NA(ナルコティクス・アノニマス)完全ガイド|薬物依存症からの回復・ミーティング参加方法・DARCとの関係
edit2026.04.26 visibility24
「覚醒剤・大麻・市販薬・処方薬——どの種類であっても、自分の意志ではもう止められない」
「家族が薬物に手を出したと知ったが、どこに相談していいか分からない」
「刑務所・保護観察・少年院を出たあと、また同じ世界に戻りそうで怖い」
薬物の問題は、本人の「意志の弱さ」や「だらしなさ」の問題ではありません。世界保健機関(WHO)も国際疾病分類で「物質使用症」を医学的な疾患として位置づけており、近年は刑罰よりも「治療と回復」を優先する流れが世界的に進んでいます。それでも、覚醒剤取締法・大麻取締法など複数の法律が併存する日本では、当事者が声を上げにくい現実が長く続いてきました。
そんな中、当事者同士が安全に集い、再使用と向き合いながら「クリーン(薬物を使わない状態)」を続けていくための場が、世界中に広がる自助グループ「NA(ナルコティクス・アノニマス)」です。1953年に米国カリフォルニア州でJimmy K. らによって始まり、現在は世界140か国・7万グループ以上、日本でも全国でミーティングが開かれています。
この記事では、ココトモが回復支援・地域活動の現場で出会ってきた当事者・家族・支援者の声をもとに、NAの基本理念から12のステップ、ミーティングの種類、初めての参加方法、DARC(ダルク)との関係、家族のためのNar-Anon、矯正施設での活動まで、丁寧にまとめました。「もう一度、人生を取り戻したい」と願うあなたのための、もう一つの選択肢を共有します。
📌 この記事でわかること
- 1953年に米国カリフォルニア州で誕生したNA(ナルコティクス・アノニマス)の歴史と世界140か国への広がり
- AA(アルコホーリクス・アノニマス)から派生した12のステップ・12の伝統のNA独自の応用
- オープン/クローズド/スピーカー/ステップ・スタディのミーティング4タイプと初めて参加する5ステップ
- 1985年日本で設立されたDARC(ダルク)とNAの関係、宿泊型回復施設とミーティングの役割分担
- 薬物依存者の家族のための自助グループNar-Anonと、矯正施設・刑務所でのNA活動
- 覚醒剤・処方薬・違法ドラッグ経験者の体験談3パターン、ありがちな誤解5選、FAQ10問まで網羅
NA(ナルコティクス・アノニマス)とは|1953年米国カリフォルニア州での誕生
NA(Narcotics Anonymous:ナルコティクス・アノニマス、略してNA)は、薬物の問題から回復したいと願う人たちが、互いの経験・力・希望を分かち合い、共にクリーンを続けるための自助グループです。会費は無料、専門資格も不要、必要なのは「薬物をやめたいという願い」だけ。これがNAの根幹にある考え方です。
1953年、カリフォルニア州でJimmy K. らが立ち上げた
NAは、1953年に米国カリフォルニア州でJimmy K.(ジミー・K.)ら数名の薬物依存経験者によって立ち上げられたとされています。当時は1935年に発足したAA(アルコホーリクス・アノニマス)の枠組みを参考にしつつ、薬物依存者特有の課題に合わせて「12のステップ」「12の伝統」をアレンジする形で発展しました。
最初のミーティングはごく少人数から始まりましたが、1970年代以降にテキスト『Narcotics Anonymous(通称ベーシック・テキスト)』が整備されたことで急速に広がり、現在は世界140か国以上で7万を超えるミーティングが毎週開かれています。
日本のNAは1980年代に始まり、全国へ
日本のNAは、1980年代に米国・カナダのNA経験者や帰国者を中心に始まり、1990年代以降は全国に広がっていきました。現在はNA日本(NA Japan)として全国に地域グループが置かれ、東京・大阪・名古屋・福岡・札幌など主要都市を中心に、毎週いくつものミーティングが開かれています。地方都市や中小都市でも、月数回〜週1回のペースでミーティングが運営されている地域が増えています。
ミーティングの場所は、寺院・教会・公民館・福祉施設・DARCの一室など多様で、宗教団体・医療機関・行政とは独立して運営されているのがNAの大きな特徴です。
「アノニマス(無名)」が守るもの
