自分の存在意義を探る

中学生まで優等生で、生徒会役員もやって、存在意義なんて考える必要もないくらい自分が必要とされている感覚があった。

でも友達から仲間外れにされて、真横で悪口を言われて、人を信じられなくなった。このときはもう一生友達なんて作らないと誓うくらいきつかった。だけど、先生は私を頼ってくれて、必要としてくれた。だから生きられた。存在意義は先生に頼られていることだった。

高校生になってからは、浅く広くをモットーに、友達をつくった。決して悩みを打ち明けたり深く付き合ったりしないように、薄い人間関係で三年間を終えた。だけど部活は楽しかったし、部活では重要な役職をもらえたので、存在意義は部活で活躍していることだった。

大学三年生までは、高校生のときと同じで浅く広くをモットーに人間関係を構築していたので大した問題は起こらなかった。毎日平坦だった。友達に遊びに誘われることもほとんどなかったので、勉強に集中できた。サークルではまた重要な役職をもらえたので、その役職の仕事と勉強に邁進した。おかげでずっと目標にしていた他大学の大学院に合格した。存在意義は、成績のよさから多くの教授に認識されてよく話しかけられ、学生として必要とされていることと、サークルの仕事だった。

怪しくなったのは大学四年生から。サークルを引退し、研究室は勉強より研究が大切な世界だった。毎日研究が楽しくて、今考えれば笑ってしまうくらいみちみちに研究していた。毎日分単位のスケジュールを三週間分たてた。

段々、追い詰められていった。でも、自分では「いつものちょっときつくなるやつ」のつもりだった。美味しいものを食べて、最悪ちょっとだけ実家に帰省すれば、元気いっぱいになるはずだった。なのに、実家に帰っても元気にならなかった。私は実家でも毎日研究のことを考えて計画をたてていた。両親には、おかしいって言われた。話しかけられても答えられなくなっていた。

帰省しても元気にならなかった事実は私の心を破壊した。きっと完璧主義がたたって、毎日計画しすぎて、段々追い詰められていたんだろうけど、実家に帰って回復する予定だった。でも回復しなかった。回復する最後の手段が効かなかった。この事実が、トリガーになった。

私は人に弱いところを見せない、強い私しか見せない。人前ではなにがあっても絶対に泣かない。そうやって生きてきた。

なのに次の日から、研究室に入るなり涙が出てきた。誰にもそんな姿見せたくないから、一週間、業務連絡以外の会話を一切しなかった。この日まで、私はよくしゃべる明るくしっかりした人だった。研究室で一番いろんな人に話しかけて、どうでもいいことで笑って、なんならうるさいくらいの人間だった。でも心がポッキリいって、話せなくなった。言葉もでないし、実験に必要な計算もできなくなった。

そのおかしさに、周りが気づいた。先生に呼び出された。最近変だって言われた。人生で一番泣いた。ちっちゃい子みたいにわあわあ泣きながら、人を信じられないこと、完璧主義の厳しさ(このときは自分が完璧主義だと気づいていないので、うまくできないことの不甲斐なさを話していた)、ごちゃごちゃの順番で、何分話したかわからないくらい話した。

そのまま大学の保健管理センターに連れていかれ、偶然来ていた精神科医に診察された。うつ病だった。カウンセリングだけではもう回復しないから、薬を出してもらいなさいと言われた。私はまだ研究できる、今までやり過ぎていただけだから、半分くらいに減らすから、大学には行くと訴えた。でも精神科医は賢明だった。全部休めと言った。そのときの私はそんなのできないって思ったけど、二年経って改善してきた今、あのときの「全部休め」という指示は正しかったのだと思う。

保健管理センターに行った日、そのまま家に帰った。翌日からもう大学にいけなくなった。でも、この耐えきれないほどのつらさはうつ病なのだと言われたとき、ああ治るものなのだと、一生このままではないんだと、安心して大泣きした。大泣きしながら帰った。

荷物は全部大学に置きっぱなしだった。取りに行こうと思ったけど、大学に入ろうとすると足が震えて、涙が出そうになって、できなかった。だからみんなが家に届けてくれた。結局その日から一年半、大学には入れなかった。周りより研究を半年早く始めていたことと、きちんと結果が出ていたことと、教授のご厚意で卒業させてもらえたけど、卒業までに大学に入れたことは一度もなかったし、卒業してから結局一年間、怖くて入れなかった。

大学院生になっても、治らなかった。新しい教授は本当にいい人で、一緒に治していこう、できる範囲でいいって言ってくれた。結局行けた時期もあったけど不安定で、また1年くらい大学にはいけなくなってしまった。原因がたぶん研究だからなのか、計画をたてるくせは抜けなかったけどちゃんと講義はオンラインで受けられてレポートも書けたし、そこそこの成績で全ての単位を取得することができた。

でも自分の存在意義は、大学四年生のあのとき消え去った。誰の役にも立たない、誰からも必要とされていない。毎日早朝と昼過ぎに目が覚めて、でも外出はおろか、トイレやお風呂ですら起き上がるのがきつくて、もうこれは人間の生活ではないと思った。毎日消えたかった。精神安定剤を飲んで、悪夢を見ないために、寝るために、睡眠導入剤を飲んで、ひどすぎる生活を送った。

