零れてしまった水
edit2023.11.27 251
私は虐待のある家で生まれ、育ちました。
中学生になる頃に自分の家庭環境のおかしさと今まで溜め込んでいたストレスが爆発してしまい何度も自傷行為や自殺未遂に走りました。今思うとかわいいものですが。
そんな時に一人の先生と出会います。
その先生をS先生としましょう。その先生はとても人気のある先生で生徒指導の怖い男の先生ではありましたが、色々な生徒から畏れられながらも慕われているような人でした。
その先生とよく放課後話すようになりました。
いつも忙しそうに話を聞きながら生徒への連絡物を仕上げる先生の側で、私は他愛のない雑談というよりも暗く淀んだ家庭の話や、胸に秘めていた「死にたい」という気持ちを当てつけたり…
「悩むくらいなら話してほしい」と言ってくれた善意に甘えて誰にも言えないような重く暗い話をしていました。
そんなある日、いつものように放課後S先生の隣で何気なく、でもいつもより息の詰まった気持ちで「死にたい」と私は連呼します。その言葉を聞いたS先生はあぁきっと何度も「死にたい」とつぶやく私に嫌気が差したのでしょう。動かし続けていた右手を止めて私にこういうのです。
「自殺した人は“周りに迷惑をかけて死んだんだな”って俺は思うよ」
自分の中で気持ちを否定されたような気がして、見捨てられたような気がして。
元々人前で泣くのは上手くなかったけれど涙すら出てきませんでした。そのまま普通の顔をして学校から帰って薬を大量に飲みました。
そこから私の中の“日常”は壊れてしまいました。入院して、更に児相に保護されて、やっと帰ってきて学校に通えるようになった時に再会したS先生は酷くよそよそしかったです。私は見捨てられたと感じました。
きっと自殺未遂までした私にどう接していいのかわからなかったのでしょう。はじめはよそよそしかったけれど、次第に「つむぎの親から貰えなかった愛を俺がうめてあげたい」と私の頭を撫でるようになりました。
性被害の経験があった私は怖いと感じましたが、同時に信用していた先生ではあったのでその触れ合いを素直に受け取ってしまいました。
そしてそのまま私は卒業しました。
その後、平均以上の高校に進学した私は右も左もわからない高校生活の中担任のM先生と出会います。
中学生までの生い立ちを聞いたM先生は、「大丈夫…じゃない、よね?」と控えめに聞いてきて、それ以来S先生と同じように時々話すようになります。
はじめこそは喉から絞り出すようにしてやっと紡いだ「死にたい」に「赤の他人が起こした電車の人身事故で電車乗れなくなる人がいるくらい、人の死ってそれだけ大きなことでそれはあなたも同じだよ」と理屈で答えていたM先生でしたが、時間を重ねるにつれて「俺があなたに居なくなってほしくないって思うの」「あなたを大事にしたいと思ってる」とM先生自身の感情で話をしてくれるようになりました。
中学校の時のS先生の一件を引きずって「死ななければ私の気持ちが本気だと思ってもらえないし、そもそも私は事情が他の人より重すぎてすべてを知ったら見捨てられてしまう」と泣く私に「絶対離さないから全て話してほしい」と強く言ってくれて、自分の中で〝この人なら大丈夫〟という思いが芽生えてきて、今はこの人に支えられながら少しずつでいいから前を向けるように日々過ごしています。
私の好きな言葉(台詞)の中に
「アタシたちができることは手の中に残った水のことを考えること
零れた水のことじゃない
でもそれは零れた水のことはどうでもいいってことじゃない
あきらめろという意味でもない」
というものがあります。
妖怪アパートの幽雅な日常という本に出てくる一色黎明という詩人の言葉なのですが、私は自分の手から零れてしまっても他の人の手なら零れないこともあるから自分の手から零れてしまった人は助けられる他の人がきっと助けるから、自分は自分が助けられる人に集中しようという解釈をしています。
先述した二人の先生がまさにこの言葉に当てはまると思っていて。
言い方は悪いですが、S先生の手から私は零れてしまいました。ですが、その後M先生の手の中で少しでも前を向こうと周りの力を借りながら少しずつ前に進もうとしています。
皆さんも誰かから見捨てられた経験があるかも知れません。ですが、それを拾ってくれる人が、拾おうと諦めないでいてくれる人がきっと何処かにいるはずだと私は思います。あなたは零れてしまったただの水かもしれませんが、必ず拾ってくれる、拾おうと頑張ろうとしてくれる人がいるはずです。
だからもう少し、ほんの少しだけ諦めずにいてほしいなと心の隅で思っています。
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