NAの名前にある「アノニマス(Anonymous:無名)」は、単なる秘密保持の意味を超えて、参加者の社会的肩書き・職業・前科・経済状況を持ち込まないという原則を表しています。ミーティングでは、医師も無職の人も、社長も学生も、保護観察中の人も完全社会復帰した人も、「ファーストネーム+アディクト(薬物依存者)です」と名乗るところから始まります。
この匿名性こそが、社会的偏見の強い薬物依存の問題を抱えた人たちが、安心して本音を話せる土台になっています。
出典:NA日本 公式情報(najapan.org)/Narcotics Anonymous World Services 公開資料/厚生労働省「薬物依存症対策」公開情報
AAと共通する基本理念|「クリーン」を続けるための土台
NAは、1935年に米国オハイオ州で誕生したAA(アルコホーリクス・アノニマス)を直接の母体としており、根底にある理念の多くを共有しています。両者に共通する基本理念を整理すると、次のようになります。
- 依存症は「意志の弱さ」ではなく「病気」である——道徳的失敗としてではなく、医学的・心理的・霊的な側面を持つ慢性疾患として捉える視点。
- 当事者にしか分からない経験を分かち合う——専門家のアドバイスではなく、同じ経験を生きた仲間の語りこそが回復の鍵になる。
- 「一日ずつ」(One Day at a Time)——一生のクリーンを誓うのではなく、「今日一日、使わない」を積み重ねる考え方。
- 「ハイヤー・パワー(自分を超えた大きな力)」への信頼——特定の宗教を指さず、各自が自分なりに理解する大きな力。神でも自然でも仲間集団でも構わない。
- 無料・匿名・自主運営——参加費なし、本名不要、献金(自由意志)と仲間の持ち寄りだけで運営される。
- 12のステップと12の伝統——個人の回復のための12のステップ、グループの維持のための12の伝統。両者は車の両輪。
NAでは、お酒を「アルコール」と呼ぶAAに対して、覚醒剤・大麻・コカイン・処方薬・市販薬・違法ドラッグなど一切の精神作用物質をひとくくりに「ドラッグ」として扱います。「自分の使っていた薬物以外は許される」という発想はNAには存在せず、「クリーン=あらゆる精神作用物質を使わない状態」を目指す点が特徴です。
NAとAAの違い|対象物質・名乗り方・テキスト・応用の差
NAはAAから多くを受け継いでいますが、薬物依存者特有の課題に合わせて独自の応用を加えています。両者の違いを表で整理します。
| 項目 | AA(アルコホーリクス・アノニマス) | NA(ナルコティクス・アノニマス) |
|---|---|---|
| 誕生年 | 1935年 米国オハイオ州 | 1953年 米国カリフォルニア州 |
| 創始者 | Bill W.(ビル・W.)、Dr. Bob(ドクター・ボブ) | Jimmy K.(ジミー・K.)ら |
| 対象 | アルコール依存 | 薬物全般(覚醒剤・大麻・処方薬・市販薬・違法ドラッグなど) |
| 名乗り方 | 「○○です、アルコホーリクです」 | 「○○です、アディクト(薬物依存者)です」 |
| 主要テキスト | 『アルコホーリクス・アノニマス』(通称ビッグ・ブック) | 『Narcotics Anonymous』(通称ベーシック・テキスト) |
| 12のステップの第1ステップ | 「アルコールに対して無力」 | 「依存症(addiction)に対して無力」(物質を特定しない応用) |
| クリーン/ソブラエティの定義 | アルコールを飲まない状態(ソブラエティ) | あらゆる精神作用物質を使わない状態(クリーン) |
| 家族のための姉妹グループ | Al-Anon(アラノン) | Nar-Anon(ナラノン) |
特に注目すべきは、NAの第1ステップが「物質を特定しない」点です。「私たちは、依存症(addiction)に対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた」という表現により、覚醒剤も処方薬も市販薬も、すべての物質依存を同じ枠組みで扱えるよう設計されています。これは、複数物質を併用してきた人や、ある物質をやめて別の物質に移った人にも対応できる工夫です。
NAの12のステップ|個人の回復のための道筋
NAの12のステップは、個人が依存症からの回復を歩むための実践プログラムです。一気に達成するものではなく、スポンサー(経験ある仲間)と一緒に何年もかけて取り組むのが基本です。
1️⃣
ステップ1|無力を認める