死にたいわけではなかった。死ぬのは怖かった。いろんな手段を調べたけど、うまく死ねる方法なんてなかったし、やっぱり死ぬのは怖かった。それに、私の家族は仲が良い。死んだら悲しんでくれる人がいる。だから生きるしかなかった。せっかく大学や大学院に行かせてくれて、一人暮らしまでさせてくれて、なのにこんな人間になってしまった。たくさんたくさん恩があるのに、親には何も返せていない。生きているだけでお金を消費して、本当ならあと少しで社会人として旅立つはずだった娘が、この歳になってうつ病になった。家族には申し訳ない気持ちしかない。だから、私が死ぬという悲しみは与えずに、ぽっと消えてしまいたかった。元々いなかったみたいに、誰も知らないうちに消えてしまいたかった。

存在意義なんて何もなかった。ありとあらゆる面で、私がいる意味なんて本当になかった。

そんななか、最近出会った人が本を紹介してくれた。正直、うつ病になった当初はそういう系統の本を読み漁ったし、でも結局私に合う考え方なんてなかったから、紹介してくれるのは嬉しいし心配してくれて申し訳ないけど、どうせ合わないと思っていた。だけど、その本は違った。確かに私と違うところもたくさんある人の本だったけど、悩みやきつい部分はぴたりと一致していた。

本には、生きるヒントがたくさんあった。お金を消費してるだけでも、誰かの生活の支えになれていること。コンビニでも普段の生活でも、誰かに優しくできたらお互い幸せになれること。そして相手はきっとその出来事を少しだけ生きる力にしてくれていること。食べ物を食べたってことは、ちゃんと生きたいって身体が思っていること。ちゃんと生きたいって思ってるなんて、もうそれだけで偉いということ。ほかにもたくさん。

それから、今日は外出しただけで偉い、コンビニの店員さんにお礼を言えた、美味しいものを買って自分に優しくできた、って毎日できたことを書くようになった。きついことも、どう考えれば乗り越えられるのか書くようになった。少しずつ前を向けるようになった気がした。

私は子供が大好きで、日頃からなにかしてあげられたらって思っていたけど、行動にうつすことはできていなかった。でもSNSでママさんアカウントの投稿を見ていたら、親御さんたちは意外と周りからの助けを待ってくれていることや、子供にはシールをあげる案があることを知った。だから、泣いている子供には親御さんに許可をとってからシールをあげるようになったし、荷物が多くて困っている親御さんには積極的に声をかけるようになった。ここにきて、中学生で生徒会役員をやっていたときのコミュニケーション能力が役に立った。

そして、少しずつ大学院に通えるようになった。今でも精神安定剤と睡眠導入剤は手放せないけど、精神科医にきちんと改善を認めてもらえて減薬が決まった。最高に嬉しかった。

修士二年生になった今の私の存在意義は、ちょっとしたことでも周りの役に立って相手を幸せにすること。そして、自分を幸せにすることである。

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コメント一覧

全3件
  1. schedule2023.08.07

    esuka

    martsunさん、コメント本当にありがとうございます。
    真面目過ぎるところと、いろいろな面で強すぎるところがおそらく原因で嫌われてしまいがちですが、高校以降は本当に人に恵まれていると思います。それが自分に起因しているかはわかりませんが、そう言っていただけて救われる思いです。

    ゆっくり、ゆっくり、少しずつそういう生き方に慣れていけたらなと思います。
    ありがとうございます。

    martsunさんがのんびり屋さんなら、私と足して2で割れたらよかったのに、なんて思ってしまいます!
    走りすぎてもゆっくりすぎてもそれぞれ辛い部分があるのなら、それはそれで受け入れて、でも少しだけ緩められるようにしながら、自由に生きればいいのかなあと思いました。幸せになれればそれでいい。

  2. schedule2023.08.07

    martsun

    あなたの一生懸命で誠実な人柄を、周りもみんな分ってるんですね。だからつまずいたときに手を差し伸べてくれる。あなたは悩む時も全力だから、思わぬ深みにはまってしまうのかも、と思いました。息を切らせて走ると、つまずいた時のけがも大きいから。
     ゆっくり深く息をして、ゆっくり歩く、そういう生き方を覚えてみると、意外な発見があるんじゃないかな、と僭越ながら思った次第です。

     もっとも、僕はあなたと真逆ののんびり屋なので、もう走っても人生の周回遅れを取り戻せないですが(笑)あなたの真っすぐさを見習いたいです。

  3. schedule2023.08.07

    martsun

    あなたの一生懸命で誠実な人柄を、周りもみんな分ってるんですね。だからつまずいたときに手を差し伸べてくれる。あなたは悩む時も全力だから、思わぬ深みにはまってしまうのかも、と思いました。息を切らせて走ると、つまずいた時のけがも大きいから。
     ゆっくり息をして、ゆっくり歩く、そういう生き方を覚えてみると、意外な発見があるんじゃないかな、と僭越ながら思った次第です。

     もっとも、僕はあなたと真逆ののんびり屋なので、もう走っても人生の周回遅れを取り戻せないですが(笑)

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