心理カウンセラーという“夢”と“罠” 資格商法という現代の寓話

「人の心を救いたいんです」

そう言って、心理カウンセラーの道を志す人に、私はこれまで何度出会ってきただろうか。たいていの場合、その言葉の奥には、自らが心の問題に苦しんだ経験や、大切な人の苦悩を見つめてきた背景がある。そしてその姿勢に、私は深い敬意を抱く。

しかし、現代社会は、そうした「善意」に対して、必ずしも優しくはない。むしろその純粋さにつけ込むかのように、「心を学べば、あなたも人を救える」「この資格で、プロとして活躍できる」と謳う“資格ビジネス”が、水面下で静かに広がっている。

心理カウンセラーの資格は、国家資格ではない。臨床心理士、公認心理師、見方を変えて精神保健福祉士といった公的な資格もあるが、取得には大学院や国家試験が必要で、ハードルが高い。

このサイトにも「公認心理師」等を志している人を見かけるが、現実的に実習選抜や院試を突破できるのはほんの数%程だろう。

その一方で、○○心理士、△△カウンセラー、□□セラピストといった“民間資格”は、数万円から数十万円を払えば、比較的短期間で取得できる。

ここに、ひとつの罠がある。

私たちは、「資格を持つ=能力がある」と思いたい。しかし、心理という領域は、単なる“技法”や“知識”ではなく、自分自身を深く見つめ、他者と向き合う「姿勢」や「関係性」の問題だ。どんなに立派な資格を掲げても、実践の場で苦悩する相手に寄り添う力がなければ、それは“飾り”にすぎない。

にもかかわらず、「資格をとれば、自分もすごい人間になれる」という幻想にすがりたくなるのは、人間として当然の欲望だと思う。むしろ、そう感じること自体が、“自分自身の心を理解したい”という切実な願いの表れなのだ。

ただ、だからこそ、気をつけなければならない。

資格そのものに価値がないわけではない。

ある民間資格が、本人にとって意味のある学びになり、他者との関係を見直すきっかけになったのなら、それは一つの財産だと思う。でも、「その資格で仕事ができる」「独立開業できる」「他人を治せる」といった過剰なメッセージに対しては、慎重であるべきだ。

何より、心理の仕事は、「他者を救うこと」ではない。むしろ、「救おうとする自分の衝動」と向き合いながら、共に生きていく道を探す営みだ。そこには答えもなければ、正解もない。ただ、自分がどれだけ“感じられるか”が問われる、静かで根気のいる旅路だ。

だから私は、心理の道を志す人に、こう伝えたい。

「資格があなたを支えてくれるわけではない。あなたの“在り方”が、誰かの支えになるのです」

資格は道具。けれど、人と人の間に本当に必要なのは、肩書きではなく、まなざしだ。そこを見誤らなければ、どんな形であれ、あなたの歩みは決して無駄にはならない。

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コメント一覧

全2件
  1. schedule2025.06.18

    なお

    グレゴールさん、こんにちは

    SNSでも、「大学で学ぶ心理学をギュと詰め込んだ内容」とか「隙間時間でできる」のような言葉で注目を集めようとしていますよね。
    それが悪いとかではないですが、お金や時間をかけて学んだり、実践を積んでいる人からしたら、そんなに簡単なものではないということを実感していると思います。
    資格を持っていても批判の声が上がる時が上がるし、資格がない人に力がないというわけではない、その乖離に私もいつも悩んでいます。
    でも、真剣にその問題に向き合い、資格も頑張って取ろうとされる姿が伝わり、とても素敵だなと思いました。

    話は変わりますが、コロナ禍真っ只中だった時、自称空き家ビジネスが始まったことを思い出しました。
    空き家問題は、不動産や建築関連の方も難しいと言っているのに、勝手に民泊にするなど問題になっていたような気がします。

  2. schedule2025.06.15

    かお

    すごく、素晴らしいです。私は何も成し遂げていないですが、私が思っていることをそのまま言葉にしてくれたような感じがしました。

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