私たちは、依存症に対して無力であり、生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた
2️⃣
ステップ2|大きな力を信じる
自分を超えた大きな力が、私たちを健全な状態に戻してくれると信じるようになった
3️⃣
ステップ3|委ねる
私たちの意志と生き方を、自分なりに理解した神(ハイヤー・パワー)の配慮にゆだねる決心をした
4️⃣
ステップ4|自分の棚卸し
恐れずに、徹底して自分自身の道徳的な棚卸しを行った
5️⃣
ステップ5|認める
神に対し、自分自身に対し、もう一人の人間に対し、自分の過ちの本質をありのまま認めた
6️⃣
ステップ6|準備
これらの性格上の欠点全てを、神に取り除いてもらう準備が完全に出来た
7️⃣
ステップ7|謙虚に求める
謙虚に自分の短所を取り除いて下さいと神に求めた
8️⃣
ステップ8|リストを作る
私たちが傷つけたすべての人々の表を作り、その人たち全員に進んで埋め合わせをしようとする気持ちになった
9️⃣
ステップ9|埋め合わせ
その人や他の人を傷つけない限り、機会あるたびに、その人たちに直接埋め合わせをした
🔟
ステップ10|毎日の棚卸し
自分自身の棚卸しを続け、間違ったときは直ちにそれを認めた
1️⃣1️⃣
ステップ11|祈りと黙想
祈りと黙想を通じて、自分なりに理解した神との意識的な触れ合いを深めようとした
1️⃣2️⃣
ステップ12|メッセージを運ぶ
これらのステップを経た結果、霊的に目覚め、このメッセージをアディクトに伝え、自分のすべてのことにこの原理を実行しようと努力した
12のステップは「課題を解く」ものではなく、「日々の生き方を変える」ためのフレームワークです。多くの人がスポンサーとの対話を通じて、数か月〜数年かけて取り組みます。すべてを完璧にこなす必要はなく、「いま、自分はどのステップにいるか」を意識することそのものが回復の一部とされています。
NAの12の伝統|グループを守るためのルール
12のステップが個人のための実践なら、12の伝統はグループ(共同体)を守るためのルールです。NAが80年近く続いてきた背景には、この伝統が世界共通で守られてきたという事実があります。
- 伝統1|共通の福利——個人の回復はNA全体の一体性に依存する
- 伝統2|唯一の権威——グループの目的のためには、自分なりに理解した神という唯一の権威がある。リーダーは指導者ではなく、信頼を委ねられた奉仕者
- 伝統3|唯一の条件——メンバーになるための唯一の条件は、薬物をやめたいという願い
- 伝統4|自治——各グループは他のグループ・NA全体に影響する事柄を除き、自治を持つ
- 伝統5|主たる目的——各グループの主たる目的はただ一つ、まだ苦しんでいるアディクトにメッセージを運ぶこと
- 伝統6|外部問題を持ち込まない——NAは決して、いかなる関連施設・外部の事業も支持・援助・後援はしない
- 伝統7|自立——NAのグループは、外部の寄付を辞退して、完全に自立すべきである
- 伝統8|非専門性——NAは常に職業的なものから離れている。ただしサービスセンターでは専従の職員を雇うことができる
- 伝統9|組織を作らない——NAそのものは決して組織化してはならない
- 伝統10|外部論争を避ける——NAは外部の問題に対しては意見を持たない。NAの名前は決して論争に巻き込まれてはならない
- 伝統11|アトラクション——広報活動は、宣伝よりもアトラクション(魅力)に基づく。マスメディアでは常に個人匿名の原則を守る
- 伝統12|匿名性——匿名性は私たちの伝統すべての霊的な基礎であり、人より原理を優先する常なる思い起こしである
ミーティングの種類4タイプ|目的別の使い分け
NAのミーティングは、目的・参加対象・進行スタイルによって主に4つのタイプに分かれます。地域・グループによってバリエーションはありますが、基本的な分類を押さえておくと自分に合った場が見つけやすくなります。
🚪
① オープン・ミーティング
薬物依存当事者以外も参加可能なミーティング。家族・友人・支援者・医療関係者・研究者などが見学・参加できる。NAを知りたい初心者にも開かれた入り口
🔒
② クローズド・ミーティング
薬物依存からの回復を望む当事者のみが参加できるミーティング。同じ経験を持つ仲間だけで安心して話せる場で、より深い分かち合いが行われる
🎤
③ スピーカー・ミーティング
