいことに挑戦したり、予定を進めたり、人と関わったりすることができます。

仕事のことを考える。

支援者に相談する。

手続きを進める。

文章を書く。

新しい場所へ行ってみる。

そうした「攻める」動きができる時期もあります。

けれど、いつも攻め続けられるわけではありません。

しんどいときにまで同じように動こうとすると、あとから大きく崩れてしまうことがあります。

私は以前、将棋の駒のように、自分の生活や心の状態を考えたことがありました。

攻めるための駒もあれば、守るための駒もあります。

前に進む駒だけでは、王将を守ることはできません。

私にとっての王将は、自分の生活や心身の安定なのだと思います。

その王将を守るためには、睡眠、食事、休憩、趣味、誰かと話すこと、何もしない時間など、守りの布陣も必要です。

それらを「怠け」や「無駄」と考えてしまうと、休むことすら苦しくなってしまいます。

けれど、守る時間には守る時間の役割があります。

体力を回復させること。

余力を残すこと。

生活を崩しきらないこと。

また動ける状態に戻していくこと。

それも、大切な一手なのだと思います。

攻めることだけが、前に進むことではありません。

守ることも、生活を続けていくための大切な工夫でした。

【考え方を工夫することは、弱さではなく生きる工夫だった】

考え方を工夫することは、自分の弱さをごまかすことではありませんでした。

無理に前向きになることでもありませんでした。

私にとっては、自分を追い込みすぎないために、物事の見方を少しずつ調整していくことでした。

周りと同じ速度や成功基準を求めすぎないこと。

しんどい日に、自分の人生を決めつけすぎないこと。

完璧に立ち直るより、揺れ幅を小さくすること。

普通になるより、壊れにくくなること。

自分を責めるより、仕組みを見直すこと。

攻める時期と守る時期を分けること。

そうした一つひとつが、私にとっては生きやすさにつながっていきました。

今でも、落ち込むことはあります。

考えすぎてしまうこともあります。

自分を責めそうになる日もあります。

それでも、以前よりは少しだけ、自分を追い込みすぎずに済むようになった気がしています。

私はこれからも、無理に普通になろうとするより、自分が壊れにくい形を探しながら生きていきたいと思っています。

生活を整えること。

考え方を工夫すること。

それらは、障害を抱えて生きるうえで、私にとって大切な支えでした。

ただ、それだけで十分だったわけではありません。

人との関わり方や距離感も、私にとっては大きな課題でした。

合わない人に無理に合わせ続けないこと。

全員に理解されようとしすぎないこと。

自分を雑に扱ってくる人とは距離を取ること。

相談できる人を複数持ち、支援者、医師、職場の人など、役割ごとに頼ること。

そうした人との距離感を整えることも、私にとっては生きやすさにつながっていきました。

次回は、障害を抱えて生きるうえで大切だった「人との距離感を調整すること」について書いてみようと思います。

シリーズコラム

■第一回『障害と生きる』――私にとっての、「障害を抱えて生きる」ということ

https://kokotomo.com/745131

■第二回『障害と生きる』――生き延びるために、まず生活を固める

https://kokotomo.com/746483

 

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