てこの日記『春耕秋収 ー 其の六 ー  朔風払葉』

いつしか暮方の余韻もなく、足早に宵闇がせまる。気付くと、もうそうした季節。
いつものごとく作業終わりで、そそくさと散策の用意を始めた。そして早々に出かけたはずなのだが、一瞬にして夜が追ってくるという感じだ。西空の地平あたりは、ほんの少し紅色が残っては、いるようだが・・・。

昼夜の変わる余韻を感じる間もないのは少し寂しい気もする。
だが、昨日と打って変わって夜の天気も良い。歩きだして、すぐに闇を明るく照らし出す、今宵は望月なのだ。
浅い時間からも程々に高く昇り、遊歩道を照らす。そしてそれを追うように、川岸へと向かっていく。今宵の待ち人は、ずっと沿っていてくれる。いつもは、少し満たされないほうがなどと言いつつ、これも良いかなどと思う。

週末よりは幾分穏やかではあるが、時折感じる風は少し冷たい。ゆっくりとだが、冬に向かっている。寒さが増してくれば、散歩も億劫になるななどと思いつつも、まだしばらくは夜散歩は続けられそうか。

しばらくすると、大きな川の川岸に出て、これもいつものように堤を降りて川べりをゆく。
ここは堤が高いので、街明かりを少しだけ消してくれる。月あかりが行き先を照らし、すぐ横にはゆっくりと川が流れる。河口に近いので、潮汐の影響を受けやすい。中潮なのだそう、潮目が変わっていくと、まるでどちらにと思うがごとくに流れるのが見て取れる。今日は逆巻くほどにはないが、ゆっくりと上流に流れているよう。夜中過ぎ頃から大潮なんだろうと。

明日のことがあるので、今夜は海までは出ず。なので幾分、川を眺める時間が長かった。
帰路に着く辺りでは、もう随分と高く月が昇っていた。高度が増すと色は青白くさらに輝いていく。
まだ冴え凍る月とまでは、いかないか。でも冬に近づく凛とした感じで、川べりをずっと照らしていき、その下でぼんやりと歩くだけの時間。これからの季節、寒さとも付き合わずにはならないが、億劫がらずに夜散歩続けようと思う。

天の原 雲なき夕に ぬばたまの
    夜渡る月の 入らまく惜しも    詠み人しらず

※ 筑波山に登りて月を詠める歌一首と、山にての歌。
なのですが・・・。今宵は雲ひとつなく、青白い望月がずっと輝いていて、没してしまうのが惜しいという気持ちわかります。留まっているとやはり少し寒くて、そう長くは居続けられずにいましたけど。それでも時折立ち止まっては見返していました。

favorite読んでくれた人へのメッセージ

題名は、七十二候から。朔風払葉(さくふうはをはらう)。北風が葉を払いのける季節って意。
寒いところから、暖かい部屋に戻ると、ほっとするのを感じるのに。そうした時期に外で過ごすしんとした感じも悪くはないなどとね。

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