クリーンを続けている経験者が「自分の物語(使っていた頃/NAに出会うまで/回復の今)」を約30〜60分語る形式。新しく参加した人に希望を届ける役割
📖
④ ステップ・スタディ
12のステップを1つずつ深く学ぶミーティング。ベーシック・テキストやステップ・ワーキング・ガイドを読みながら、自分のステップの取り組みを語り合う
初めて参加する場合は、「オープン・ミーティング」から始めるのが安心です。当事者でなくても参加でき、NAの雰囲気・進行・名乗り方を肌で感じることができます。継続的にクリーンに取り組む段階に入ったら、クローズドやステップ・スタディに移っていく方が多いです。
初めてNAミーティングに参加する5ステップ
「行ってみたいけど、何をすればいいか分からない」という不安は、ほとんどの初参加者が抱えるものです。実際の流れを5つのステップに整理しました。
-
1
① NA日本のウェブサイトでミーティング場所と日時を探す
公式サイト(najapan.org)に、全国のミーティング一覧と開催日時・住所・連絡先が掲載されています。「オープン」「クローズド」の区分が明記されているので、初回はオープン・ミーティングを選びましょう。電話やメールで事前確認しておくとさらに安心です。
-
2
② 服装自由・手ぶらでOK、開始10分前に到着
特別な服装や持ち物は必要ありません。普段着で十分です。開始10〜15分前に着くと、世話人(チェアパーソン)が「初めてですか?」と声をかけてくれます。身分証明書・本名・連絡先の提示は一切不要です。
-
3
③ 自己紹介はファーストネームのみ、「パス」も可能
参加者が順に「○○です、アディクトです」と名乗ります。本名でもニックネームでもOK。話したくない時は「パス」と言って次の人へ回すのが伝統で、誰も詮索しません。「ただ聴いているだけ」で何時間でも過ごせます。
-
4
④ 献金(任意)は1コイン程度から
伝統7「自立」のため、会場費・コーヒー代として任意の献金(1コイン〜数百円程度)を入れる籠が回ってきます。払わなくても参加できます。経済的に厳しい時期は気にせず、回復が落ち着いてから返していく姿勢の人が多くいます。
-
5
⑤ 終了後、連絡先カード・スポンサー探しの相談を
ミーティング後、世話人や経験者と話す時間が取れます。「クリーン日数」「次に来られそうな日」「電話番号交換(任意)」を確認していくと、孤独な再使用リスクが下がります。スポンサー(個別に12ステップを伴走してくれる経験者)はすぐに決めず、数か月かけて自分に合う人を探すのが一般的です。
NAと「DARC(ダルク)」の関係|宿泊型回復施設とミーティングの両輪
🏠 DARC(ダルク)とは?
DARC(ダルク:Drug Addiction Rehabilitation Center)は、1985年に日本で設立された薬物依存症からの回復を目的とする民間支援施設です。創設者は近藤恒夫氏。当初は東京・荒川区のごく小さな寮から始まり、現在は全国に60か所以上の関連施設・グループホームが運営されています。
NAとDARCの関係性
NAとDARCは別組織ですが、密接に連携してきた歴史があります。DARCの創設にあたって近藤氏自身がNAの考え方に強く影響を受けており、多くのDARCでは毎日のプログラムにNAミーティングが組み込まれています。寝食を共にする宿泊型のDARCで日中のプログラム(ミーティング・作業・体力づくり等)を行い、夜は施設内・近隣のNAミーティングに参加する——この二層構造が日本の回復現場の標準的な形になっています。
役割分担と費用
両者の役割を整理すると、次のように分担されています。
- DARC:宿泊型・通所型の回復支援施設。スタッフ(NA経験者・回復者が中心)が運営し、日中プログラム・住居・食事・生活訓練を提供。生活保護や障害福祉サービス(自立訓練)等の制度を利用するケースが多い。有料(施設による)
- NA:当事者だけの自助グループ。無料・自主運営・特定の場所を持たない。DARC利用中も、DARC卒業後も、生涯にわたり参加できる
DARCは「回復のスタート地点」として最初の数か月〜数年を集中的に支え、NAは「生涯のホームグループ」として長く続くクリーンの土台になります。これは「治療と自助の両輪」とも呼ばれ、日本独自に発展してきた回復モデルです。
出典:日本ダルク本部 公開情報/NA日本 公式情報/厚生労働省「薬物依存症の治療・回復支援」公開資料
家族のための自助グループ|Nar-Anon(ナラノン)
👨👩👧 Nar-Anonとは?
Nar-Anon(ナラノン)は、薬物依存者の家族・恋人・友人など「身近な人」のための自助グループです。AAの家族グループ「Al-Anon(アラノン)」と同様の構造で、世界中で運営されています。当事者本人ではなく、依存者を取り巻く家族の苦しみと回復に焦点を当てるのが最大の特徴です。
「共依存」から自分を取り戻すための場
薬物依存者の家族は、本人を心配するあまり「自分の人生が止まってしまう」「本人より先に倒れる」状態に陥りがちです。家族会・カウンセリング・専門医療と並んで、Nar-Anonは「自分自身の回復」に焦点を当てる場として機能します。
「本人を変えようとしない」「本人の問題と自分の問題を分ける」「自分の人生を生きる」——これがNar-Anonの中心メッセージです。本人がNAにつながらなくても、家族だけでNar-Anonに通い続けることができます。
日本での活動状況
日本でのNar-Anon(Nar-Anon Japan)は、東京・大阪・名古屋など主要都市を中心に運営されています。NAと同じく無料・匿名・自主運営で、本人がクリーンを目指しているかどうかに関わらず、家族はいつでも参加できます。「本人がNAに行ってくれない」と悩む家族こそ、まず自分のためにNar-Anonへ——これが現場で繰り返し共有されているメッセージです。
矯正施設・刑務所でのNA活動|出所後の橋渡し
薬物関連の事件で服役した人にとって、出所後の「再使用→再逮捕」のループは最大の課題です。法務省の統計でも、覚醒剤取締法違反による再犯率は他の犯罪と比べて高水準で、刑罰だけでは依存症の問題が解決しないことが繰り返し示されてきました。
矯正施設内でのNAミーティング
そのため、近年は刑務所・少年院・保護観察所などの矯正施設の中で、NAボランティアによるミーティングが定期的に開催されています。受刑者・収容者が外部のNAメンバーと出会い、「同じ経験をしてクリーンになった人がいる」という事実そのものが、出所後の地域NAへの「橋渡し」として機能します。
施設によっては、出所が近づいた人にDARCや地域NAミーティングの連絡先を渡したり、出所日に外部のNAメンバーが迎えに行く「ピックアップ」が行われたりすることもあります。
保護観察と並行した自助グループ参加
保護観察中の人にとって、NA・DARC等の自助グループへの参加は「再犯防止につながる活動」として保護司・保護観察官からも推奨されることが多くなっています。法的義務ではなく、あくまで本人の意思に基づく参加ですが、出所後の生活設計の中にNAミーティングを組み込むことで、孤立と再使用のリスクを下げる効果が期待されます。
体験談|3つの回復の物語
💬 覚醒剤で2度服役、出所翌日にNAへ(40代・男性)
「20代から覚醒剤を使い始め、30代で2度の実刑判決。2回目の出所の日、ダルクのスタッフが迎えに来てくれて、その夜のNAミーティングに連れて行かれました。『○○です、アディクトです』と名乗った時、声が震えました。でも誰も笑わなかった。むしろ『よく来たね』と握手された。あれから6年、毎週ミーティングに通い、いまはダルクで新しい仲間を迎える側にいます。クリーンを誓うんじゃない、今日一日、使わないだけです」(180字)
💬 処方薬・市販薬の依存からNAへ(30代・女性)
「不眠と不安で精神科に通ううち、ベンゾジアゼピン系の処方薬が手放せなくなり、市販の咳止めシロップ・鎮痛剤も大量に飲むようになりました。違法ドラッグじゃないから自分は依存症じゃない——そう思っていた数年間、私の人生は止まっていました。クローズド・ミーティングで『処方薬でもアディクトです』と話せた時、初めて『私だけじゃなかった』と泣きました」(170字)
💬 違法ドラッグの世界から、Nar-Anonに通う母(60代・女性)
「息子が大学生のころから違法ドラッグに手を出し、大学を中退、家に戻ってきても夜中に出かける生活。私は毎晩眠れず、夫婦関係も壊れかけました。保健所で勧められたNar-Anonに最初は半信半疑で行きましたが、『本人を変えようとしない、自分の人生を取り戻す』という言葉に救われました。息子はまだNAに行っていません。でも私は私の回復を続けます」(170字)
NAをめぐる、ありがちな誤解5選
NAは社会的にまだ広く知られておらず、誤った先入観で敬遠されることが多くあります。代表的な5つの誤解を解消しておきます。
- 誤解①「違法薬物の使用者ばかり」——実際は、処方薬・市販薬・違法薬物の経験者が混在しています。「アディクト」と名乗る基準は自分が薬物依存だと感じるかどうかであり、過去の薬物の種類・量・違法性は問いません。
- 誤解②「治療やリハビリの場である」——NAは医療機関でも治療プログラムでもなく、当事者同士の自助グループです。医師・カウンセラーは不在で、専門的な診断・処方は行いません。治療は医療機関と並行することが推奨されます。
- 誤解③「宗教団体である」——12のステップに「神」「ハイヤー・パワー」という表現があるため誤解されますが、特定の宗教を持たず、各自が自分なりに理解する大きな力でよいとされています。無神論者・仏教徒・キリスト教徒など、信仰の有無を問わず参加できます。
- 誤解④「警察や行政に通報される」——NAは匿名性が最大の原則で、本名・住所・連絡先の提示は一切不要です。ミーティングの内容は外部に持ち出されず、警察・行政・職場・学校への通報は行われません(ただし、ミーティング中の犯罪行為や他者への危害の予告は別途の対応が必要となります)。
- 誤解⑤「一度行ったら一生通わなければならない」——参加は完全に自由意志です。途中で来なくなる人もいれば、何年も後にまた戻ってくる人もいます。「来たい時に来る、合わないと感じたら離れていい」が伝統です。
法律と回復|薬物使用罪と医療化の動向
⚠️ 「再使用=即逮捕」ではない——相談先の優先を
日本では覚醒剤取締法・大麻取締法・麻薬及び向精神薬取締法など複数の法律により、薬物の所持・使用は刑罰の対象です。しかし、NAミーティング内で「先週使ってしまいました」と語った内容が、その場で警察に通報されることはありません。これはNAの匿名性の伝統が世界共通で守られているためで、現場では「使ってしまった」という告白こそが回復のスタートとされてきました。
「ハームリダクション」と治療優先の世界的潮流
近年、世界保健機関(WHO)や国連薬物犯罪事務所(UNODC)は、薬物使用者を「犯罪者」ではなく「治療を必要とする人」として位置づける方針を打ち出しています。これは「ハームリダクション(Harm Reduction:害の軽減)」という考え方で、欧州各国・カナダ・オーストラリアなどで政策として導入が進んでいます。
日本でも厚生労働省が「薬物依存症対策」のなかで治療・回復支援を強化する方針を示しており、刑罰一辺倒から治療・回復重視への転換が少しずつ進んでいます。
「再使用」は失敗ではなく回復過程の一部
NAでは、クリーンを目指す過程での再使用(スリップ)を「失敗」「終わり」とはみなしません。再使用が起きた時こそミーティングに戻ることが大切で、「使ってしまった自分を責めて孤立する」のがもっとも危険な状態です。
家族・支援者の側にも同じ姿勢が求められます。再使用を発見しても、すぐに警察に突き出すのではなく、まずNA・DARC・依存症専門医療機関・精神保健福祉センターに相談する——この選択肢があることを覚えておいてください。
相談先:精神保健福祉センター(全国67か所)/保健所/NA日本/日本ダルク/依存症対策全国センター/厚生労働省「依存症対策」(最寄りの相談窓口検索可)
よくある質問|NAについてのQ&A 10問
Q1. 過去に薬物を使っていなくても、参加できますか? ▼
オープン・ミーティングであれば、当事者でない方(家族・友人・支援者・医療関係者・研究者・関心のある一般の方)も参加できます。クローズド・ミーティングは当事者のみ対象です。事前にミーティングの種類を確認してから足を運んでください。
Q2. 本名を出したくないのですが、大丈夫ですか? ▼
NAは匿名性が最大の原則です。本名・ニックネーム・偽名どれでも構わず、住所・電話番号・身分証明書の提示は一切求められません。「○○です、アディクトです」だけで参加できます。SNSやインターネットでの実名公表もNAの伝統では避けるべきとされています。
Q3. 費用はどのくらいかかりますか? ▼
NAミーティングへの参加は無料です。会場費・コーヒー代として任意の献金(1コイン〜数百円程度)を入れる籠が回ってきますが、払わなくても参加できます。経済的に厳しい時期は気にせず通い、回復が安定してから返していく姿勢の人が多いです。
Q4. 医療機関での治療とNAは、両立できますか? ▼
両立すべきです。NAは医療機関ではないので、診断・処方・専門治療は精神科・依存症外来・依存症専門病院で受けながら、NAは「同じ経験を持つ仲間と分かち合う場」として並行して活用するのが理想です。多くの専門医もNA・DARC等の自助グループ参加を治療の一部として推奨しています。
Q5. 家族として、本人をNAに「行かせる」ことはできますか? ▼
強制してもうまくいかないことが多いです。NAの伝統では参加条件は「薬物をやめたいという本人の願い」だけ。家族ができるのは、本人がNAを知る機会を作る・連絡先を渡す・自分自身はNar-Anonに通うこと。「本人を変えようとしない、まず自分が回復する」というNar-Anonの姿勢が、結果的に本人の選択を後押しすることが多くあります。
Q6. スポンサーって何ですか?必ず必要? ▼
スポンサーは、12のステップを伴走してくれる経験ある仲間(先輩アディクト)です。1対1で電話・対面でステップに取り組み、迷った時の相談相手にもなります。必須ではありませんが、長く回復を続けている人の多くがスポンサーを持っています。すぐに決めず、数か月かけて自分に合う人を探すのが一般的です。
Q7. 再使用してしまいました。もうNAには行けませんか? ▼
むしろ、再使用した時こそミーティングに戻ってください。NAでは再使用(スリップ)は失敗ではなく、回復過程の一部として位置づけられています。「先週、使ってしまいました」と語ることそのものが回復の一歩です。クリーン日数はリセットされますが、それまでの取り組みが消えるわけではありません。
Q8. オンライン・ミーティングはありますか? ▼
新型コロナをきっかけに、Zoomを使ったオンライン・ミーティングが世界中で広がりました。日本でも日本語・英語のオンラインミーティングが毎週開催されており、地方在住の方・対面参加が難しい方・海外在住者にとって貴重な選択肢となっています。NA日本のサイトで最新の開催情報を確認できます。
Q9. 「自分は依存症じゃない」と思っているのに、勧められて困っています ▼
NAの第3伝統では、メンバーになる条件は「薬物をやめたいという本人の願い」のみ。本人にその願いがない段階で無理に参加させても効果は薄いです。一方、「オープン・ミーティングに見学だけ来てみる」「医療機関や精神保健福祉センターで一度評価を受ける」というワンクッションは可能です。家族・支援者は焦らず、本人が動くタイミングを待つ姿勢も必要になります。
Q10. NAとDARCはどう使い分ければいいですか? ▼
DARCは「治療・支援の入り口」、NAは「生涯のホームグループ」と捉えると整理しやすいです。出所直後・治療直後・家で安定した生活が難しい時期はDARC等の宿泊型施設で日中プログラムと生活訓練を受け、退所後はNAミーティングに継続参加していくのが日本の標準的な流れです。どちらか一方ではなく両輪として活用するのが理想です。
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AA完全ガイド|アルコホーリクス・アノニマス
NAの母体となった1935年米国オハイオ州発の自助グループ。12ステップ・12伝統の原典を学ぶ
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摂食障害の自助グループガイド
過食・拒食・嘔吐などからの回復を目指すOA(オーバーイーターズ・アノニマス)等を解説
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家族会・家族の自助グループ
Nar-Anon・Al-Anonをはじめ、依存症や精神疾患の本人を支える家族のための会の探し方
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ピアサポート完全ガイド
同じ経験を持つ仲間が支え合う活動の理論と実践。自助グループとの違い・接点を整理
参照元:NA日本(ナルコティクス・アノニマス日本)公式サイト/Narcotics Anonymous World Services 公開資料/日本ダルク本部 公開情報/Nar-Anon Japan 公開情報/厚生労働省「薬物依存症対策」「依存症対策全国センター」公開資料/法務省「再犯防止推進白書」公開資料/世界保健機関(WHO)国際疾病分類(ICD-11)/国連薬物犯罪事務所(UNODC)公開資料/精神保健福祉センター 全国一覧(いずれも2026年5月時点。ミーティング数・施設数・統計値は年度・集計時点により差があります)